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またいつか、あの町で。  作者: 3×3花
再会
3/7

夕暮れと裏山と40点のテスト

雪乃は、死んだ……?


仕事に戻る時間が迫っていたため、祐樹と別れて外を歩いていた。しかし頭の中はさっき祐樹と話したことしか考えていなかった。

真っ青な空から見える太陽がじりじりと俺を焼き続ける。汗が大量に流れるが、そのほとんどは冷や汗だった。

「どういうことなんだ……?」

雪乃は死んでいる。そう祐樹は言った。その事実自体も衝撃的だが、何よりも驚いているのが、俺がその事実を忘れていた。いや、知らなかった……?


椎名雪乃(しいなゆきの)。俺らが小学6年生だった20年前の春、都会から引っ越してきた少女だ。静かであまり喋らなかった印象がある。いつも微笑んで俺らが騒ぐのを近くで見ていた。

引っ越してきてすぐはほとんど喋らなかった。大概女子連中が転校生の周りを囲むからな。佳奈とか美月は最初から仲が良かったんじゃないかな。そんな俺や祐樹が彼女と仲良くなったのは、確か5月くらいのことだ。



【19××年5月1日(水)】


「今日裏山行こうぜ」

祐樹が俺と泰一に話しかけてきた。時間はもうすぐ放課後。教室でも先生がプリントを配ったりしていた。

「俺は暇だからいいぜ、大輔は?」

「あー俺も暇だわ」

「よっしゃ!じゃあ学校終わったらすぐいこう」

話しているとそこに佳奈もやってきた。

「裏山行くの?私も行きたい!」

「まじかよお前も来んのかよ」佳奈は俺の幼なじみでまるで俺の母さんのように色々言ってくるから少し苦手だった。

「なによ!悪いの?!」

「悪くはないけどさ……」

「ま、いいんじゃねえか?……お前も来るか?美月」祐樹は大輔の隣の席の美月にも話しかけた。美月はランドセルのロックを閉じ、一息ついてから言った。

「ごめんね、今日は用事あるからやめとくわ」

「ピアノ?」

「まぁそんなとこね」美月は地元では有名な少女だ。名家開堂家の一人娘、天才ピアニスト少女。他にも様々な習い事をしてる彼女はなかなか遊ぶ機会がない。

「じゃあ俺、大輔、泰一、佳奈で放課後裏山な!」

その時だ。



「ね、私も混ぜて?」



はっとして振り返る。そこにはロングヘアーの少女が立っていた。それが俺らと雪乃との最初のコンタクトだった。



夕方だ。空がだんだん赤くなっていく。俺は会社のデスクで仕事に戻っていたが、まるで手についていなかった。

「こりゃ終電はないな……」

雪乃に話しかけられた時もこんな夕方だった気がする。それにしてもなぜあいつは……

頭の中を疑問が駆け回る。

そもそも雪乃はどうして死んだ?

俺はふと思い立ち、PCに向かった。社内は少しずつ人がいなくなり始めている。少しくらい他のこと調べててもばれないだろ。


『椎名雪乃』で検索をかける。

「ニュースには……なってねえか。まぁ20年も前だしな。」明日図書館にでも行ってみよう。


夜中に家に帰りつく。スーツを脱いで布団に倒れこんだ。

「まるで仕事が手につかなかったな……」明日は休みだ。図書館にいって、20年前のことを調べてみよう……。

携帯が震える。俺は手に取って開いた。祐樹からだ。今日連絡先を交換したんだった。


from:祐樹

今週暇な日あるか?せっかくだから飲み行こうぜ


「……いいな」一瞬色んな疑問がどうでもよくなりかけた。だめだだめだ。飲みには行くが。


to:祐樹

ちょうど明日が休みだよ(笑)


from:祐樹

じゃあ明日19:00にこの前の公園で集まるか!


to:祐樹

おっけー、じゃあまた明日。



俺は携帯を置いてまた寝転がった。だんだんと意識が薄れてゆく。


『ありがとう、えっと、大輔くん。』


眠りに落ちる直前、俺はまた雪乃のことを思い出していた。



「椎名雪乃です。よろしくお願いします」

不安そうな表情。最初の印象は「あー俺この子苦手かも」だった。元々女子は苦手だったが、あまり喋らないタイプの女子、美月とかは特に苦手だった。佳奈は逆にうるさくて苦手だったが。

雪乃は俺の左側の席に座った。俺は美月と雪乃に挟まれるという形。最悪だ……。


雪乃の自己紹介があった日も何も変わらないように授業が始まった。やはり元都会っ子ということもあるのか、雪乃はめちゃくちゃ頭が良かった。ちょうどその日は漢字のテストがあった。

「大輔、できたか?テスト」

にやにやしながら祐樹が聞いてくる。

「できるわけねえだろ……」俺は漢字というか国語というか、勉強が苦手だ。

放課後テストが返された。

「よ、40点……」

「うわ、前より酷いじゃん。」

「なんだよ、そういう祐樹は何点だったんだよ?」

祐樹は得意気にプリントを見せてきた。

「42点。」

「あんまり変わんねえよ?!」

「ふっ、二点の差は大きい。これで合否が変わるんだって兄ちゃんが言ってた。」祐樹の兄貴は今年受験生だからな……。

「雪乃ちゃんすごーい!」突然女子の声が聞こえる。見ると雪乃の席に軽い人だかりができていた。

「授業まだなのに100点だよ!頭いいんだね!」

雪乃は恥ずかしそうに顔を赤らめてニコニコしている。その時

「あっ」風が吹く。雪乃の机からプリントが飛んでいった。俺の方に。

足元のプリントを拾い上げるとそこには丸だらけの答案用紙。右下に『100』と書いてある。

俺は雪乃の席にプリントを置いた。

「ありがとう、えっと、大輔くん」

小さな声で雪乃はそう言った。俺はそれには答えられなかった。

あれはなぜだったんだろう?


まどろみの中思い出した話。なぜ答えられなかったのか、考えてるうちに俺は眠りについた。

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