02:駆ける幸
現代
【遠距離恋愛】
今夜は雲一つなく、夜空が綺麗に星を輝かせている。
彼女は窓から視線を部屋へと移動させると、ベッドに放られたスマホを覗き込んだ。
「既読がつかない~!」
遠方にいる彼との会話は、地元へ帰る電車に乗ってから始まった。着くのは遅くなるから、会うのは明日になるとは最初にメッセージで書かれていたが、それならせめて帰り着くまで言葉を交わしたかった。
電車の中ではメッセージで、電車を降りたら通話で……。
そろそろ降りるとメッセージをもらい、ほんのり期待しながら通話しようと返信を返した。が、既読にならない。
彼女はガクリと肩を落としてスマホを握りしめていた。
「うをぉーん! 寂しいよぉ! 2ヶ月も会ってないのにぃっ!」
吠えるように自室でごちる。寂しい寂しいとブツブツ呟きながら、ベッドへ横になってみたり、部屋でクルクル回ってみたりと忙しなく動くが、返信どころか既読にすらならなかった。
そのうち10分経ち20分経ち、段々不安になってきた。
「何かあったのかな……」
言葉に出してしまうともう堪らない。駅まで行こうかと上着を手にした時、やっとスマホがブルリと震え、着信音まで鳴り出した。
「豊! あー良かった、急に既読つかなくなったから心配した!」
安堵と一緒に声が震えた。手にした上着を床に落としながら座り込み、しっかりと恋人の声を聞く為にスマホを耳へと押し付ける。
「あぁうん、そう、今日は星が綺麗だよね。ねぇ、体調悪いの? 息上がってるよ? うん、外?」
彼女が窓辺に移動して、少し窓を開けて空を見上げる。キラキラ光る星を瞳に映しながら、バタバタと駆ける足音が聞こえた。
「はぁはぁ……あー……疲れた」
「は? 豊、なんで居るの!?」
「駅から全速力っ、はぁ、あっ電話切るよ」
「えっ? え?」
「も、遅いしやめようと思ってたんだけど、やっぱ無理ぃ」
「な、え? ちょ、なに」
「……うん、おいで」
窓の下で彼は両手を広げた。思わず窓に足を掛けようとして、正気に戻った彼女は慌てて床の上着を掴むと、一直線に玄関へと走りだした。