表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/62

第19話 人生楽しんでるかぁ?

 探索の途中、浸水のためか、船体がギシギシと嫌な音を立てて、右へ傾き始めた。


「おわっととと!」


 よろめきながらも、どうにか均衡(バランス)を保って踏みとどまる俺。


「……大丈夫か?」

「心配いらねえ、ちょいとよろけただけだって!」


 背後から声をかけてくるデュラムにそう答えながら、俺は目の前の重厚な大扉に手をかけた。


「さてと……残るはこの部屋だけだな」


 ここまで急ぎ足で見てきた船内にゃ、中を空にすりゃ水に浮く木箱や樽がいくつかあった。けど、木箱にしがみついて冷たい海を何日も漂流するなんてことは、できればしたくねえ。樽に入って、顔だけひょこっと出した状態で昼夜波間を漂うなんてのも、なんだかみっともねえし……他に選ぶ道が見つからねえときの、最後の手段ってことにしよう。

 この大扉の先にある部屋で、他に何か、もっと脱出に役立ちそうなもんが見つかるといいんだが……。


「開けますよ、サーラさん?」

「ええ、デュラム君」

「メリック、貴様も手を貸せ」

「おう。それじゃ、二人で同時に……せーのッ!」


 ギギギッ。四分の一ほど水に浸かった扉を押し開けりゃ、そこは積み荷の木箱がところ狭しと並ぶ船倉だった。もっとも、俺たちの目を惹いたのはそれらの木箱じゃなくて、


「わぁ~い(シルク)だ~♪ (シルク)(シルク)~♪ ポラちゃん、ガルちゃん、見てこれ! 触るとすべすべしてて~、気持ちいいよ~♪」

「…………見なさいパシャ。こっちの箱にも(シルク)がぎっしりだわ。私はこの色柄の方が、そちらより好みだけれど、あなたはどう?」

「へっ、ったく……パシャとポラ姐の(シルク)好きは相変わらずなんだからよぉ。お、こっちの箱の中身は陶磁器かぁ。このしっとりとした艶、緑がかった淡い青。いい仕事してるぜぇ!」


 と、木箱のふたを開けて、賑やかに騒いでる神々だった。

 さっきから姿が見えねえと思ったら、こんなところにいたのかよ。


「……お? よぉ人間、人生楽しんでるかぁ?」


 森の神ガレッセオが俺たちに気づいて、陽気に笑いかけてくる。

 お互い沈没間近の船に乗ってるってのに、なんて質問してきやがるんだ、この神様は。


「楽しんでるどころか、俺たちゃ今、人生の崖っぷちに立ってるんだよ! ってか、あんたらここで、何してるんだ?」

「へっ。見りゃわかるだろぉ、そんなもん。この船の積み荷を拝見してるんだ。面白いもんはねえかってよぉ」

「火事場泥棒ならぬ、難破船泥棒ってわけね」


 危機感の欠片もねえ返事を聞いて、サーラの奴が呆れ顔で言う。


「泥棒? いや、別に拝借しようってわけじゃねぇ、こうして見てるだけだぜぇ。お前ら地上の種族がつくる品にゃ、いろいろと面白いもんがあるからなぁ。どれだけ見てても飽きねえし、退屈しのぎにゃぴったりなんだよぉ」

