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7話 魔力操作

 屋敷の数m手前で降ろされた俺とハチは徒歩で敷地内へと向かった。敷地の周囲には1m程度の柵が設置されており、支柱の頭部分には等間隔で不思議な形をした飾りが取り付けられている。

 敷地に入った途端に外との雰囲気が別物に変わっている様な感じがしていた。 


「お邪魔します~」


 まだ庭に入っただけなのだが、相手に聞こえなくても挨拶はしっかりと行っておく。


 中に作られている花壇は色取り取りの花が咲き、見ているだけで心が暖かくなる。熱心に手入れされて居なければこの状態は維持できないだろう。そのまま中庭を進み屋敷に近づいていると屋敷のドアが開いた。


「お客様なのですかぁ?」


 すると屋敷から小さな女の子が出てきた。身長は135cm前後で茶色い髪をまん丸おさげを左右にまとめ、頭の中心には白い帽子を被っている。年は俺より若い様に見えた。

 服装はメイド服、髪と同色を基調とした白と茶色いコーディネートだ。


 女の子は俺を見つけるとテクテクと歩いて近づいてきた。そして立ち止まる俺の周りをクルリと回りながら観察していく。


「もしかして……カーラ様が言っていた人間の人なのですか?」


「あっはい。青山祐介といいます。ガランさんに言われて此処へきました。カーラさんはいらっしゃいますか?」


「やっぱりそうなのです。メイは初めて見た時から解ってましたよ。カーラ様もお待ちしております。どうぞ屋敷の中へ」


 どうやらこの女の子の名前はメイと言うようだ。自分の予想が当たっていたから上機嫌そうだ。

 屋敷の中へ入ると客間へ通された。メイはメイドらしく俺にお茶を出した後、カーラさんを呼びに部屋から出ていく。

 

 客間には対面式のソファーが置かれソファーを挟む形でテーブルが設置されていた。一人になった俺は取り敢えずソファーに座り膝の上に乗せたハチの頭を撫でて待つ事にする。

 しばらくすると、ドアがノックされ、一人の美しい女性が姿を見せた。


(この人がカーラさんか……。綺麗な人だな。金髪の長い髪に長い耳を持っている。小説によく出てくるエルフってのも彼女みたいな人を言うのかな?)


 初めて見るカーラさんに見惚れていると、膝の上に座っていた。ハチが俺の手を軽く噛んだ。


「痛っ! ハチ何するんだよ」


「アン。アン」


 ハチは俺の膝の上からソファーの前に置かれていたテーブルに飛び乗ると、カーラさんに向かって威嚇を始める。


「ハチ、何を吠えているんだ? やめろって!! カーラさんですよね? どうもハチが……すみません」


「いや、大丈夫じゃが。ワシは銀狼殿に対して何か気に障る様な事をしたのじゃろうか?」


「いえ単にコイツが吠えているだけです。気にしないで下さい。」


 腕を組み片腕を顎に当てて考えていたカーラは、力づくでハチを抱え込む祐介の慌てる姿を見て、フフっと声を出して頬を緩めた。


「それにしても元気になってなによりじゃ。体調はどうじゃ?」


 そう言いながら対面のソファーへと腰を掛ける。仕草一つ一つに余裕が感じられる。大人の女性と言う感じだ。


「はい、体調は良いです。病気を治して貰ったみたいで、有難うございます」


「気にするでない。腐れ縁に頼まれたからな、これで奴にも大きな貸しを作る事ができた」


 メイが出したお茶を飲みながら、カーラさんは答える。奴と言うのはきっとガランさんの事だろう。


 その後、互いの挨拶を済ませた、俺はガランさんに言われて此処へ来た事を告げた。


「ガランさんが言っていたんですが、俺の体に問題があるって……それはどう言う事なんですか? カーラさんに直接聞くように言われた来たのですが」


「うむ、まずはその件から説明するか……」


 カーラさんは俺の症状を詳しく説明してくれた。そしてどうしてハチが小さくなったのか? 魔力が作れない俺がこの世界でどれだけ弱い存在なのかを知る。


「ショックじゃろうが、今まで生きてこれだだけでも凄い事じゃ。自身の立場が解った今、これからの事を考える方がいいじゃろう」


 話を聞き終えて、ショックと言えばショックだが。

 そりゃ異世界に飛ばされて来たんだ。仕方ないと納得もできる。

 けれど苦境など今まで何度も体験してきた状況が解ったなら、その状況下で最善を尽くすしかない。俺と親父が死亡寸前のエンジンを何度も復活させる事が出来たのも、最善を尽くして来たからだ。


