05話 「とある犯罪者の電気砲」
現代からの帰還を終えて、山奥の本部へと無事に戻ってこられた俺とクリア。
ゼルは現代に戻っている間はどうやら親に異世界の話をしてきたようだ、勿論のこと信じてはもらえなかったようで。
「あ、そうそう。これゼルへのお土産な」
基地内に積まれたダンボールの山から一枚のケースを取り出してゼルに手渡した、これこそ俺の言っていた"ジャパニーズ・カルチャー"である。
「これなんだ?」
「フッフッフ、それこそ俺の勧める作品の一作。『魔法紛争』のアニメ版DVDだッ!」
ゼルは初めて炎を見た原始人のようにDVDを眺める。
ケースを開けたり閉めたりし構造を眺めた後、ディスクをまじまじと眺めて目を輝かせている。
「…ほう」
横でクリアも物珍しそうに眺めている。
今思えば現代でクリアに何もしてあげられなかったと後悔している、もう少しラッキースケベなイベントを引き起こすようなフラグを建てておけばよかった。
『コンコン』
基地の入り口であるドアがノックされる。
クリアは腰の剣へと手を当て、ゼルはボクサーのように面前へと握り拳を構えた。
「…はい」
ゆっくりと扉を開ける、そこにいたのは予想外の人物。
国王だった。
「こっ、国王様!」
俺はクリア達に武器を降ろさせ、国王の前に並ばせる。
「いやいや、そんなに身構えんでもいいよ。今回はお主たちに初任務を与えに来たのじゃ」
「初任務?俺とクリアの教会の戦いは任務には含まれないんですか?」
「あれはそう…なんといったかのう、ああ!そうそう!『ツートリアル』というやつじゃ」
王様、もしかしてチュートリアルって言いたいのかな。
俺が王様へのお土産として持っていったのはゲームカセットだったのだが、結果この世界に電気などは無い。故に王様は説明書を読むだけで終わったのだ、その説明書を音読して説明したのは俺だけどな。
多分、その時に「チュートリアルとはなんじゃ」と尋ねられて説明したのが原初の種だろう。
「それで任務ってなんだよ?」
ゼルがしびれを切らし始める。
「実は捕獲してほしい犯罪者がいるのじゃ。その犯罪者というのがお前たちと同じ能力者でな」
「お前たちと同じ…ってことは、ゼルも能力者なのか」
ゼルは俺の発言の後に椅子から立ち上がると、壁に向かって手を与えた。
「見てろよ…」
ゼルの髪の毛や腕が真っ赤に光り始める、その後部屋には熱気が立ち込めた。
「破ッ!!」
ゼルが声をあげると、壁は吹き飛び焦げ跡が残った。
「俺の能力は"熱を生成し、一か所に集めて爆発させる"ってな能力だ」
「『フレイム・シャフト』ね、子供の頃書物で見かけたことがある」
ゲームで例えるなら炎系魔法、みたいなものか。
「話を戻すが、その犯罪者というのが雷を操る能力者のらしくてな。そやつを捕らえてほしいのだ」
「王様直々とは…」
シンプルイズベスト、単純な能力ほどに恐ろしい。
複雑な条件の能力ほど使う場面が限られるが、その場面に遭遇した時の強さは計り知れない。
逆に単純な能力は単純な分だけ条件も単純、つまり大抵の場面に対応できるということ。よく言えば対応力がある、悪く言えば特化したものが無い。
「まぁ、どっこいどっこいか」
俺達は武器を持ち、基地を出ようとした。
その時、王に引き留められる。
「ヤタよ…」
「なんだ」
王はダンボールの上に置いてある"ブツ"を手に取り、懐へとしまった。
「この本を借りていくぞ」
このタイミングでR指定本をナチュラルに借りようとしやがってる!
こいつやっぱり王の資格ねぇよ!
◆
夜が更け、俺たち特殊部隊はそれぞれの持ち場へと身をひそめた。
「本当にくるのかよ、ふぁ~」
「…馬鹿」
「ンダトォ!?」
ゼルの自堕落な姿を見てクリアが指摘する、それにゼルが怒る。
こんなことをかれこれ一時間繰り返していた。
「お前ら、この"遠距離魔力通信"だって限界はあるらしいんだから無駄なことに使うな」
「へいへい、わかりましたよ…ん?」
ゼルの声色が変わる、通信が途中でプッツリと途切れた。
「おいゼル?おーい!…ったく、もしかして見つけたのか?」
そう思いながらも、魔法機器の故障ではないかと思って"遠距離魔力通信機械"を何度か叩く。
すると突然背後から声をかけられた。
「ん?魔力不良でも起こしたんスか?」
「うーん、それがな?よくわかんないんだよ」
俺は続けて何度か叩く。
「多分叩いて治るものじゃないと思うッスよ」
「じゃあ、どうしろって…」
「ちょっと自分に見せてもらえるッスか?」
俺はしぶしぶ背後からの声の主へと機器を渡す。
すると「バチバチ!」という音と共に機器を返された。
「これでどうッスか?」
「うーん、どれどれ…」
試しに機器を作動させてみると、多少ノイズが入るが正常に作動しているようだ。
「…ザザ…い、おい!…ヤタ、おま…のうし…」
「悪い、電波が悪くて!もっかい言ってくれ!」
その一言を聞いた瞬間、背筋が凍る。
『お前の後ろだ』
ゼルの言葉に声を被せる様に背後の存在が耳元で囁いた、俺の肩へと手を置き下を舐めずる音が聞こえる。
(ヤバい…これ、死んだ…ッ!!)
