新聞、秘密基地とビールの味
次の日。俺は朝から都内の図書館で調べものをしていた。
「20年前の○○町の出来事とかあるかな……新聞とかあるとありがたいな」
俺は当時のことを少しだけ思い出していた。
俺らは小学6年生の春に引っ越してきた雪乃を含め、俺、祐樹、泰一、佳奈、美月の6人でよくつるんでは裏山に行ったり空き地で遊んだりしていた。
記憶によく残っていたのは夏休みだ。小学校最後の夏休み。俺らは確か裏山に秘密基地を作ろうとして毎日のように集まっていた。それができたのかだめだったのかは覚えていないけど……
「きっと完成したんだろうな」こんなにも楽しかった気持ちが、20年経った今でも残ってる。
でも、ある日を境に俺らはあまり集まらなくなっていった。それがいつだったのか、なぜなのか、それも全く覚えていなかった。一つ覚えていること。いや覚えているというよりは、印象に残ってること。それは8月28日という日付。多分その日に何かあったんだ。何があったのかわからないけど、何か、俺ら6人が離れる何かが……。
「20年前……19××年、8月28日付近の新聞……」
図書館の書庫に入れてもらい、俺は当時の新聞を探した。すごく大きい図書館で地方新聞も置いてあるようだ。
「○○県の新聞は……これだ。」
8月28日(火)
……。………。なにもないな……。
「前日は?」
8月27日(水)
………。あれ、なにもない。やっぱ気のせいだったのかな…?
しかし俺は次の記事で見つけてしまった。
それは一面ではなかったが大きく取り上げられていた
8月29日(木)
『○○町小学生行方不明』
○○町の小学6年生椎名雪乃ちゃん(11)が27日午後から行方不明になっており、○○県警は29日より公開捜査を行っている。
「これだ……」
行方不明だったんだ……。でも死んだとはわからないんじゃないのか?結局見つからなかったってことなのか?
俺はそのページだけコピーさせてもらい、図書館をあとにした。
雪乃は20年前の19××年8月28日に突然俺らの前から姿を消した。俺はなぜその出来事を覚えていなかった?それにもなにか理由があるはずなんだ。記憶を閉ざした意味が……。
図書館の近くにあったラーメン屋で昼飯を食べながら俺は新聞を見直していた。
「28日午後6時ごろ、出かける、すぐ戻ると言ったきり午後9時になっても帰ってこず、家族が警察に通報した……。6時っていったら俺らで集まってたらもう解散して帰ってる時間だ。」
雪乃はそのあとまた外に出たんだ。なぜ……?
「情報が少なすぎるな。祐樹にも聞いてみるか」
そう呟いて俺は少しのびてきたラーメンを食べ始めた。
その夜。俺は19:00前に祐樹に会った時にいた公園に来た。そこにはもう見たことのある姿があった。
「よう、大輔」
「おう、どこいく?」
「近くに居酒屋あったぜ、そこいこう」
歩いて5分もしない居酒屋についた俺らは飲みながら雪乃の話をしていた。
「あいつ引っ越してきた時は男子は色めき立ってたよな超美人だったし」
「そうだったなあ。俺は結構苦手なタイプだったけどな」
「そうだったのか?雪乃が俺らと遊ぶようになってからお前らよく一緒にいたよな」
……ん、なんか記憶と違う……?
