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09話 「木の良い香りがする」

 ドラゴンの突進が再開される。


「ったく、こんなんじゃキリがねぇ!」

「…喋っている暇があったら殴る」


 ドラゴンの皮膚は鉄のように硬く、岩のように分厚い。

 そんなドラゴンの皮膚、尾の時とは別格に硬い胴体の皮膚へとクリアは攻撃を続ける。

 ダメージが入っていないことくらい百も承知、それでも攻撃を続けるしかない。


「ヤタはどこへ行ったのかしら…!」


 フィアが炎を放ちながらぼやく、それもそのはずヤタは皆に本題の戦闘を丸投げして何処(どこ)かへと行ってしまったのだから。


「あいつなら」

「え?」

「あいつのやることなら、大体正しいんだよ」


 ゼルはなぜヤタをそんなに信用できるのか、何か根拠でもあるのだろうかとフィアは考える。

 そんなゼルに気を取られたことが隙となり、フィアはドラゴンの一撃を受けてしまった!


「フィア!」


 山道を逸れ、足を踏み外したフィアは崖下へと落ちていく!


(これは本当にマズい…!)


 落下中、頭を駆けるのは「何かを掴まなきゃ」ということのみ。

 フィアは必死に無我夢中で(くう)をかく。


「掴まれ!」


 その声を聴き、必死になって掴んだその手はゼルの手だった。

 クリアが剣を地面へと突き刺しゼルを支えている、タカミは電気の壁を作りドラゴンを抑えていた。


「無茶するわね…」

「フィアこそ、よそ見してんじゃねえよ」


 ゼルに向かって嫌味ったらしく微笑した。


「…早く登れ」


 クリアはいくら能力者とはいえ女の子。

 大の男一人と少女一人の合計二人を支えるのには限界があり、クリアのみの力で引き上げるのには時間が掛かる。


「クリアっち、限界ッスよ…」


 タカミの張っていた電気膜が破られる。

 グリンドラグーンはタカミを道の脇へと吹き飛ばした後、クリアへともう突進した!


「ヤバい!」



『…パァンッ!』



 クリアにあと数メートルと迫ったその時、山には一つの銃声が木霊する。

 ドラゴンは目から血を流しながら後退し、前が見えないのか岩肌へと頭を打ち付けていた。


「ヘっ、やっと準備が出来たか…」


 ドラゴンとの戦闘地域から数メートル上の岩陰、そこには銃を構えたヤタがうつ伏せになっていた。


「あれは?」

「あれは"伏せ撃ち"と呼ばれる姿勢でな。他の姿勢より安定していて、射撃精度も高いんだよ。しかも姿勢が低いから防御にも徹している体勢だ」


 なるほど、と言った顔でヤタを見る。

 ヤタの使用している銃を見て、ゼルの表情は何かを確信したような表情へと変わった。


「ふぅ…やれやれ、即卒で出した銃だから使えるかどうか怖かったぞ」


 俺が想像したのはAK-47だったのだが生成されたのは『PKM』だった、確かに構造はAK-47と殆ど同じだがそれにしたって無茶苦茶だ。


「せっかく俺のこのプリティーな唇を切ってやったっていうのによ!」


 フィアの攻撃のお蔭でグリンドラグーンの弱点に気がつくことが出来た、あとでお礼を言っておかなきゃな。

 さて、あとの始末は…


「クリア!これで動きは抑えた、あとは任せたぞ!」


 ヤタはクリアへと叫んだ。

 その声を聴きクリアはそっと頷くと、引き上げたゼル達をタカミへと預けて剣を構えた。


「出来ればもう少し早く来てほしかったッスね…」


 魔力も使い果たし、ドラゴンの一撃を受けて座り込んでいたタカミが軽く笑う。


「…必殺」


 一言、クリアは謎の一言を呟くと勢いよくドラゴンへと向かって剣を突き立てた!


「悪・即・斬!」

「丸々パクリじゃねーか!」


 思わず突っ込んでしまった、いや仕方の無いことだと思う。

 クリアが想定外の必殺技を決めた挙句、その技名が聞き覚えのあるものだったのだから…


「グォォォオオン!!」


 おどろおどろしい程の断末魔を上げ、グリンドラグーンはその場へと倒れた。


「…決まった」


 クリアは満足げな表情を浮かべながら剣を鞘へと納めた。




 ◆




 緑が生い茂る森の中、少量の日が差し込むその光景はとても幻想的である。

 俺たちは現在"あの少女"の村へと足を運んでいた。


「お母さん!お兄ちゃんたちが来たよー!」


 元気よく村を駆ける少女、この娘こそ俺がフィアの炎から救ったあの子である。

 名前は「シャル」というらしい、俺個人としては好みの名前だ。


「あらあら、それはうんとご馳走しなくちゃね」


 シャルの母と思われる女性はシャルを抱き上げると、その額に優しくキスをした。


「優しそうなお母さんじゃないか」

「…うん」


 クリアはその微笑ましい光景に笑みをこぼしていたが、どことなく寂しそうだ。

 


