第11話 嵐が来ますぞ!
海賊の首領シャー・シュフィックと共にお目見えした魔法の武器――〈チャナタイの魔弾〉の威力は凄まじかった。海賊たちが、こんな恐ろしい武器を持ってるなんて、驚きだぜ。
「そら、おめェら撃て! 撃って撃って、撃ちまくれ!」
シュフィックに命じられるままに海賊たちが投石機を操り、〈魔弾〉をどんどん撃ち込んでくる。東方の国チャナタイの錬金術師によってつくられたという秘薬入りの壺が、一つ、また一つと爆ぜる度に、炎がふくれ上がるように激しく燃え立ち、こっちの甲板に大穴を穿った。
半年前に〈樹海宮〉で見た、神授の武器〈焼魔の杖〉が放つ火の玉と比べても遜色ねえ威力だぜ。先日コンスルミラで火の神メラルカと戦ったとき、奴が繰り出してきた炎の渦にゃ多少見劣りするが、それでも俺たち地上の種族が使う武器としちゃ、その破壊力は桁外れ、まさに魔法の領域に属するもんだ。幸いこっちの船乗りや姫さんの手勢にゃ、今のところ死者は出てねえようだが、この先、果たしてどうなるか。
「……! メリック、大変だわ。あれを見て!」
「なんだよサーラ、一体どうしたんだ……って、げっ!」
魔女っ子が指差した方を見て、愕然とした。シャー・シュフィックの手下たちは、船内から次から次へと〈魔弾〉を持ち出してきて、投石機の傍らに山のように積み上げてやがる。
「なんてこった。一発くらっただけでも、こっちの船にゃ大損害だってのに」
「あれだけの数を撃ち込まれたら、まずいわね」
サーラの奴が、強張った顔してつぶやく。
「ああ、違いねえ」
なんとかしねえとこのままじゃ、死神に手を引かれて冥界行きの舟に乗せられる奴が次々と出てくるだろう。かく言う俺自身、それにデュラムやサーラ、姫さんだって、あの異様な燃え上がり方をする炎をくらわずに済むって保証は、どこにもねえわけで――。
「おいあんた、ずるいじゃねえか! 魔法の武器を、そんなにたくさん持ってるなんてさ! 一体どこで、どうやって手に入れたんだよ?」
積み荷の陰に隠れ、顔だけひょこっと出した俺の抗議を聞いて、海賊の大将が初めてこっちを見た。冬の海を映してるかのように冷たい瞳が、じっとこっちを見つめ、
――あァ? 誰だおめェ?
って問いかけてくる。
「……炭のように黒い髪、炎のように赤い瞳。ああ、おめェがフランメリックか。メル坊から話は聞いてるぜ。半年前に〈樹海宮〉って遺跡で、カリコー・ルカリコンとかいう魔法使いをぶちのめして、そこのお姫サマを助けたらしいな。それについ先日は、コンスルミラでサンドレオ帝国のレオストロ皇子と戦って、あの負け知らずの〈獅子皇子〉サマに一泡吹かせたそうじゃねェか。まだ十八かそこらの坊主だってのに、大したもんだぜ」
「メル坊から……話を?」
「そりゃ誰だよ?」ってたずねようとしたが、シャー・シュフィックは俺みてえな小僧と話すのに長い時間を費やすつもりはなさそうだ。あの海賊の大将、すぐそばで投石機を操作してる手下たちに声かけて、俺に向かって顎をしゃくりやがった。
――次は、あの坊主を狙いな。
そんなことを命じる声が、聞こえた気がするぜ。
「「合点、承知!」」
果たして手下たちは、こっちに狙いをつけてきやがった。
「……! やっべえ……!」
間抜けなことをしたもんだって、遅まきながら思った。飛び道具を持ってる敵に、迂闊に声をかけたりすりゃ、的にされるのは目に見えてるだろうに。
逃げねえと、殺られる……!
死神の冷たい吐息が、はあっと首筋にかかるのを感じた、そのとき。
「おわっ!」
それまで大して揺れることもなかった船が、不意にぐらりと揺らいだ。
今までずっと穏やかだった海が、急に荒れてきたらしい。大波が船腹に打ち寄せ、俺たちが乗る〈波乗り小人号〉だけじゃなく、海賊たちの〈海神への復讐号〉まで、容赦なく揺さぶりやがる。
「これは一体……? 海神ザバダが、機嫌を損ねでもしたのかっ?」
「姫様、東をご覧ください」
そう言ったのは、敵の返り血にまみれたコロポ船長だ。
「あの空模様、じきに嵐が来ますぞ!」
「なんだとっ?」
言われてみりゃ、確かに。朝から雲一つなかった東の空に、暗雲が立ち込めてきてる。風も強まってきて、死期が近い人間の息遣いみてえに、ひゅうひゅう不吉な音を立ててるぜ。
「あんたの仕業かよ、ゴドロム」
そばでふんぞり返ってたゴドロム――嵐を呼び寄せ、意のままに操るとされる荒天の王に、疑惑と非難の目を向ける俺。だが、意外にも雷神は、かぶりを振った。
「嵐を引き起こす力を持つ神は、わしだけではないわ。わしの弟である風神ヒューリオスと、従兄弟の海神ザバダ、それにザバダの眷属である、あの怪物めも……おぉっ?」
ゴドロムが言い終わらねえうちに、また船が大揺れした。さらに、その直後――。
黒雲集まる東の空の下で、突然海面が大きく盛り上がり、馬鹿でかい何かが、海中から天を衝き上げる勢いでそそり立った。
「……岩山、かしら?」
「いや、岩山じゃねえ」
自分の顔がさあっと青ざめるのを自覚しながら、つぶやく。
「あれは……蛇の頭だ!」
そう言った俺自身、信じられない思いだが、間違いねえ。祈りの時を告げる神殿の鐘みてえな形をした、一見岩山のようにも見える物体。その全体を覆い尽くしてるのは、玉虫色の鱗だ。頂で潮を吹き上げてるのは鼻で、その近くから麓へ向かって走る裂け目は口、中腹で輝く一対の黒真珠は瞳。そして……裂け目に沿って生え並ぶ無数の剣は、牙、牙、牙だ。
「海蛇ですって? じゃあ、あれはまさか……?」
「……ヘッガ・ワガンだ」
サーラのせりふを、姫さんが途中で奪った。
「海神ザバダの眷属――七つの大海を支配する、海蛇の怪物だ!」




