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08話 「そうだ、山に登ろう」

 帝国。

 その中心となる城を囲むように建設された帝都、更にその下には…


「このヴリタイン王国があるというわけじゃ」


 今日も飽きずに王が基地へと訪問してくれている、よくもまぁ毎日毎日この基地へと足を運ぶものだ。

 この基地に来たところで「ストレート・ファイターズ2」で対戦しているゼルとタカミを見物するか、クリアに不衛生なことを吹き込まれているフィアを見るくらいしかできないのに。


「いやぁ、城に居ても退屈でのう。話を聴いてくれるのはヤタ君くらいなもんじゃよ」


 ああ、そうか俺か。


「それと本題に入ると、また頼みがあって来たのじゃが…」


 王がテーブルに一枚の封筒を置いた。

「最初から本題に入れよ」と思いながらも、ゆっくりと封筒を手に取る。


「えっと、『国民より』…?」

「わしの国でも初めて見たんじゃよ、何と言ったかのう?」

「『目安箱』」

「おお!それじゃ、それ!」


 横からクリアがやれやれと言った顔で口をはさんだ。

 確かにこの国は最近、日本化してきている気がしなくもない。

 それは恐らく俺が王に「日本の歴史」という本を貸したからだろう、王がどうしても「日本について知りたいんじゃ!」などとせがんだもので。


「…それで中身は」


 クリアがさっさと開けと言わんばかりに言葉で催促する。

 俺は少々不服ながらも封筒を開け、中の紙を取り出した。


「なになに採ってきてほしいもの表?」

「そうじゃ。国民が取ってこれないような、S級危険種の肉などを採取してきてほしいのじゃ」

「王よ、本来の目的を間違えていやしないか?俺たちは犯罪を撲滅する機関であって、"おつかい部隊"じゃない」


 王はむむっ、と考えるような仕草を見せた後こちらへと向きなおして表情を変える。


「その犯罪撲滅も国民のため、この"O()TU()KA()I()"も国民の為ではないのか?」

「何、虫の良いこと言ってんだよ」


 しかし、国王の言うこともまた事実。

 犯罪撲滅などと言いながら毎回町に迷惑を掛けているのは俺たち、民家の修復なども町持ちなのだから。


『コン、コン!』


 物思いに(ふけ)っていると、入り口の扉をノックされる。


「早速、来たようじゃな」


 王は何処(どこ)か自慢気な顔をしてこちらを見た。

 王への不信感を覚えながらもゆっくりと扉を開ける、そこに立っていたのは。


「はーい…」

「あ、あの!」


 開けた先には誰も居ない、と思ったが下を見ると。


「せ、せんじつはありがとうございました!」


 小さなバスケットを抱えた女の子が俺へと頭を下げていた。

 見覚えがある、この子はフィアが業火を放った時に逃げ遅れていた女の子。

 フィアが業火を放つ瞬間に目に入り、すぐに助けに行ったんだっけか…


「な?お前たちは邪魔者などでは無かったじゃろう?」


 王が俺へとドヤ顔を決めて見せた。


「ああ、差し入れありがとうな」


 確かに、こんなに幸せで溢れた国は無いかもな。



 ◆



 帝都、その名の通り帝国のお膝元。

 そこは活気には溢れているものの、愛などは香りすらも感じられないような場所であった。


「おらおらぁ!大佐のお通りだぁ!」


 大通りを一台の馬車が猛進する。

 国民は皆道の隅へと退けられ、前に立っている者は女子供問わず肉塊へと変えられた。


「ヒャッハー!本日も狩猟日和ですな大佐!」

「えぇ、国民の良い悲鳴(コーラス)が聞こえるわね」


 大佐は拷問の時のつまらなさそうな顔とは裏腹、まるで音楽を優雅に楽しんでいるかのような表情をしていた。


「飛ばしますぜぇ!」


 馬車は更に勢いを増し、国の出口へと進んでいた。

 向かうは…



『ヴリタイン王国!』




