第20話 筏づくり
こうして神々と一緒に筏づくりを始めた俺たちだったが、筏が完成するまでにゃ、いろいろあった。
まず、船倉にあった丸太を甲板へ運び出したんだが……ここで活躍したのが大地の女神トゥポラだ。俺とデュラムがそれぞれ両手で一本ずつ運ぶのがやっとの重い木材を、まとめて四本、左手で楽々と担ぎ上げ、まったく重さを感じてねえかのような足取りで、階段を上っていく。
途中、俺が一本運ぶのにも苦労してるのを横目で見て、
「…………貸しなさい、私が運ぶわ」
と、空いた右手を差し伸べてくれたが、俺は首を振り振り、遠慮した。
「あー、いいって! こいつは俺が運ぶから、あんたはその四本を頼むぜ、トゥポラ様!」
さすがにそこまで神に頼っちゃ、情けねえ。できることは、俺たち自身の力でやらねえと。
とはいったものの、神でも英雄でもねえ俺にとっちゃ、丸太一本運ぶだけでもなかなかの重労働だ。ずっしりと重く、ささくれ立った木材が、半年前にシルヴァルトの森で戦った三頭犬の牙さながら、肩に食い込む。甲板へ続く階段を一段一段上るうちに、全身からぶわっと汗が噴き出してきた。
しかもここは、ゆっくりとだが確実に沈みつつある船の中。浸水で傾き、波に揺られる船内じゃ、よろめいて丸太を落っことしそうになることもしばしばだ。
それでも俺は、苦労の末、三本の木材を甲板に運び上げた。デュラムも三本、サーラは二本運んだから、トゥポラが運んでくれた四本と合わせりゃ十二本。これだけありゃ、充分だろう。
「よっし。次は、筏の組み立てだな!」
丸太を運ぶのにずいぶん時間がかかっちまったが、筏づくり自体はそんなに難しい作業じゃねえ。甲板に運んだ十二本の木材を平行に並べ、その上に二本、細長い横木を渡す。そして、それらがばらばらにならねえよう、丈夫な縄できつく縛るんだ。
丸太を並べてる最中、森の神ガレッセオが俺に話しかけてきた。
「なぁ人間。こいつぁさっき、俺様が船倉で見つけたもんなんだけどよぉ。なんて言うかその、あちこちこんがらがって解けなくなっててよぉ。だから、そのぉ……」
そこから先は言いづらそうに、ちらちらとこっちに目を向け、様子をうかがってくる。
普段は自信満々で、余裕たっぷりって感じの話し方をするこの神様にしちゃ、歯切れの悪い口調だった。どうやら森の神様、丸太と横木を縛るのに使える縄を見つけてきてくれたはいいが、あいにくその縄は複雑に絡まってて、一人じゃ上手く解けねえようだ。
それなら「お前も手伝ってくれねぇかぁ?」って言ってくれりゃいいのにさ。ひょっとして、一人じゃできねえってことを知られるのが恥ずかしいのか。それとも、他人に手助けを頼んだことがねえんだろうか。
神話や伝説じゃ、全知全能――なんでも知ってて、自分一人でなんでもできるとされる神々の一人なのに、おかしな話だぜ。
「……? な、なんだ人間、なに見てやがる? 俺様の顔に、何かついてるのかぁ?」
俺が笑いをこらえてるのに気づき、むすっと眉根を寄せて、唇を尖らせてみせるガレッセオ。見た目は二十代の大人びた青年なのに、その表情は俺と同じ十代の子供みてえだ。
「ああ、いや、すまねえ。神様にも苦手なことはあるんだな、って思ってさ」
さっきゴドロムと話したときから思ってたことだが、神々ってのは強大な力を持ってる反面、不器用みてえだ。自分の気持ちを他人に伝えるのも、手際よく作業をするのも、あんまり得意じゃねえらしい。
実際、今も向こうで、サーラと水の女神様がこんなやりとりをしてやがる。
「あ、ちょっとチャパシャ様! そこはぐるぐる巻いただけじゃ駄目よ。しっかり縛っておかないと、あとで緩んじゃうんだから!」
「え~? 魔女さん、『縛る』ってなあに? チャパシャ、わかんな~い!」
「わかんないって……この縄が緩まないように、ここできゅっと結ぶのよ」
「結ぶ~? 魔女さん、『結ぶ』ってなあに?」
「……知らなかったわ。神様がこんなに世間知らずというか、常識知らずだなんて」
縄の縛り方、結び方もわからずきょとんとしてる水の女神様に、どう教えてやったらいいか、サーラも困ってるようだ。
「縛るっていうのは、その……ああもう! チャパシャ様はそこに座って、あたしがやること、よく見てて!」
おっ。どうやら、実際にやってみせることにしたらしい。
「いい? こうやって縄の輪をつくって、こっちの端を中に通すの。それからこう、輪がきゅっと、きつく締まるまで引っ張れば……はい、出来上がり♪」
「わあ♪ すごいすご~い! 魔女さん、ありがとう♪」
どうにか上手く教えることができたらしい。やれやれだぜ。
そんな微苦笑もののやりとりを遠目に見ながら、俺も森の神様が縄を解くのを手伝うことにした。
「ほら。こっちの絡まってるところは俺が解くからさ。あんたはそっちを頼むぜ、ガレッセオ様」
筏が完成したのは、それからほどなくのことだった。




