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04話 「これはデートですか?」

 アラタは激怒した。

 いやパクリというか、実際に激怒している。この状況を作りだした国王に対し、物凄く怒っている。


「なんとけしからん…っ!この俺が女の子と同じベッドに入れる時が来るとは…っ!」


 いや?怒ってるよ、うん。

 怒ってる怒ってる、喜んでいるなんてこと全然ないからね?うん。


「さて、どうしたものか…」


 まさか、この俺にやれと!?

 神はこの俺にやれと言っているのか、この物語を大人向けにしろと…そう言っているのか!


「欲望に負けることも、また一興」


 俺はクリアのクリアな肌に手を伸ばし、そして…


「うーん…」


 布団を裂いて、剣先が俺の頬を掠る。

 そのまま剣は壁へと突き刺さり、俺とクリアの間にベルリンの壁を隔てた。


「ですよね~…」



 ◆



「というわけなんです」

「…なぜ頬に傷がある?」

「気にするな」


 口が裂けても「手を出そうとしたら反射で斬られた」だなんて口が裂けても言えない、言ったりなんかしたら三枚に卸されそうだ。


「…鎧が無い」


 クリアの日頃装備していた青い鎧が無い、それどころか下着のみだ。


「じ、じゃあ!と、とりあえず日用品を買わなくちゃいけないな!」

「…問題ない、王の話によると転送は今日一日だけらしい」


 今日、一日のうちにあっちの世界に持っていくものを集めなくてはいけないのか。


「物まで転送できるのか?」

「昔、少し転送の書物を読んだことがある。ちょっとした物なら…」


 なるほど、クリアが優秀なのは分かってはいたがここまでとは。

 これなら困ることは何もないだろう。


「それで服なんだけど…」

「?」




「…これでいいのか?」


 クリアに俺の推しアニメである「探偵劇団☆ミルキーフォームズ」に登場するキャラが纏っている探偵風のコスプレ衣装を着せたのだ。

 なぜ俺がコスプレ衣装を持っているのかというと、このアニメのブルーレイが発売されたとき。コスプレ衣装に初回限定特典がついてくると聞いて買ってしまったのだ。


「役立つ時が来てよかった」


 やはり俺の見立てに間違いはなかった、クリアにはやたらと似合う。

 異世界人なだけあって3次元と比べ物にならないほど顔が整っており、体型も完璧。これこそ二次元女子だろう。


「じゃあ早速、ゼルへのお土産と基地に持っていく日用品を揃えに行こうか。」



 ◆



 暗く湿った地下牢、

 その更に奥ある扉からは罪人たちの声が木霊する。


「オラァ!今からへばっちまってたら身が持たねぇぞ?ヘヘ」


 吊りあげられた罪人の背中に打ち付けられるは鉄。

 鞭ならばまだ優しいほうで、ここで使われるのは一本の刃そのものだ。


「…つまらんな」


 拷問室の入り口、そこに座り見届ける女が一人。

 腕と足を組み、男の拷問を憂鬱そうに見届ける。


「へへ、大佐~こいつもう瀕死ですぜ?」

「構わん、殺したければ殺せ」


 その大佐の言葉に答えるように吊りあげられた男が顔をあげる。

 口内から血を吐き、それでも最後に言葉を残そうと声を出す。


「よく聞けよ大佐ァ…お前達、帝国軍はいつか滅びる…大臣が、数年前殺したあの男…アイツの娘が絶対にお前達を…っ!」

()れ」


 男が最後の言葉を全て言い切るよりも早く、男の首が落ちた。

 地面に空いた亀裂に流れ込むように血が広がる。


「つまらんな」


 声が止み、静まり返った牢の中には大佐の一言が響いた。



 ◆



「ほう…これはなかなか」


 ハムスターコーナーのケースの前にしゃがみこみ、ひたすらご機嫌そうなクリアが居た。


「動物、好きなのか?」


 素直じゃないのか「うん」とは言わず、いつものように無言で頷く。

 しかしハムスターを見つめるクリアの目が輝いているところを見ると、本当に動物が好きなようだ。


「さて、ゼルへの土産を買いに"アニマイト"と"りゅうのあな"に行くか」


 そう、俺がゼルに言った日本の本当の楽しみ方とは…娯楽文化である。

 この娯楽文化は沼と言っていいほどに最高クラスの文化、日本の誇るカルチャーの一つだ。


「お!最新刊出てる、こっちも!」


 俺が同人誌、もとい土産に夢中になっている間クリアが何をしていたかというと。


「…ふぉっ!?」


 薄い本の試し読みを意図せず開いてしまっており、非常に顔を赤らめていた。


「あ、そういえばクリアって日本語読めるのか?」

「その、にほんご…とやらは知らないがこの書物に書かれていることは絵を見ればなんとなくわかる…」


 確かに、絵だけでも理解できるのが漫画の最大の利点といえるだろう。

 ゆえに、海外からも日本の漫画への指示は高い。


「いや~、買った買った~」


 買い物を済ませ店を出た俺たちはベンチに座りアイスを頂いていた、クリアもアイスは初めてなようで心底喜んでいる。


「…おいしい」


 初めてクリアが素直になった気がする。

 クリアの顔にしばらく見とれていると、こちらに気づいたクリアが顔を隠す。

 しぐさの一つ一つがあざとい可愛さを持つ、意図的じゃないあざとさだ。


「さて、最後はやっぱり…」

「?」




 外観的にはそこまで大きくない模型店のような建物、こここそ俺の目的地。


「ここでしょう!」

