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07話 「燃える、萌える下着泥棒!」

 こちらの世界にも随分と馴れた。

 現代には存在しないような美少女がいることは勿論のこと、日本では取り締まられている"実銃"に触れられるというのも一つのメリット。


 別に帰りたく無いわけではない、王が帰してくれないのだ。

 その後も現代に二回ほど帰還し、逃亡を図ったがどんな極地に逃げようとも最終的にはこちらへとワープ…もとい召喚されてしまうのだ。


「はぁ…どうにか帰還できないもんかねぇ…」


 俺は頭を抱えていた。


「…そういえばヤタ、あの時どうやって銃を出したんだ?」

「あれか、あれはだな…」


 俺はタカミとの戦いのとき、銃を生成する能力が発動しなくて絶望していたのだが…

 実はあれは俺が能力を理解していなく、ただ勘違いしていただけだった。

 あの能力をクリアと同類の能力だと思っていた時点から勘違いが始まっていた、あの能力を発動条件は「鮮血に触れたものを銃に変えられる」だったのだ。


 しかも、かならず自分の手に触れている物じゃなくてはならないというクソスペックである。

 よくよく考えてみれば教会戦の時にも口や鼻は切れていなかったものの、顔のどこかから出血はしていただろう。

 クリアを銃に変えたときだってそうだ、クリアの刃によって手を切っていた時点で条件は揃っていた。


 そして、屋根の破片に俺の血が滴った時に「ピン!」ときたんだ。

 俺の勘違いだったんだ、ってな。


「…なるほど、じゃあヤタは出血していたほうが強いのだな」

「そういう率直な勘違いやめて?クリアには本当に斬られそうで怖いから」


 などとふざけあっていると、突然ドアが開く。


「仕事だ、聞け!」


 扉を勢いよく開けたのは城の豪傑そうな兵士だった、こちらの空気を気にもせず席へと着き紙を広げた。


「ったく、今ちょうど魔法紛争のいいところだってのによぉ~」

「まぁ、聞け今回は重要な仕事だ。特に「ヤタ」「ゼル」にとってはな」


 俺とゼル、共通点は特に見当たらない。

 強いて言うならどちらもヲタク向きということくらいか、いやあるいはロリという財宝を探し出すトレジャーハンターってところか。


「今回の事件は『下着泥棒』だ」


 その言葉を聞いた瞬間、俺とゼルは制服へとすぐさま着替えて外へと出た。

 特に打ち合わせをしたわけでもない、ただ俺とゼルには譲れない思いがあった。


『下着泥棒など、けしからん!』

「おい、鼻から血が出てるッスよ」


 鼻からの謎の出血を気にも留めず、俺たち二人は城下町へと向かった!




 ―さて、城下町にはとっくに到着して準備も早々に済ませた。一つ問題があるとすればそれは…


「どうして俺のコンビがお前なんだ?」

「それは私に聞かないでほしいッスよ、クリアちゃんが『親離れは大事だ』とかなんとか~」


 クリアがよかった、あの豊潤なる肌。

 白くプニッとした太もも、白くつややかな髪!


 それに比べてタカミときたら…

 金髪に輝く髪、大人の色気で誘うような唇。

 たわわと実った胸、太ももォ!


「ぬぅん!どちらもけしからん!!」

「なにしてるんスか」


 俺たちがそうこうしている間に、女性の悲鳴が響いた。


「出てきたッスね!」

「どうやら現行犯逮捕できそうだな!」


 女性の悲鳴のしたほうへと向かうと、既に黒い影が飛び去っていた。


「チィ!もう逃げやがったか!」

「黒い上着で顔がよく見えなかったッスよ…」


 どういようか試行錯誤している俺の足元に、一枚の布が舞い落ちた。

 俺は危険ながらもその布を拾い、広げてみた。


「コイツは…!しまっておこう」

「アンタいっぺん感電死してみるッスか?」


 タカミの指先に電流が集まりだす。

 俺は手に取った布をそのまま無言でタカミへと差し出した。


「さぁて、じゃあちょっくら飛ぶッスよ」


 俺を持ち上げ屋根へとひとっ跳びするタカミ、男性である俺の体重をものともせず屋根の上を駆け抜ける!


