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第22話 別に、貴様らのためではないわ

 目と鼻の先まで迫ってきた海の大蛇。その口が大きく上下に開かれ、俺たちが乗る〈波乗り小人号〉に食いつこうとした――直後。横合いから飛んできた青白い閃光が、大海蛇の首筋を強か打ちすえた。

 ビシン! 猛獣を手なづける調教師の鞭みてえに、痛そうな音を立てて空気を震わせたのは、一筋の稲妻。その強烈な、しかも突然の一撃に、さしもの大海蛇もぐらりと巨体を傾けた。


「ふん……! 口ほどにもないのう、小僧。我ら神々に抗うなどとほざいておきながら、この体たらくとは。この程度の危機など、易々と切り抜けられずしてなんとする?」


 稲妻が飛んできた方へ目を向けりゃ、筏をつくってる間、姿を見てなかった神様が、のっしのっしと肩を揺らして歩いてくるのが見えた。


「ここはわしが引き受けるゆえ、疾く逃げ失せるがよい――そのちっぽけな筏に乗ってのう」

「ゴドロム、あんた……!」


 さっき話したときからこの神様のことは、横暴なばかりの奴じゃねえのかもって思うようになってたけどさ。「神を崇めよ。我らに救いを求めるのだ」って言われて拒否した俺たちを、助けてくれるなんて……正直、意外だぜ。

 何か、思うところでもあったんだろうか。


「すまねえ、ゴドロム……様。おかげで――」

「小僧、しばし待て」


 礼を言おうとした俺を、ゴドロムは片手で制し、


「貴様は引っ込んでおれ、おぞましき海の大蛇めが!」


 再び鎌首をもたげてきたヘッガ・ワガンにもう一撃、文字通り電光石火の速さで白熱の撥を叩き込む。

 鼻面に稲妻の直撃を受けた海神の眷属は、弾かれたように蛇体を反り返らせると、背中から海面にぶっ倒れ、盛大な水飛沫の中に姿を隠した。


「ふん……痴れ者が」


 邪魔者を黙らせた雷神は、くるりとこっちへ向き直り、


「勘違いするでない、小僧。別に、貴様らのためではないわ」


 と、偉そうにふんぞり返って、おっしゃりやがる。


「あの大海蛇め。いかにザバダの眷属といえども、このわしが乗っておる船を襲うなど、許されることではない。それゆえあやつには、わし自らの手で裁きの雷を下してやったのだ。ただそれだけのことゆえ、そう心得よ」


 雲衝く巨体を不器用に屈め、俺に太い人差し指を突きつけて「よいな?」って、わざわざ念押しする雷神様。決して俺たちを助けたわけじゃねえって言い張るその様子を見て、俺は――そばにいたデュラムに、そっと話しかけた。


「……なあ。なんで俺のまわりにゃ、こういう素直じゃねえ奴が集まるんだろうな?」

「なぜ私にそれを聞く?」


 自覚がねえのか、妖精(エルフ)の美青年は片眉を上げ、怪訝な顔して聞き返してくる。


「そりゃもちろん、お前がその素直じゃねえ奴の筆頭ってか、代表格だから……って、いででででッ!」


 どうも世の中、素直に答えすぎるのも考えもんなようで。最後まで言わねえうちに、真顔のデュラムにほっぺたをつねられ、ぐいぐい引っ張られる俺。


「……私のどこが素直でないというのだ? 言え――森の神ガレッセオと風神ヒューリオスにかけて、答えろ」

「ひぃででででで! おいサーラ、面白がって見てねえで、助けてくれよ!」


 魔女っ子に救いを求めるも、


「自業自得ね、あきらめなさい♪」


 と、さっぱりした笑顔で、すげなく断られちまう。


「ひ、ひでえなおい、あぁたたたた!」

「……貴様ら、まっこと仲が良いのう」


 そんな俺たちを見てたゴドロムが、何やらぼそりとつぶやいた。


「このわしが……うらやましくなるほどに」


 そう聞こえたのは多分、空耳じゃねえだろう。


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