06:誰もマスターと呼んでくれない
異世界
【テイマー/モンスターゲット】
テイマー業の醍醐味は、強いモンスターをテイムする事である。
テイマー職になった俺は、強いモンスターに囲まれ「マスター」と呼ばれる夢を見ていた。
「……パパ」
「旦那様」
「アナタ」
「ダーリン」
最初は白銀に輝く狼をテイムしようとした。丁度怪我をしていて弱っていたから、これならテイム出来るだろうと思った。
しかしテイムと叫んだ瞬間、狼は息絶えてしまい、なのに何故かテイム出来た手応えを感じて不思議に思った。
死んだ白銀の狼の腹毛がもそもそと動いている……。ひょこりと顔を出したのは、真っ白な子狼だった。
以来、子狼からは「パパ」と呼ばれている。
子狼を抱えて旅する日々の中、男には性欲という無限の欲求があるので、娼館へ行った。子狼は女の子達にウケて、俺は何だか気分が良かった。
致す時は待機している女の子達が喜んで預かってくれたので、旅をする中街で泊まる時は娼館へ通う事も多かった。
そこで出会った淫魔は、子を亡くしたばかりの儚い女だった。今にも死にそうで放っておけず、思わずテイムしたら手応えはしっかりあった。精神的ダメージでも弱った事になるのだと知った。
淫魔の借金を返してやると、身綺麗になった淫魔は俺を「旦那様」と呼んだ。子狼はいつの間にか淫魔を「ママ」と呼んでいた。
森の泉で水浴び中のエルフと対峙した。エルフは真っ赤になって攻撃してきたが、躱さずとも目を閉じてめちゃくちゃに魔法を使ってきたのて、攻撃は当たらなかった。
ただバンバン強烈な魔法を撃ってきて、ビビった俺が思わずテイムと叫ぶと、何故かテイムされた。
恥じらいは精神的ダメージに入るらしい。
エルフは裸を見られたなら、もう嫁には行けないと文句を言ってきた。こんな場所で大胆に水浴びしていたくせに偉そうだ。
エルフは俺がマスターだと納得していないのか、俺の事を「アナタ」と呼んだ。
草原に行くと猫娘がノンビリ昼寝をしていた。
猫娘といえば俊敏性があり、陽動撹乱、攻撃力は低いがとても使える前衛職に出来るモンスターだ。
これは欲しいと勝負を挑むと、腹が減って力が出ないと言われた。
たまたま血抜きの終わった兎を持っていたので、餌付けすると色々話してくれて、なかなかの団欒になった。なにより同じ獣族だからか子狼が良く懐き、まるで年の離れた姉妹のようだった。
翌朝改めて勝負をする。前日は全員で掛かろうとしていたが、仲良くなって不意打ちも出来ないので、勝負は1体1になってしまった。
勝てる気はしなかったが、団欒中にウッカリ話していた弱点のお陰で、ボロボロになりながらも勝てた。
テイムすると猫娘は自分より強いオスという認識を持ったらしく、俺の事を「ダーリン」と呼んだ。
結局その後4年程世界を回ったが、テイムしたモンスターは誰1人俺の事を「マスター」と呼んでくれなかった。でもまぁ、それなりに満足している。