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1話 秋田犬ハチ

 眠りから目覚めると、目の前には赤い瞳の美少女が裸体をさらけ出し、シーツの上で四つん這いの状態で俺の上に乗っかかっていた。

 髪は銀髪で腰に届くほど長い。頭には犬耳が2つ、お尻には長く綺麗な毛並みをしている尻尾がユラユラと左右に揺れている。

 見た目は13歳前後で細身の体をしており、胸の方は…… これからに期待したい。

 少女は俺と目が合うと少し頬を赤らめながらゆっくりと距離を縮める。

 それは息と息が触れ合う位に近い。


「ゆーすけ…… 起きた? じゃぁ今日もいっぱいあげるね」


 そう告げると、瞳を閉じ、そっと口づけを始めた。少女の唇は暖かく柔らかい…… そして何より甘い味がする。


「……んっ」


 少女は濃密な口づけを終えると、蕩けるような笑みを浮かべた。


 まさか、これが異世界に来てからの日課となるとは……


「今日はちょっと、長くないか?」


 今だ感触が残る唇に指を添えながら、俺は少女へ声を掛ける。


「そんな事はない。これは治療行為…… 手を抜くとゆーすけ死んじゃう」


 頬をムッと膨らませ、少し拗ねている。


 俺は青木祐介。異世界に飛ばされた俺は、この美少女から魔力を受けなければ死んでしまう。異世界で最も弱い弱者であった。 



------------------------------------------


 あれは中学3年の夏休み。

 35度近くまで気温が上がったスレート造りの工場の中で、俺と親父が大粒の汗をながし自動車エンジンの修理する音が鳴り響く。喉がカラカラに乾くのをクーラーボックスから取り出した冷えたお茶を流し込み水分を補給する。


 親父は自動車好きが幸を制して、競争率の高い世界トップクラスの自動車メーカーに就職し、様々な技術やノウハウを覚えたのち夢であった自分の会社を立ち上げた。


 規模は小さいが優れた技術が認められて、特殊なエンジンを任される様になる迄そう時間は掛からず。

 そんな親父の背中を見ていた俺も小さい時から玩具代わりに機械を弄りを始め、自然と親父と同じ道を目指す様になる。


 その結果、今では学校の休日に仕事を手伝えるまで腕をあげた。


「祐介、ちょっと早いが今日はこれで片付けるぞ。俺はこの後、義信の所に行くからな。久しぶりに飲む約束をしたんでな」


 義信と言う人は親父の親友で親父が辞めた自動車メーカーで今でも働いている人だ。独立する時やその後も頻繁に親父を助けてくれたらしく、今でも御得意様として大型エンジンなどの修理を依頼してくれたりもする。


「暇ならお前も来るか? また珍しいエンジンの話が聴けるかもしれないぞ」


 世界トップメーカーで扱っている世界最高水準の話が聞ける!? 大きな餌をぶら下げられ俺は瞬時に食い付いた。


「えっ! いいの? じゃあ行くよ」


 しかし家に着いてみると、そこは修羅場となっていた。


「悪い、少し前にハナが破水してもう子供が産まれそうなんだ。突然だったもんで連絡できなかった。予定日はもっと先の筈なんだが……」


 義信おじさんはそう謝ると、ハナの元へと駆け出した。

 ハナとは義信おじさんの家で飼っている犬の名前だ。秋田犬で妊娠している事は以前から聞いてはいたが、俺と親父は偶然にもハナの出産に立ち会う事となった。


 初めて見る出産と次々に産まれる可愛らしい子犬達。

 その愛くるしさに心が奪われる。

 俺が感動して見ていると、最後に産まれた八番目の子犬を見て目を指でこする。


(ん? 何かこの子犬光ってる?)