 俺はクリアの頭へと手を乗せて、数回髪をかき回した。

 クリアは少し恥ずかしそうであったが拒絶はしない、やはり家族というものが恋しいのだろう。



「どうぞ()し上がってください」

『いただきまーす!』


 俺たちが全員手の平を合わせて合言葉のように「いただきます」と言うと、シャル達は不思議そうな顔をしていた。

 それもそのはず、この「いただきます」という文化はこちらには存在しないということだろう。

 クリア達三人には俺が教え込んだし、ゼルはちゃんと知っていた。


「うまい!」


 ゼルが声を上げる、確かにここのご飯は凄く美味しいものだった。

 塩加減も絶妙で食材も新鮮味が溢れている、いわば三ツ星レストランのようだった。


「そういえば村の人は皆、髪が長いッスね?」


 タカミが疑問を口に出す。

 確かに俺も少し気になってはいたがここの村の人は皆"髪が長い"、後ろ髪が短い者はいれど耳周りの髪は何故か長い。


「風習なんですよ、ここの住人は皆耳を隠す風習なんです」


 異世界の村にはそれぞれの風習や習わしがあるものだ、これもその一つだろう。

 深くは追及しない、それが旅人としての礼儀だと思うから。


「ごちそうさん、じゃあ俺は先に休んでるわ"おやすみ"~」


 ゼルが先に匙を置き、上へと階段を上っていく。

 遠慮のないやつだ、それでもムードメーカーとしては活躍しているから何とも言えないんだけどな。


「先ほどから気になっていたのですが、その『いただきます』や『ごちそうさま』とは?」


 やはり気になったのか質問してきた。

 異世界ではこんな言葉が無いのは当たり前、これは日本特有の文化である。


「"いただきます"は食事をするときの"あいさつ"なんだよ、"ごちそうさま"は食後のあいさつなんだよ」

「色々と作法があるのですね」


 ちょっとでも興味を持って貰えたのは嬉しい、ここの村の人にも日本の娯楽文化を知って貰いたいくらいだ。


 俺は料理を間食し、ゼルに続いて上へ向かった。


「なんとも特有の温かみのある作りだな~」


 外から見たときもそうだったが、この家は巨木を削って作られている。

 この村の家全部だ、木の中に作られているのだ。


「うっひょ~!ベッドもふかふかだぞヤタ!」

「お前、まだ寝てなかったのか」


 とっくに寝ていると思われたゼルが上から降ってきた、というか俺が飯を食っている間は何をしていたんだよ。


「とりあえずもう寝るぞ、明日は早く王国行くんだからな」


 明かりとなっているランプの火を消し、俺たちは床に就いた。

 しかし、これが落ち着かないもので基地で寝ている時とは違う緊張感がある。


「なんか修学旅行気分だな」

「お?今更か、俺ぁ基地に始めて寝泊りした時からだぜ?」


 ゼルの言うことも一理ある、俺も始めて基地に配属されたときには緊張したもんだ。

 なんせ女の子と一つ屋根の下で寝るんだからな、緊張しないハズが無い。


「そういえばグリンドラグーンへの対策を俺が思いついたことに、よく気づけたなお前」

「そうそう、その件だが。俺はお前のことを知っているからな」


 え?

 俺のことを知っているって、こいつと現実のどこかで既に出会っていたとか?

 しかし基本的に俺は他人との関わりは無い、ずっと引きこもっていたんだからな。


「そうだなぁ、一番分かりやすいヒントを挙げようか。お前に俺が言った言葉だ」


 俺に言った言葉?

 それならなおさら記憶にないぞ、会話なんて絶対にしないから…


「"俺を囮にするなんて酷いじゃないか"。これでわかったか?」


 …!!