「…ここは?」

「ここはサバゲーショップだ」


 といってもクリアにはわからないだろうから実際に入らせたほうが早い、というかこれは完全に俺個人の趣味だがな。


「…これはスゴイ」


 壁にかかった銃、ショーケースの銃。それらを見て驚きを隠せないクリアの姿はなんだかムラ…可愛い。


「これ…好きかも」

「ん?あぁ、『M16』か俺も大好きだよ。他の銃に比べちゃうと"コレ"といった特徴は多くはないものの、俺個々人の感想としてはかなり好きな銃だよ」


 でもクリアの使う武器は剣や刀の刃を持つ武器、だとすればナイフとかも使えるのかな。

 一応、資料だけでも見せておくか。


「店長、確か店長って伝説の武器とかの本を持ってましたよね」


 カウンターにふんぞり返って座るオッサン、この男こそ店長である。

 見た目は怖いが中身はとても優しい。


「お?アラタ~とうとう刃物にも興味がわいたか~」

「勘違いするな、クリアに見せてあげたいだけだ」

「クリアってそこの娘かい?こりゃ可愛いな~一緒に記念写真撮ってもらおうっと」


 いい年して何やってんだこのオッサン、いいからさっさと武器資料をもってこいよ。

 ケータイでクリアとツーショットを撮って満足したのか、急いで資料となる本を持ってきた。


「クリア、何か気になる武器はあるか?」

「…すごく多い、でもこれが気になる」


 クリアが指さした部分に載っていたのは有名中の有名な剣である『斬鉄剣』だった。

 俺も斬鉄剣くらいは知っているので、その剣について説明してやる。


「お!電話だ、読み終わったらちゃんと返せよ!」


 店長が奥へと入っていく、それと同時にクリアが予想外の行動に出る。


「…なるほど、難しい」


 壁にかかっていたAK-47を斬鉄剣モドキに変えてしまったのだ、しかもクリアには元に戻す能力など備わっていない。


「うわわわっ!」

「おーいっ、読み終わったか…」


 店長の言葉が途切れる、それもそのはず。俺が壁にかかっている銃に対してキスをしているのだから…


「お、オメー!前々から『AKと結婚したい』とは言っていたがとうとう売り物にまで手を出しやがったか!」

「ち、ちげぇよ!ほ、ほら返すから!消毒でも何でもしろ!」


 何とか俺の能力で何とか元の銃に戻したが、一つだけ問題があった。


「ったくよぉ…ん?なんか重いような…」


 クリアの襟を掴み、自動ドアへと走る。

 この場を逃げることこそ俺の最大目的、そして店長へのお別れ。


「銃刀法違反はちゃんと守ってくださいね~!」

「…え?…まさかこれって…えぇっ!?」


 遠目にだが、思わず店長がAKを動揺して落とすのが見えた。




「いやぁ、やることはやったし。帰るか~」

「…ヤタ、聞いてくれるか」


 ん?自分から話を振ってくるとはクリアにしては珍しい、少しはこの短時間で打ち解けられたってことかな。


「私は誰かと過ごすというのが初めてだった。それだけではない、誰かと買い物を楽しむというのも初めてだった」

「今日のことはこう言え、"デート"と…」

「でーと?…よくわからないが、私はヤタに感謝している」


 公園の噴水の音が遠く聞こえるほどに、時が止まったように感じるひとこと。

 クリアの笑顔は今日、何度か見たがこれは別格だった。


『色々な初めてをありがとう』


 夕日が俺たちを照らす。

 俺とクリアとでは月とスッポンくらいの差はあるだろうが、それでも日は平等に照らしてくれる。


「え?あぁ、いや~!ほ、ほらクリアだってあるだろ?親と買い物とかさ、そんな感じだよ」


 照れ隠しに行ったこの一言、これが余計だった。

 これがなければこのままクリアを楽しい気分に浸らせてあげられたかも知れない。


「…両親はいない」

「あ…」


 一瞬にしてクリアの瞳から光が消える、これはマズいことをしてしまったようだ。


「…ごめん、余計なことを言って」


 無言で首を横に振る。

 せっかく開いてくれた心の扉を、俺は自ら閉じさせてしまうような真似をしてしまった気がした。


(こうなったら…)


 図々しい、もしくは馴れ馴れしいと思われるかもしれない。

 それでもこうするしかない、クリアの心を少しでも和らげるためには。


 俺は右手をクリアの頭の上に乗せ、キザなセリフを吐く。


「でも、今日のデートでわかった。クリアは楽しい時にはちゃんと笑える()だって」

「え…」


 最初は目を丸くし、驚きに表情を固めていたクリア。

 しかし次第にその白い肌はまたも赤く染まっていく、そして癖なのか剣へと手をかける。


「わーっ!待った待った、俺が悪かった!」


 なんとか斬られることだけは回避できたが、クリアとの幅は一向に近づく気配がない。


「でも…」


 でも、少し扉だけは開けた気がした。




 ◆




 無事、王国へと帰還したクリアは王へと帰還報告をしていた。


「おぉ!戻ったか、クリアよ。すまなかったのう、してどうだった外の世界は?」

「とても良い経験になりました」


 王は満面の笑みでうんうんと頷き、クリアの報告を楽しそうに聴く。


「して、クリアよ。そちは何をしてきたのじゃ?」

「"デート"でございます」

「え!?」


 こうして、俺とクリアの現代での楽しい一日は終わった。

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