 ―現在、ヤタ達は国民の為に食材等を採取すべく王国の離れにある山を探索していた。


「これで大体は集まったな」

「あぁ。あとはこの『グリンドラグーン』の肉だけだな」


 俺はメモを確認する。

 どうやら残されたのは"討伐クエスト"のみのようだ。


「それにしても、これって名前的にドラゴンじゃないのか?」

「…そうよ」


 だとすれば人間で敵うのかが心配だ、龍対人類で苦戦しなかった(ためし)がない。


「強さは?」

「あれは王が言ったでたらめだ」


 少しだけホッとした。

 S級の危険種とか、絶対に強いこと間違いなしだからな。


「捕●レベル:21の間違いだ」


 おいいい!

 何「捕●レベル」って!?

 あれですか、プロのスナイパーが数十人分の強さとかいうやつですか?


「大差ないよ!」

「…そう?」


 ダメだ、この子は漫画の読み過ぎだ。

 もう少しまともな知識をつけさせよう。


「ゼルはいけそうか?」


 少なくとも常識のありそうなゼルに聞こうと思い、後ろを振り向くが…


「あーっ!目はダメ、見えないから!」

「あははは!」


 足が疲れたと言い出したフィアを背負うので精いっぱいだった、てか物凄く楽しそうである。


「はぁ、馬鹿らしくなってき…」


 持っていた紙を放り出そうとしたその時、頭の上を強風が煽った。

 足元が一瞬にして影に飲まれ、地面が揺れる。


「おいおい、ちょっと待てよ…」


 なんとなくだが、一目でわかった。

 身体にはコケや雑草が生い茂り本物の地面のようになっていて、口の横には立派な大牙が二本も生えている。


「あのー、クリアさん?もしかしてこれが」

「…はい"グリンドラグーン"ですね」


 一斉に戦闘態勢へと切り替える、それにグリンドラグーンも気がついたようで大きな声量で一吼えした。


「うおおおっ!『ヴァーニング・デストロイヤー』ァァアア!!」


 ゼルは「フレイム・シャフト」は何か気に入らない、という理由で改名した技名を叫びながらドラゴンへと拳を突き出した。


「…効果なし、ですね」


 ゼルの拳はドラゴンよりも先に本人の方を砕くのではないかというほどの鈍い音をたてながら防がれた、それどころかタカミが援護として放った電流すらも防がれる。


「やっぱり竜の鱗って硬いんだな!」

「そんな呑気な事言っている場合っスか、攻撃が来るッスよ!」


 ドラゴンは牙を突き出しながら地面と平行に突進して来た、俺たちは避けられたがフィアが避けきれない!


「フィア!」

「大丈夫よ」


 何が大丈夫なのだろう、ドラゴンが目の前まで来ているというのに。

 しかしそれとは相対し、フィアは落ち着いた表情でドラゴンへと手を広げて能力を発動する!


「『フレイム・アロー』!」


 フィアの手元から分散した炎は矢へと形を変え、ドラゴンの眼球へと一斉攻撃した。

 ドラゴンは突進を中断し後ろへと下がり、怯む。


「…今!」


 隙を見たクリアは剣に口づけをし、変形させドラゴンの尾へと斬りかかる。

 そして見事に尾を切り落として見せた。


「…『神刀 アマノムラクモ』」


 アマノムラクモ…伝説で聞いたことがある、何でも今の草薙(クサナギノ)(ツルギ)だとか。


「…でも、このくらいがやっと。もっと正確に狙えればいけそうだけど」


 もっと正確に、ドラゴンの足を止めろってことか?

 そんなこと出来るわけ…


(いや、待てよ?ドラゴンの動きを"今みたいに"止めればいいんだよな?)


 俺はひらめいた。


「クリア!ここは頼んだ」


 俺が何を考えているのか察したかのようにクリアは頷き、剣を構えた。


 俺はクリア達にその場を任せて更に山の奥、上へと進んだ。


「待ってろよ…!」


 俺は走りながら自分の唇を軽く"噛み切っ"た!

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