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第2話 雷神様に絡まれて

 フェルナース大陸を二分する大国の一つ、フォレストラ。その南部に広がるシルヴァルトの森を、俺が二人の仲間と一緒に訪れたのは、半年前のこと。そこで出会ったのが、ゴドロムをはじめとする神々――天空の都ソランスカイアに住み、地上に恵みと災いをもたらす不老不死の種族だ。

〈緑の迷宮(ラビリンス)〉とも呼ばれる鬱蒼とした森の中で、俺たちは神々と顔を合わせ、言葉を交わした。ある神様とは一緒に旅して、冒険して、互いに親しみ込めて「おっさん」「メリッ君」なんて呼び合ったが、別の女神様にゃ「逃がしませんわよ、フランメリック様」って命をつけ狙われ、戦う羽目になった。神にもいろんな奴がいて、俺たち地上の種族に対する態度や考え方も様々みてえだ。

 森の奥深くにある〈樹海宮〉って遺跡で因縁の仇敵を倒した後、神々とは別れたんだが……それから半年が過ぎたつい先日、フォレストラ東端の交易都市コンスルミラで、まさかの再会を果たしちまった。俺たちが訪れたとき、ちょうど隣国サンドレオの使節団を迎えて、和平についての話し合いが行われることになってたその町に、神々も来てたんだ。

 ところがどっこい、話し合いが開始からほどなく決裂しそうになり、俺たちゃフォレストラの王女様に加勢して、サンドレオの使節団を率いるレオストロ皇子と一戦交えることになっちまった。やれやれだぜ。

 ゴドロムはその際、俺たちにちょっかいを出してきた迷惑な神様だ。話し合いが始まった日に俺たちと将棋(チェス)の勝負をして、負けちまったのがよっぽど悔しかったらしい。こっちは〈獅子皇子〉なんて異名で呼ばれるサンドレオ帝国の皇子様と戦うので手一杯だってのに、仕返しとばかりに俺に稲妻を叩きつけてきやがった。

 幸い、そのときはどうにか難を逃れ、レオストロ皇子も退けることができたんだが……以来この神様ときたら、ずっと俺たちにつきまとって、何かと理由をつけちゃ絡んできやがるんだ。

 きっと、俺たちに隙あらば、すかさず稲妻をお見舞いしてやろうって魂胆なんだろう。勘弁してほしいぜ、ったく……!


「ところで小僧、貴様が見た夢のことだが」


 回想に浸ってた俺を、雷神の野太い声が現実に引き戻した。


「な、なんで知ってるんだよ? 俺が見た夢のことなんてさ」

「愚問よ、わしは神。貴様ら地上に住む者どもの心をのぞくなど造作もないこと。特に眠っておる者の心は無防備ゆえ、容易く奥底までのぞき込めるわい」


 こっちの不安を煽ろうって腹なのか。稲妻の神は、何もねえ宙に手を泳がせ、水晶玉にお客の未来を映し出す占い師みてえなしぐさをしてみせた。


「おうおう――見えるぞ見える、嵐に襲われるこの船が。甲板(デッキ)の上で乗客どもが慌てふためき、脱出用の小舟に乗り込もうと醜く争うておるわ。他人を押しのけ突き飛ばし、自分だけが助かろうとのう」


 俺が見た夢の中身を、すらすら語ってみせるゴドロム。その正確さときたら、驚くばかり。まるでさっきまで、俺と同じ夢を見てたかのようだ。

 俺の顔に驚愕の表情が浮かぶのを見て悦に入ったか、雷神はくふくふとくぐもった笑い声を漏らした。


「ふん、貴様らの姿も見えるぞ。三人そろって他の乗客どもに揉まれながら、なんとか小舟に乗り込もうとあがいておる。だが……おお、なんたることよ! 小舟にたどり着いたときには、空席はもう――」


 最後の一歩手前で語るのをやめ、神はにやりと笑いかけてくる。


「今宵見た夢が現実のものとなれば、貴様は一体どうするのやら。ぜひとも、その場を見物したいものよ。黄金の杯で、優雅に葡萄酒(ワイン)でも飲みながらのう」

「……神様ってのは……!」


 そうやって俺たち地上の種族をからかうのが、そんなに楽しいのかよ。

 怒りの言葉がのどから矢となって飛び出しかけるのを、必死にこらえる。

 ……落ち着け。下手に喧嘩腰になって、この神様に稲妻を振るう口実を与えちゃいけねえ。

 昔の俺なら、感情に任せて拳を振り上げてただろうが、今は違う。まだ冒険者になりたての頃――自分に降りかかった不幸を全部神々のせいにして、憎しみを募らせるばかりだったあの頃とは、違うんだ。

 ふつふつ沸き立つ怒りを懸命に抑えてると、


「メリック?」


 高く澄んだ声が、その場に響いた。


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