「なあ、俺そんなに雪乃と喋ったことなかったと思うぞ。美月とかと似たようなタイプで苦手だったし」
すると祐樹ははぁ?と言わんばかりの顔をして言った。
「何いってんだよ、お前の後を雪乃がついていくって感じだったぜ?」
「ええ?まじかよ」
ほんとに記憶がない。俺は祐樹や泰一、女子の中でも佳奈とバカ騒ぎしかしていなかった印象なんだけどな。
すると祐樹は何か思い出したように俺に言った。
「ほら、あれ覚えてないか?教室でさ……」
【19××年7月3日(水)】
「……大輔くん、大輔くん」
誰かに呼ばれてる……?聞いたことのある声……。
はっとして目が覚める。教室だ。時間はまだ昼前。どうやら授業中に居眠りしてしまったようだ。
「コラ由木崎!まーた寝てたのか」由木崎ってのは俺のことだ。クラスメイトも俺を見て笑ってる。結構がっつり寝てたみたいだ。
「おはようございます。」
「遅い!」
教室がどっとわく。俺は照れたように頭をかいた。
そういえば、誰が起こしてくれたんだ?隣を見るとそこには雪乃が困ったように微笑んでいた。
「雪乃……ちゃんが起こしてくれたんだ」
「うん、昨日寝るの遅かったの?」
雪乃は心配そうに俺を見た。すると泰一が笑いながら言った
「いや、大輔は年中眠気なくならないから」
雪乃は少し驚いて、そして少し笑った。
授業終わり、俺はまたいつものメンバーと喋っていた。
「どうせ昨日も夜中までゲームしてたんでしょ?」佳奈が呆れたように俺に言った。俺はむきになって言い返した。
「ちげえよ!俺は真面目だからな、ちゃんと勉強してたのさ」
「真面目な人は授業中に居眠りはしませんー!」
「なんだと!」「なによ!」
これがいつもの風景。これを大体いつも祐樹か泰一が止めて……。
「佳奈ちゃんと大輔くんは仲がいいのね」
その時、けんかする俺らに話しかけたのは、雪乃だった。
「こいつらは幼なじみで、家が隣なんだよ」祐樹が雪乃に説明する。
「幼なじみかぁ…。うらやましいな」
雪乃は転勤族の家庭だから、幼い頃の友達は近くにいないらしい。
俺は少し寂しそうにしている雪乃をみて何か思い付いたのか、椅子に登った。
「コラー!大輔椅子には立っちゃだめなんだよ!」すぐさま佳奈が怒る。しかし俺はそれを無視して皆に言った。
「なぁ、今度の夏休み、みんなで裏山に秘密基地作ろうぜ!」
その言葉を聞いて、怒っていた佳奈も、呆気にとられる雪乃も、後ろの方で腕をくんで聞いていた美月も、佳奈の怒りを沈めようとしていた泰一、祐樹の二人も俺を見た。
「秘密基地……?」
「そう!秘密基地!俺ら6人で作る俺らだけの秘密基地だ!」
佳奈はさっきまで怒っていたことも忘れ、跳び跳ねて喜び始めた。
「いいわね!ね、皆でやろ!」
「楽しそうだな、やろうぜ」
「行ける時は行くわ、面白そうだし」
「なんか、かっこいいな!秘密基地!」
そして俺は雪乃に言った。
「俺らは雪乃ちゃんの幼なじみにはなれねえけど、友達にはなれる!秘密基地作って皆で夏休み遊ぼうぜ!」
すると雪乃はちょっとうつむいてから、今まで見せたことのない笑顔を見せた。
「……うん……!」
「あ、大輔が雪乃ちゃん泣かせたー!」
「えっ、なんで泣くの」
「笑いながら泣いてる!」
こうして俺らは夏休みに秘密基地を作るために計画をし始めた。
「秘密基地、か。懐かしいな。」
「今あるのかな、あれ」
「結構山の奥に作ったからな。壊されてはいないと思うが……」
懐かしい懐かしいと言いながら祐樹はビールを飲み干した。
「でもやっぱりお前は雪乃と仲良かったよ。あれから雪乃は大輔と一緒にいるようになったんだよ」
「そうだったかなー…。」確かにあの時は、寂しそうにしている雪乃を見てて、なんか可哀想だなって思ったからああ言ったんだが、あれからも大して彼女との仲は変わらなかったと思うんだよなぁ。
「なんかなー、昨日からだけど話が噛み合わないよな。どっちが正しいのかな」
「さぁな。まぁ20年も前の事だしな。」
あ、そうだ。祐樹にあれ見せるんだった。俺は祐樹に新聞を見せた。
「なんだこれ?……これは……」
「ああ。20年前の○○県の新聞だ。」
「結構大々的に報じられてたんだな。」
祐樹はしげしげと新聞を眺めた。そして、俺に言った。
「なあ大輔。俺らの過去の記憶がどうして噛み合わないのか気にならないか?」
「まぁな。できることなら雪乃のことも思い出したいよな」
「だからさ……」
いこう。○○町に。
騒がしい居酒屋の中で、俺らは無言でうなずいた。