「ちょっと大人しくしてるッスよ~」
先ほどのような電気の走る音が聞こえ、そこで俺の意識は途切れた。
…タ、ヤタ!
「…っ!?」
誰かの声により無理やり起こされる。
頭に走る激痛を抑えながらも辺りを見回すと、クリアが心配そうにこちらを見ていた。
「痛ってぇ…ちょっと記憶が吹っ飛んでるな…」
「ヤタ、気を失ってた」
そんなことはアニメじゃあるまいし、なんとなく理解できている。
そんなことより敵がどこに行ったかだ。
「ゼルがギリギリのところでヤタの前に来て、追い払った」
「ゼルが?あぁ、だから俺の後ろって…」
しかし近くにゼルの姿は見当たらない、どうやら敵を追ったようだな。
「よし、俺たちも行くぞ」
「…待って」
クリアが俺の服の裾を掴む。
「大丈夫だって、目眩も治まったから…」
「そうじゃなくて」
屋根の上を軽々と飛びわたる影が一つ、その後ろをぎこちなく追いかける影がもう一つ。
「いい加減しつこいッスよ~」
「いいや、ヤタに攻撃した時点でお前は倒すの確定だぜ!」
敵はため息をつくと、更に足に力を込めて屋根の間を飛んだ。
「なっ!?」
距離にして3メートル以上ある大通りの真上を一瞬にして飛び越えた、これにはゼルもついていくことは出来ない。
「へっへーん、これで鬼ごっこも終わりッスね~」
「あぁ、終わりだな」
敵がその場を離れようとしたとき、後ろから声が聞こえた。
「へ、へ~…よく立ち上がれたッスね…」
「あぁ、いろんな意味で頭にキタがな」
敵の逃走経路を塞ぐようにヤタとクリアが立ちはだかった。
「ナイスだぜヤタ!待ってろ、俺もすぐ行くからな!」
そう言うとゼルは踵を返して走り出した。
「さて、犯罪者が女の子だとは…」
「女の子じゃないッス!ちゃんと『タカミ』って名前があるッスよ!」
俺のほうへと人差し指を向けて勇ましく叫ぶ、タカミ。
その手を少しまげて銃の形にすると「ニヤリ」と笑った。
「バーンっ!」
銃声を真似る声と共に、タカミの人差し指から光の道が出来上がる。
その光線のような攻撃は俺のほうへと到達し、左肩を射抜いた。
「ぐあっ!」
着弾の反動に押されて後ろへと反り返る。
しかしタカミは間髪入れずにヤタへと発砲を繰り返した!
『ソード・クラフト!"ライト・イーター"!』
俺へと向かい飛んでくる無数の電撃の弾を切り、相殺したのはクリアだった。
「…油断しすぎです」
「面目ない」
クリアの小言を真面目に受け止め、左肩を抑えながら立ち上がる。
俺はとにかく武器を生成しなくてはと思い、辺りを見回すが何も落ちていない。それもそのはず、ここは屋根の上なのだから小石なんて落ちているわけがない。
「仕方ない…っ!」
俺は剣を構えているクリアをこちらへと抱きよせて、無理やりながらもキスをした。
「…っ!?」
しかし、クリアは銃にはならなかった。それどころか…
「うわっと!?」
「…私の唇を軽々しく奪わないでください」
クリアに斬られるところだった。
声に心情は出ていないが、表情はというかオーラは殺意をこれでもか!というほどに溢れださせている。
「何イチャイチャしてるッスか、舐めるのもいい加減にするッスよ!」
タカミが俺たちの足元へと電撃を放つ!
スレスレのところでその攻撃をかわすが、屋根の破片がコチラへと向かって飛んできた!
「…甘い」
屋根の破片をクリアが全て切り捌き、ついでに叩き落した。
「…使え」
破片の中でも大きめの物をヤタへと投げ渡す。
ヤタは頷くと、その破片に口づけをした。
「…あれ?」
しかし、銃は現れない。
…なぜだ、なぜ銃が生成されない!?
「ハッハッハ!そこの男はさっきから何をキスばかりしているんスか?ソイツこそ"キス魔"じゃないッスか」
思い切りタカミに笑われている、確かに技が発現しない以上ただ物とキスしているようにしか見えないだろう。
「さて、そろそろ終わらせるッスよ…」
ヤタ達はどんどんピンチへと追い込まれていく…!