 確かに聞き覚えのある言葉、この世界に来る前に聞いた言葉だ。


「お前…"ゼフラン"か?」


 俺のFPSクランの仲間である『ゼフラン』、なんとなくアニメから取ったのかなとか思って気にしていなかった名前だが。

 まさか『ゼル』と『フランク』をもじっただけだとはな。


「ま、だからお前のやること成すこと文句一つ言わなかったんだがな」

「お前がいるってことは、他の奴らも…」


 俺たちのクランは総勢9名という少数精鋭の部隊だった、しかしその人数にも関わらず全世界大会を3年連続優勝という快挙を成している。


「俺もこの世界に飛ばされて、最初に出会ったのがヤタだったから分からねぇんだよ」

「理由はわからないがFPS関係の奴が飛ばされたってことか」


 考えてみれば飛ばしたのは王だ。

 しかし王はFPSの存在など恐らく知らない、となれば誰かが王に命令したということになりそうだが。


「いや、まてよ?ゼルお前どうやってこの世界に来たんだ…?」


 思わず起き上がる。


 俺は勝手にゼルが王に召喚されたと決めつけていたが、王もゼルの存在は知らない様子だった。

 だとすれば俺たちの思い込み、ゼルは別の方法で来たのかも知れない。


「だから前にも言ったように"気がついたら港から飛ばされていた"んだっての!」


 不自然だ、召喚する方法は王しか持ち合わせていないんじゃないのか?

 なのにゼルをこの世界に招いたのは王以外、俺たちの知らない勢力がこの世界にいるというのか。


「明日、王国に戻ったら聞いてみるか…」


 俺たちは瞼を閉じた。



 ◆



「またここに()られたのですか」


 神社の境内に一人の少女が座り込み、木の上へと話しかける。

 木の上には黒い狐の面をつけた少年が一人、枝に座り込んでいた。


桜華(おうか)、お前はいつ咲くんだ?」

「さぁ、いつでしょうね」


 女は足をパタパタとばたつかせ風を仰いだ。


「なぁ、桜華よ…」


 もう一度少年が声をかけようとした時にはもう、そこにその少女はいなかった。

 それを見た少年は静かに自分の面を撫で、木を降りた。


(…桜華)




「おぉ、よくぞ舞い戻ったヤタよ!お前の次のレベルまでは4649ポイント必要じゃ!」

「何が4649(ヨロシク)ポイントだよ、こっちは死ぬかと思ったんだぞ」


 相も変わらず頭が逝っている王だ、こんな王が召喚魔法を使えるとかゲームバランス崩壊してるだろ。


「王よ、少々お話しがあるのですが」

「む?よかろう、後で主たちの兵舎へと向かおう」


 伊達に王はやっていないようで、俺が内容を話さなくとも理解したようだ。

 確かにここでは話ずらい内容、こちらに来てもらうのは得策だろう。


「例の本の話じゃろ?任せておけ、妻と姫には内緒にしてある」


 王が俺へと近づき耳打ちをする。


「理解していないことを理解しました。」


 まぁ、王が直々に来てくださるのだからそれに越したことは無い。

 とりあえず先に基地へ戻っていよう。


「あ、ヤタはここに残れ」

「え?」


 王の声に足を止める。

 他の仲間も俺を待っていたようだが、クリアに連れて帰らせた。


「何かご用で?」

「実は本日は姫の相手をしてもらおうと思っておったのじゃ」


 姫って、あの"フローリア姫"のことかな。

 それにしたってどうして俺なんかに?


「実は姫が何か隠し事をしているようでの、心配なのじゃ」

「はぁ、他の人には頼めないのですか?」

「それが誰にも打ち明けないのじゃ」


 それは俺が行っても同じなんじゃないかな。

 などと思いながらも姫の部屋へと足を進める、王の頼みとあらば拒否権は無いしな。


「姫、ヤタでございます」


 俺は姫の部屋の入り口をノックし姫に声をかける、しかし返事は返ってこない。

 軽くドアノブに手をかけると鍵が開いていた。


(開いてる…?)


 無礼、とは知っていながらも部屋に足を踏み入れる。

 部屋にはベッドと机、本棚にぬいぐるみと女の子らしい見た目をしている。


「ん?」


 ベッドを見ると掛け布団が人の大きさほどに盛り上がっている、これはまだお昼寝中だったのかもしれない。

 とりあえず王の命令も兼ねているし揺さぶってみるが、音沙汰無し。


「これは…!」


 毛布をめくると、そこに姫はいなかった。

 代わりに可愛らしい熊ちゃんがバッチコイ!しているではないか!


「コイツは"空蝉の術"、なんて高度な技術を兼ね備えた姫だ…!」


 ふと机を見ると、焦げ跡と白い粉が残されていた。

 焦げ跡はともかく粉は気になる、とりあえず人差し指ですくい舐めてみる。


「ペロ、これは…青酸カリ!」


 では勿論ない。

 どこか懐かしい甘さを感じる、これは砂糖だ。


「ということは…」


 本棚やベッドの下を模索し、目的の物を見つけだす。


「やっぱりか、犯人は食堂ですよ明智君!」


 俺はその"ブツ"を持ち、毛布を元に戻して部屋を出た。

 大体姫の行動は読めた、恐らく"アレ"を作るつもりだろう!

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