「退屈しのぎ、か……」


 やれやれ。こんなときでも呑気にしてられるなんて、神々ってのは本当にうらやましいぜ。

 そんなことを考えてると、


「…………そこの人間。少しいいかしら?」


 いつの間にかそばに来てた大地の女神トゥポラが、ちょんちょんと俺の肩を突いてきた。

 振り向くと、目の前に女神様の端整だが無表情な顔があって、ぎょっとした。思わず二、三歩、勢いよく後ずさっちまう。


「げ、トゥポラ様! あんたいつの間に、こんな近くまで……?」

「…………様はいらないわ」


 抑揚のねえ平坦な声で、ぼそりとつぶやく女神様。


「…………それより貴方たち、探しているのでしょう? ここから逃げるのに、役立ちそうなものを」


 人間の創造主である大地母神は、俺たちがここへ来た目的もお見通しのようだ。


「…………それなら、あの木は使えないかしら?」


 神代の昔、粘土をこねて最初の人間をつくり上げたという女神の手が、すっと持ち上がった。水で練った土塊に人の姿形を与え、命を授けた指が、船倉のある一点を指し示す。

 トゥポラが指差したのは、船倉の奥に積まれた丸太だった。


「この香りは……レヴァン杉だな」


 デュラムが歩み寄って、言う。

 レヴァン杉ってのは、王侯貴族が宮殿の柱や城の梁、家具なんかに好んで用いる高級木材だ。確か、コンスルミラを治める巨漢の鬼人(トロール)、ナボン太守の館にも、ふんだんに使われてたっけ。


(いかだ)をつくるのに、ちょうどよさそうな大きさね」


 そう言ったのは、サーラだ。


「筏? そっか……その手があったか!」


 確かに、長さといい太さといい、三人乗りの筏をつくるにゃ、ちょうどいい感じの丸太だ。

 問題は、そんなもんをつくるだけの時間が、俺たちに残されてるかってことだが。


「手伝うぜぇ、人間」


 どうしようか迷ってると、森の神が気軽な調子で声をかけてきた。


「人手は多い方がいいだろぉ? 退屈しのぎに俺様が手ぇ貸してやるから、感謝しなぁ!」

「へ? 手を貸すって……筏をつくるのに、ってことか?」


 ガレッセオの意外すぎる申し出を聞いて、自分の目が丸くなるのを感じた。


「他に何があるってんだぁ? いいからさっさと取りかかろうぜぇ!」


 森の神様がこっちの返事も待たず丸太に手をかけると、水の女神様も乗り気のようで、うきうきした様子で俺のそばへ飛び跳ねてくる。


「ねえねえ、人間さん、お船つくるの~? 面白そうだから~、チャパシャもまぜて、まぜて~♪」

「…………パシャ。船ではなくて、筏よ」

「あん! ポラちゃん、そういう細かいことは気にしないの~!」


 なんだか、神々が筏づくりを手伝ってくれるみてえなんだが、さてどうしたもんか。

 俺個人としては、連中の助けを借りることに対しちゃ、ためらいがある。神々が定めた運命に抗うって決めておいて、困ったときは掌返すように神に頼るなんざ、身勝手ってもんだろう。それに俺たちゃ、ついさっき雷神様の前で、神々の助けは当てにせず、自分たちでなんとかするって豪語してきたわけだしな。できることなら、俺たち三人だけでやり遂げてえんだが。

 ただ、今は神の手どころか猫の手も借りてえ状況なのは、紛れもねえ事実だ。意地を張って命を冥界へ落っことしちゃ元も子もねえし……どうするかな。


「……手伝ってもらいましょ、メリック」


 迷ってる俺の背中を、サーラがぽんと後押しした。


「こっちから助けを求めたわけじゃなくて、あっちが手を貸してやるって言ってるんだから、別にいいじゃない♪ それに、借りはいつか返せばいいでしょ?」

「そりゃ、こっちに都合のいい理屈じゃねえかと思うんだが……」

「今は助かること、生き延びることだけを考えろ。他のことは、後回しでいい」


 デュラムの奴も、サーラに賛成みてえだ。


「……そうだな。確かに、今は四の五の言ってられる場合じゃねえか」


 正直なところ、胸の内にゃ、まだもやもやしたもんが残ってる。けど、今はこれ以上自分の気持ちにこだわって、デュラムとサーラを危険にさらすわけにゃいかねえ。ここは、あれこれ迷ってる場合じゃねえだろう。

 この船が沈む前に、さっさと筏をつくって脱出するぜ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