違和感
「しっかし、ほんと久しぶりだよな」
近くのカフェで俺らは話している。周りには意識の高い大学生が意識高くPCに向かっていた。そんな若者を見ながら俺は祐樹に聞いてみた。
「そういや、祐樹は大学行ったのか?つーか、今何してるんだ?」
すると祐樹はニヤっと笑って言った。
「何だと思う?」
「何って……ニート?」
「ちげえよ!つーかまだ有名じゃないもんな、知らなくて当然か」そう言って祐樹は携帯を取りだし、イヤホンを俺に渡してきた。
耳につけると聴いたことのない曲が聴こえてきた。画面を見ると大手動画サイトの赤い画面。この曲を演奏している人達が映っているいわゆるミュージックビデオというやつだ。
「あれ……?ギターのやつ」
「そう、俺」
そうだ、思い出した。祐樹は上京して音楽の学校にいったんだった。昔からギターがすごくうまくて、よく弾いてくれていた。
「高校卒業してから、東京の音大に行ってたんだ。そこで会ったやつらと今活動してるってわけ。」
バンド名は「lian」と書いてある。
「そっか……お前夢叶えてたんだな。」
「まぁな。今度ライブ来てくれよ」
「お、それはぜひとも行きたいね、祐樹のギターまた聴きたい」
祐樹は子どもの頃からの夢を叶えていた。すげえよ尊敬できる。それに比べて俺は何してんだろうな。
「大輔?」心配そうに俺をのぞきこむ祐樹。はっとなって俺は話題を変えた。
「あ、いや。なんでもねえよ。昔のこと思い出してただけだ。昔はよく学校の裏にあった山で遊んでたよな」
「ああ。そうだったな。あのときは誰がいたっけ?……泰一とかいたな」
「やっば懐かしいな!今あいつ何してんだろうな。……女子もいたよな。たしか合わせて五人?」
すると祐樹が首をかしげた。指を折って数えていく。
「俺だろ?大輔だろ?泰一だろ?あと、そうだ、お前の幼なじみの佳奈もいた」
「佳奈か……あいつ今は親父さんの経営する旅館の手伝いしてるらしいな。……あと美月だ。あいつはやっぱすごいやつだったんだな。今やピアニストとして世界中を飛び回ってる」
「俺と比べたら天と地の差だよな……」
「お前もこれからだって。……これで5人だよな」
しかし祐樹は何か思い出すように頭をひねり続けていた。
「6人、じゃなかったか?あと1人……」
「え、まじ?えっと……」
泰一。正義感とはあいつのためにある言葉なんだってくらいしっかりしたやつ。
佳奈。いっつも元気で泣いてるところなんて見たことない。家が隣ってこともあってよく遊んでいた。
美月。地元の町の名家、開堂家の一人娘。天才ピアニストって言われてた。
祐樹。一番よくつるんでは外で遊んでいた。
五人だ。他に……?誰が……?
『ね、私も混ぜて』
「「!!」」
俺らは同時に思い出した。そうだ。なんで忘れてたんだ。20年前、小6の時に都会から転校してきて、夏休みまで俺らとずっと遊んでいた、一人の少女。
「雪乃……」
「そうだよ、なんで忘れてたんだ……」
雪乃は俺らが小学校6年生のときにうちの小学校に引っ越してきた。長い髪が特徴ですごく美人だった。
「やっぱ20年も経つと忘れちまうもんなんだな」
「ああ……」
祐樹は心なしか落ち込んでいるように見えた。
「まぁ雪乃は半年しかいなかったからな、覚えてないのも当然か」
すると祐樹は俺を訝しげに見た。
「どうした?祐樹」
「いや、お前、雪乃がなんで2学期からいなかったか知ってるだろ?そんな言い方……」
「え?転校しちゃったんだよな、確か。夏休み明けの直前に」
祐樹は目に見えて驚いている。俺なんかおかしいこと言ったか?
「大輔、忘れたのか……?」
「な、何をだよ」
祐樹は俺をまっすぐ見て言った。
「雪乃は、あいつは、死んだんだよ……」