12話 魔法
屋敷に帰った俺達は貰った燻製肉をメイさんに渡し、その後カーラさんの部屋へと向う。その理由は村の人が魔獣に襲われた事を報告する為。
今まで森で魔獣に出くわした事は何度もあるが、その都度報告している訳じゃない。けれど俺はハンスさんが言っていた、見たこともない魔獣と言う言葉に引っかかりを覚えていた。
「そうか……村の者が世話になった様で感謝する」
「いえ、それは俺も皆さんに助けて貰っていますので、気にしないで下さい。それより、ハンスさんが言っていた見たことの無い魔獣の件は?」
「うむ、ワシも近い内に一度森に入って見た方がいいじゃろうな。森の中で何かが起こって居るやも知れぬ。お主は銀狼殿が着いておるゆえ、安心と言えば安心じゃが……。保険は掛けて置いたほうがいいじゃろう。身体強化の魔法も十分使いこなしておるし、魔法を覚えてみる気はあるか?」
「魔法‥…」
その言葉に心臓が撃ち抜かれた。誰でも魔法が使えると理解れば使ってみたいものだろう。それは俺も同じ、二つ返事で魔法を教えて貰う事を決めた。
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「魔法には6属性が存在している。火、水、木、風、土、光じゃな。誰でもどの属性を使えると言う訳じゃなく。自分の魔力に在った魔法が使えるとされている。ワシの様な魔道士になると2属性以上使える者が殆どじゃ」
魔法の訓練を開始し、最初は魔法の座学を教わる。
「それじゃ、魔力を貰っている俺の属性はハチの属性と言う事ですか?」
「そう言う事になるじゃろうな。銀狼殿以外の者から魔力を供給されれば別の魔法が使えるかもしれぬな……。銀狼殿はガランの砦で火を吐いていたと聞いておる。なのできっと火属性が適正じゃろう」
「火の魔法ですか……」
火の魔法。俺が見つけた新しい魔力にも合いそうな気がしていた。
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座学が終わると、中庭で実践練習が始まる。まずは手本としてカーラさんが実演してくれている。
「魔力を一箇所に集めて、一定以上の魔力を凝縮させる。集めた魔力の中心で火のイメージを作り出す。その時に詠唱などを利用すれば、イメージを固定しやすくなるぞ」
カーラさんは手の平に魔力を集めその魔力から炎の弾を作り出して前方へと飛ばす。火の玉は数m先の地面に当たると細かく砕け散り、周囲の草を焦がしていた。
目の前にで実践された魔法には驚きを隠せず。手を叩いて拍手を送る。
「まぁ最初は難しいかもしれぬが、慣れるしかない。兎に角一度挑戦してみる事じゃ」
「解りました、一度やってみます」
俺は目を瞑ると両手を突き出し、魔力を循環させて行く。次に手の平の場所で魔力を溜めた。
(こんな感じかな? 次は火をイメージしてと……)
集めた魔力に向かって火のイメージをぶつけてみたが、魔力が火に変わる事はなかった。
(やっぱり難しいな。もう一回)
何度か繰り返してみたが結果に現れる事は無く。一度として成功しない。
「切っ掛けを掴むまでが難しいからのぉ。強化魔法には驚いたが、流石に属性魔法も同じ様には行かぬか……。ワシは一度屋敷に戻っておるから、今日は魔力に火が灯る練習しておくといい」
そう告げたカーラさんが屋敷に帰った後も俺は必死で練習を続けた。けれど結果は全て同じだ。
「うー。行き詰ったぞ。違うアドバイスが欲しいけど、カーラさんも居ないしな……」
そう考えていると、近くで走り回っていたハチに目に移る。
「そうか、元を正せば俺が使っている魔力もハチの魔力だし、ハチに聞いてみるか!!」
俺はハチを呼び寄せると、人間の姿になってもらうように頼んでみる。ハチは魔力を纏わせ少女の姿になってくれた。
「わっ。そうか!! 人間になると服着てないんだった」
すぐに上着を脱いでハチの頭上からスッポリとかぶせる。人化したハチは少女の姿で背も低いので俺の上着をきると、お尻まで隠れる。その事を確認すると安堵のため息をつく。
「これでやっと安心できる。飼い犬で欲情したら俺は自分自身を許せなくなるからな……」
心底そう思う。ハチは恥ずかしがる事もなく、ジッと俺の姿を見つめてていた。
「ハチ、お前はその姿で炎の魔法使えるの?」
「うん……。大丈夫だよ」
「使ってみてくれない? それで炎の魔法を使うコツを教えて欲しいんだ」
「わかったー!!」
ハチは90度回転すると大きく息を吸い込み、力強く吐き出す。吐き出す息は物凄い業火として吐かれている。近くに居るだけでもその熱量で何歩か後ずさるほどだった。
「やっぱり。ハチは凄いなー」
「えへへ」
ハチは嬉しくて蕩けるように顔を崩し目を細めていた。更に俺が頭を撫でてやると、尻尾が高速で動き出す。
「それで、どうやって炎をだしてるんだ?」
「んーっとね。お腹の中でグワッと燃やすの……」
何とも抽象的な答えだ。けれど犬のハチにしては一生懸命答えているんだろう。
「要するに体内で炎に変化させているって事か……」
次にステップに進む為には、この問題をどうにか克服するしかない。俺はアプローチの方法を変えてみる事にする。
俺が抽出している魔力は燃料と仮定し、その燃料に火をつける。仕組みは圧縮着火。
ディーゼルエンジンはディーゼル機関とも呼ばれる内燃機関である。シリンダー内で空気を圧縮させて高温化させ、そこに燃料を加えて爆発させる。そのパワーを駆動伝える事で凄まじいトクルを生み出す。その原理を利用する。
まずは手を握り魔力で覆い。手の中を密閉空間に仕立て上げる。そして魔力を最大限に循環させながら魔力の力で圧力を上げる。一定以上の圧力を上げた所で圧縮した空気を魔力で包み込み放出させた。
ドッカーン!!!!
イメージ通りに作り出した圧縮空気弾は数mほど飛んだ後大爆発を起こす。
2重にコーティングされた魔力と混ざり合った為だろう。圧力を掛けられた空気はコールタールの魔力で包んでいた。その上にディーゼルの魔力で更に包む。コールタールの魔力は良い所を殆ど絞りっ取った後の劣化魔力。圧縮空気に触れても爆発はしない。けれどその周りにディーゼルの魔力で包こむ事によってコールタールとディーゼルの2つの魔力が混ざり合い濃度が中和され。圧縮加熱空気と触れ合って燃焼した結果だった。
「うわぁぁーーー」
その爆風で俺の身体も後方へと投げ飛ばされる。2、3回転転がり両手を付いて勢いを止め、前を見てみると、爆発の影響で庭の形が変わっていた。
「まさか、こんな事になるなんて……」
隣を見るとハチが元の姿に戻り、俺の影に隠れて蹲っている。見た所怪我もないようで、ホッと息をはいた。
「何事じゃ!!!」
屋敷の中から、カーラさんとメイさんが飛んで出てきた。すぐに中庭の惨状を見て呆然と立ち尽くす。
「すみません!! 魔法の実験をしていたら……」
父から教わった土下座を披露しながら、爆発の原因を話す。
「また、祐介殿か……お主がやる事はワシを驚かせる事ばかりじゃのう」
「お庭が……私が毎日手入れをしている、お庭が……メチャクチャに……」
失笑するカーラさんと泣きそうになっているメイさん。
俺は何度も頭を下げて許しを請うしかなかった。