「うわわわっ!怖い怖い、落とすなよ!?絶対に落とすなよ!?」

「それって確かお約束ってやつじゃなかったッスか?」

「今回は特例!絶対に落とさないでね!?」


 屋根から落とされれば、人間である俺には大怪我必須の落下事故。

 こんなところで死んだら恥以外の何物でもない!


「追い詰めたッスよ…!」


 飛び移る屋根が無くなったところでやっと犯人を追い詰めた。

 犯人は黒いコートを着込んでおり、顔は見えない。


「仕方ないわね…っ!」


 犯人は持っていた下着をこちらに投げると、コートを脱ぎ姿を現した!


「あれを見るッス!」

「あぁ、この時代にしまパンがあるとは…!」

「そうじゃないッスよ!犯人を見るんスよ!」


 俺は散らばった下着を疲労手を止め、犯人の姿を見た。


「あれは!」


 そこに立っていたのは紅い髪の少女だった、見た目は幼く俺好みである。

 しかしこんな少女が下着なんて盗むとは思えない、ということは何だ何が目的だ?


「そりゃあ、お前アレじゃね?ヤタが教えてくれた「百合」とかいうやつ?」

「それか!」

「いや違うだろ…」


 丁度別行動中だったゼル班と合流した、ゼルが何を言っているのかはきっと知らないほうが身の為だろうけど。


「お前ら、私が女だと思って舐めやがってぇっ!」


 少女が屋根に手を当てると、手元からは魔法陣が現れた。


「あれ、これってデジャヴ?」


 魔法陣から屋根を渡るように炎が現れる、そのまま俺へと炎の波が向かってきた!


「どくっスよ!『サンダー・シールド』!」


 タカミは壁のように固めた電気の膜を作り、少女の放った炎を相殺した。

 それにカウンターでも返すかのように電気の弾を少女へと飛ばす!


「きゃっ!」


 タカミもそれなりに考えてはいるようで、少女の足元だけを吹き飛ばして威嚇した。


「わかったッスか、その能力の乱用も犯罪ももうやめるッスよ」


 直接は当たらないように撃ったがそれでも身体に響いているようで、痙攣を起こす足に鞭打って立ち上がる少女。

 その瞳には覚悟の光ともう一つ。


 "危険な感情の芽生え"を見た。


「どけっ、タカミ!」

「うわっ!」


 俺はタカミを押しのけ少女へと向かって走る、しかし間に合いそうもない。

 俺の嫌な予感はきっと的中する、いや絶対だ!


「クリア、ゼル!お前たちは被害を最小限に抑えろ!」


 ったく、俺が隊長みたいになっちゃってるじゃねえか。

 ま、今回ばかりは気がつけたのが俺だけで良かったぜ。きっと全員突っ込んでいたら死んでいた、全員な。


「こんな国…消えちゃえええっ!」


 少女の叫びに応じるように炎の強さは勢いを増し、ついには民家を飲みこんだ。




 ◆




 炎の中、少女の身体に火の粉が返る。

 その火の粉を振り払い、苦しそうに少女はその場に座り込んだ。

 そんな中、軽く微笑み満足そうに炎に飲まれていく。


「あ~ぁ、ママの仇取れなかったなぁ…でもママの元に行けるならもういいや…」


 薄れゆく視界の中、目の前の炎を掻き分け一人の男が現れる。


「お前のママさんがどんな奴なのかは知らないけどよぉ、人様に迷惑かけるなって言われなかったのかよ!」


 身体が持ち上げられる、私はどうやらこの男に持ち上げられたようだ。

 助けてくれるのかな?でももう遅い、この炎は誰にも止められない。誰にも…


「おいっ!寝るなよ、あとでいくらでも寝ていいから!」


 口に布か何かを押し付けられる、煙を吸わないためかな。


「タカ…ここに電…あつ…」


 言葉ももう聞こえない、少女は気を失った。




 目を覚ますとそこは少し焦げ跡の残った民家の陰だった、目の前では私の立っていた場所が燃えており何か膜で押さえられている。


「私の炎を抑え込んでいる…?」


 タカミの電気膜により、炎を覆い込み抑え込んでいた。

 しかしその炎元の建物ももう時間の問題、崩れれば抑え込めなくなる。


「気がついたか、見ろ。お前のしでかした失敗を」


 この男だろうか私を救ってくれたのは。


「ヤタ…これ以上は、もう無理っス!」


 この状況ではクリアの剣も、ゼルの爆力も意味を成さない。

 どうする…どうするよ俺!