 その為には情報の整理が必要で、俺はカーラーさんに話を伺う。


「じゃ、これから俺は魔力を貰い続けないと死んでしまうって事ですよね?」


「そうじゃな」


「カーラさん、一度魔力を貰うと次は何時間後? それとも何日置きに魔力を貰えばいいんですか?」


 俺はこれからの事を考えて訪ねてみる。魔力の供給元はハチしか居ない。今は小さくなっているが、このままでも魔力が貰えるのか? 気になる事は多い。


「それは、祐介殿の魔力貯蔵量によって決まるから一概に答えるのは難しいのう。今はまだ十分に魔力が残っておる様に見える。今のままでも一日以上は持つじゃろう。けれど魔力操作が出来れば供給を受ける期間も延ばす事が出来る」


 そう言うと、カーラは自身のコップにお茶を満タンに注ぎ片手で持ち上げた。

 次に残った手の指先に魔力をまとわせ、コップの底に2つの穴をあける。

 当然、コップに注がれたお茶は穴からこぼれだす。


「お主の状態はこのコップと同じなのじゃ。注がれた魔力を垂れ流しにしておる。けれど必要な量だけ魔力を出すと、魔力の減る量に差が出てくる」


 カーラは2つの穴の一つを指で押さえる。お茶が減るスピードは穴が塞がれた分、半分となっていた。


「要は魔力操作を覚えて、ハチから貰った魔力を効率良く使えば供給の回数が減るって事ですね」


「うむ。理解が早いな。同じ事をガランの奴に説明しても理解しておらぬようじゃったからな」


「俺としても、ハチにばかり頼るのはどうかと考えていました。今のままじゃ、ハチはずっと小さいままですしね。俺は出来る限り自分の力で、生きる様になりたい」


「やる気はあると言うことじゃな?」


 カーラーさんはは鋭い視線を俺に向けてくる。


「教えてくれるのなら、覚えたいですが」

 

 俺もその視線から背けずに答えを返した。これはこの世界から来てずっと思っていた事。自分の無力さが腹ただしく思っていた。

 ハチとずっと一緒にいるのは願っても居ない事だが、今の俺は弱すぎる。ハチが無理しているとずっと思っていた。


 俺の意思を確認したカーラさんは重い息を吐くと一つの条件を提示してきた。


「ふぅ、魔力操作をお主に教える事は簡単なのじゃが、それには一つ条件があってな……」


「条件ですか? ただで教えて貰うのも気が引けるので、出来る事ならやりますが」


 確かに何から何まで世話になりっぱなしは気が引ける。自分が出来る事なら何でもやると瞬時に決意していた。


「魔力操作を教える条件。それはお主に付き従う銀狼の事じゃ」


「ハチの事?」


 条件にはハチが必要? その言葉に俺は反応していた。ハチの力は実際に見ていたし話にも聞いている。そんなハチの力を欲しがる者達が多いだろうと言う事はすぐに予想される。


 彼女もまたハチの力を欲しがる人の一人なのだろうか? 俺は警戒心を露わにする。


「そう身構える必要はない。条件と言うのは銀狼が、今後我ら魔族に対して敵対しないと言う事。ただそれだけじゃ。先の大戦で銀狼は我ら魔族と敵対しておる。今後、再び人間達が襲って来たとしても、人間側として手出ししないと約束して欲しい。それだけ銀狼殿の力は強大という事」


 理由を聞けば、普通の事だった。自分達を傷つけないなら助ける。それは当然の要望だと思う。

 俺としても、命を助けて貰った人達を傷つけるつもりも無く。2つ返事で了承する。


「そう言う事ですか……それなら大丈夫です。お約束します。俺達はどちらの力にもなりません。ハチもいいだろ?」


「アン。アン」


 元気に吠えるハチもちゃんと理解してくれている。


「それでは、お主達は今日からこの屋敷に住み魔力操作を覚えて貰う。もちろん食事などは提供させてもらうから気にしなくてよい」


「よろしくお願いします!!」


「うむ、ワシに任せるのじゃ!」

 

 勢い良く立ち上がり、深々と礼をする。俺の姿勢を見てカーラさんも満足そうだ。

 こうして俺は異世界で生き抜く新しい力として魔力操作を覚える事となった。

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