 目を細めて見ても薄っすらと光る子犬の姿が目の前に存在していた。


「親父、今生まれた子犬って何か光ってね?」


 自分でも馬鹿な事を聞いているとは思う。けれど実際光って見えているのだ、自分の正しさを実証するには他人に確かめる他ない。


「何言ってんだ? 犬が光る訳がないだろう?」


 親父は軽くそう流し、義信おじさんと何やら楽しそうに話し始めた。

 俺だけ銀色に輝いてみえる子犬。凄く綺麗で強い力を感じる。


 信じられない事にその子犬は産まれたばかりだと言うのに、ジッと俺を見つめていた。


 気のせい? 違うきっとこいつも俺を求めている。


 次の瞬間、自然に……いや必然的に俺は義信おじさんと親父へ必死に頼み込んでいた。


「俺が最後に産まれたこの子犬を飼いたい!!」


 これが俺とハチの運命の出会い。

 そして俺の途轍もない冒険の始まりだった。


--------------


 産まれた子犬はハナの八番目の子供と言う意味でハチと名づけた。

 毛色は混じりっけの無い純白で産まれたどの子犬よりも可愛らしい顔をしている。

 俺の方は髪は天然でゆるい癖毛が入っているのでお世辞にも髪は奇麗とは言えない。ハチの毛の方が数倍綺麗だ。ハチに気を使っている訳じゃないが日頃は短く切って目立たない様にしていた。


 ハチが光っていたのは少しの間だけで、家に連れ帰る時には普通の子犬と同じだった。

 ハチは俺に良く懐き、当然俺も精一杯ハチの世話を続けた。共に飯を食い共に眠る。何処に行くにも一緒。俺にとってハチは家族そのものと言える存在になっていた。ハチも俺の愛情を受けて俺達の間には深い信頼関係が築かれていく。

 

 けれどハチを飼いだしてから、頭を傾げる不思議な現象が起り始める。


「ハチ。散歩にいくぞ!!」


「ワン!」


 ハチは賢い犬だった。人の言葉を理解している? そんな錯覚が時々俺を襲う。散歩に行くと言えばリードを自分で咥えて俺の手元まで持ってくる。


 まぁ他の犬でも時間的なリズムと良いのか? 毎日同じ時間に散歩へ出かけていると、リードを咥えてくるかもしれない。


(まぁ、偶然だろう。他所の家で飼われている犬だってこの位出来る筈だ)


 またハチと散歩する時は正面からどの犬にも出会わなくなる。十字路を過ぎて脇道に視線を送ると、石の様に固まっている犬や猫。飼い主を引っ張って離れて行く姿をよく見かけるようになっていた。そんな様子を俺も不思議には思うが思い当たる理由もない。


(動かないなんて、他の家の犬って散歩大変そうだよな~ ハチならスイスイ進むのに)


 飽く迄、ハチは普通だと思い込み深くは考えないで過ごしていく。



---------------------------------


 そしてハチを飼いだして1年目が過ぎ、高校生になった夏。今年の夏は例年以上の高気温を連日叩き出していた。普通猛暑日に散歩に出かける人は少ない。


 けれどハチは違った。毎日俺を公園に連れて行けとねだってくる。


 この1年でハチも俺も大きく成長し、身長は170cmを越え、部活のバスケットでも優秀な成績を修めた。ハチも体長が50cmになりメスにしては大きく成長している。


 普通の学生なら色恋とかに興味をいだく年頃だが、俺はそんな事には目を暮れずに毎日ハチと遊ぶ事と機械いじりに夢中となっていた。

 最近ハチに色々な技を仕込んでいるので、アクロバティックな技もお手のものだ。


 その日もいつもと同じ散歩コースを回り、公園の芝生エリアでいつものボール投げてハチと遊ぶ。


 ハチはボール遊びが大のお気に入りだった。


「ハチー! 投げるぞ~」


「ワン!」


 俺が投げたボールをシッポを振りながら咥えて戻ってきたハチから俺がボールを受け取ったその時、突然ハチの立つ大地から光が立ち上がる。


「何だよこれは!!」


 光に包まれたハチは一瞬で身体半分も地面に沈み込み、それはまるで底なし沼に捕まった感じに似ていた。俺は咄嗟にハチの身体に手を掛けて地面から引きずり出そうと試みる。


「ぐぅぅ。ハチが沈む…… 引っ張り出せない!!」


「キャン、キャン!!」


 ハチも俺に助けてと叫んでいる。


「一体どうなっているんだよ。 えっ俺の身体も一緒に引きずり込まれる!?」


 沈むハチに連れられて、俺の身体も地面へと引きずり込まれだした。


「誰か、誰か助けて……!!」


 必死で周囲の人に助けを呼ぼうとしてみたが、連日続く猛暑の影響で周りに人もおらず。

 俺とハチは光の柱に包まれ地面の中へと引きずり込まれた。

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