「…この国は平和ボケし過ぎだな」


 どこからともなく声が聞こえたと思えば、目の前の炎が一瞬にして消化された。

 どこからともなく水が降り注ぎ、いきなり凍ったのだ。


「誰だ!」


 声のしたほうへと目を向ける、そこには軍服姿の青い髪をした女性が立っていた。


「アイツ…!」


 隣にいる少女の歯が「ギリ!」と鳴る、どう考えてもお友達ではなさそうだ。


「えっと、どちら様で?」

「お前たちなんぞに名乗る価値もない」


 感じ悪いな、俺あの女嫌いだ。


「ぶっ殺す!」


 少女が飛び出そうとしたのでその腕を掴み、その場へと引き戻す。


「離せ!」

「お前、自分のやったことの重みがわかってないんじゃないのか!?泥棒なんかより、ずっと大変なことを仕出かしたんだぞ!!」


 一瞬、女の子の表情が怯えへと変わる。がすぐに元の怒りの表情へと切り替わり、ジッと青い髪の女を見つめた…


「…任務完了、今戻る」


 女はすぐにその場を去った。




 ◆




 タカミといいこの少女といい、どうしてこうも他人の事を考えないのだろうか。

 俺は少女を基地へと持ち帰り、話を聴いていた。


「王には『お前たちが処分しろ』と言われたから、ここに置いてやってるが…死人が出なくてよかったよ」

「…」


 少女は依然として口を閉ざし続ける。


「名前は?」

「…フィア」

「そうか、じゃあフィア。何があった」

「…数年前、私は帝国の帝都にママと一緒に住んでいたわ」


 タカミの眉が動く、どうやらタカミも帝国というものに何か思うところがあるらしい。




 私のパパは帝国の士官を務めていた、でもそんな役職だからこそ悲劇が起きた。


 数年前。帝国でとある事件が起きて、多数の士官や司令官が濡れ衣を着せられて処刑された。

 その処刑される士官の中に私のパパも居た。


 でもパパは自分が死なないために私とママを見捨てた、そして兵士が家に乗りこんできてママは…


「やられた…ッスか」


 よくある話、とでもいうかのようにタカミが聞き流す。


「その帝国って何なんだ?」

「帝国って言うのはこの城の更に上へと昇った場所にある国のことッスよ、この国は帝国のお膝元ってところッスね」


 なるほど。

 すべては帝国に仕切られ、もとい支配されていたんだな。


「んで?下着にどうつながるんだよ」

「それはだな、本屋で読んだ本によると人集めは『下着泥棒』が凄い効果的だって書いてあったから…」

「捨てちまえそんな本」


 つまり、下着泥棒をした理由は城下町をパニックに陥れたかった…ってところか。


「うっし、わかった!じゃあお前、俺たちのところに来い!」

「はぁっ!?私は犯罪者よ!?どうしてそんな話に…」

「少しでも人の役にたって、償え。それと…」


 フィアの頭を撫で、満面の笑みでこう言ってやる。


「お前は"可愛い"からだ!」

「な…なななな!?」


 この後、俺の左頬に紅い椛が出来上がったのは言うまでもない。




「ゼルがゴミのようだ!フハハハハッ!」


 現在、ゼルとタカミは俺の持ってきた「ストレート・ファイターズ2」にドハまりしている。

 クリアはクリアで同人誌を読みふけり、フィアには謎の入れ知恵をしていた。


「なぁ、王よ。なんだかここも温かくなってきたなあって思うよ」

「温かくなっているのはお前の左頬が熱を持っているからじゃ」

「そうか…もう同人誌貸してあげないからな」

「なっ!?ワシは王じゃぞ!?貸せ、貸して?貸してください!」


 部隊の人数も増え、ここも賑やかになったとつくづく思う。

 ただ一つだけ本当に感じることがあるとすれば…



 "ここが俺の居場所"なんだと思う。

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