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序編 なぜ私は、彼女と出会ったのか。

厳しい残暑が未だ去らぬ九月の終わり、玉川は連日の雨でその水面を土色に濁らせ、いつもの清らな流れを見せようとしない。私は結局中止になった学校の文化祭の準備に追われて、中間考査のことなど毛頭考えていなかった。不快な気持ちは日を重ねるごとに積もってきて、そのまま消えて無くなってしまいたいと思うことも多々あった。この十余年を顧みても、これほどまで憂鬱であった期間はなかったのではと思うほど、私は追い詰められていた。私の足が葦高橋の欄干に向かったことは、実に自然であった。さあその身を、と思った時、一瞬自分とその周りの世界が動きを止めた。長い長い一瞬だった。脳の端から端まで焼き焦げるほど記憶が巡った。なんだこれは。見える筈の世界全てが暗闇で万物は阿鼻叫喚し、一筋の光をそこに見出せないのにも関わらず、唯一しっかりと見えるものがある。それが何なのかは解らなかったが、そこにあるのだ。闇の中で、なんというか、光ではない何かを孕み、そして四方八方へ放っていたのだ。私とその何かは問答を幾らか行って、ふと気付くと、私は額に大量の汗を湛えて欄干にもたれかかっていた。

その夜も、不快な気持ちは消えないまま、いや、更に増幅して、私に積もっていた。何かを見た。しかし何かは解らない。あちらから尋ね、そして答えた。しかしどうしても思い出せない。結局その夜は一睡も眠れなかった。これはいかにも九月のことであった。

二週間後の体育の日に、私は何を思ったのか玉川神社へ向かった。少しながら心当たりはあった。考査や祭がどれも全て上手くいかず、且つ来年三月に大阪へ引っ越すことが父に明かされたのだ。父の仕事は俗に謂う転勤族というやつで、私は引っ越しには慣れていたが、ここ倉吉の街はどうしても離れることが嫌だった。というよりも、離れてはならない気がした。そういうことを考えているうち、そういえば玉川の社にまだ参っていなかったと思い出して、宮通りをいま歩いているのである。

宮通りは全く人気がない。街の中心から外れているせいもあるが、私は何か、人々が敢えてここを避けているような気がした。まだ鳥居はくぐっていないにも関わらず、それほどの霊力を思わせるような空気感が漂っているからである。まもなく、境内を進んでいる途中、二の鳥居と手水舎との丁度中間に一人の巫女が石灯籠を掃いているのを認めて、私は鳥居の陰に隠れた。知らない顔だったが、何処か他人の様には思えない巫女で、不思議に思って私は彼女の一挙手一投足を覗いていた。そして私は、彼女の仕草が母と瓜二つであることを悟った。


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