お嬢様視点5
彼女は夏の涼しい午後の時間帯を選んで、広場に来ていた。
「桜のおじいちゃん、二人は?」
「二人は席を外しておるよ。 今年の夏は暑いのぉ」
「ええ、だから今時分の涼しい時間にしか来れなかったわ。
会えなかったのは残念。 まあ、いつも会っているようなものだけど」
「お嬢さん、縁談の話しがあるといったの。 引き受けてみてはどうじゃ、『その代りこの里山を切り開かないでほしいと交換条件をだすんじゃ。 でなければ命を絶つ』と。 もちろん最後の言葉は張ったりじゃが、このままずるずるとジンとの関係を持ち続けても不幸になるだけじゃて。
人間は人間の中で幸せを見つけるべきじゃ、生きる時間が違う、流れる時間も違う。 変わっていく自身と、変わらないジンにお前さんは耐えられるかの? 人と悪魔は決して結ばれない」
彼女は馬酔木の母木に近づくと古老に背中を向けたまま言った。
「それって私に大人になれってことでしょ? 歳をとれば、いずれジンとの結婚は本当に無理だってわかるから。
だから諦めさせようとしてくれてるんでしょう?
だけど、私大人になんてなりたくない。 ジンと一緒になれないなら大人になんてならなくていい。 なんで?
ずっとこのままでいられたら、ジンは私を愛してくれるの?」
彼女には言うのが遅すぎたのか、早すぎたのか、古老は測り兼ねた。 それほどまでに彼女は思いつめていた。
「あら? この葉っぱ、変なものがついてる。 三角が四つ、頂点が全部内向きになって、ひし形になってるわ」
「待ちなさいっ!」
彼女は思わずその不思議な葉に魅かれるように、触れていた。
「……たっ!」
そして彼女は手に傷を作ってしまう。 古老はすぐさま若い精霊を呼ぶと、彼女を竹林の外に運ぶように言いつけた。
古老の言葉に渋々ながらも頷いた精霊は、見つけやすいように勝手口近くに寝かしてやった。
勝手口の扉があいたのを見計らって、精霊は去った。
「お、お嬢様! 大丈夫ですか?」
横たわっていた彼女に駆け寄ると、彼女はいきなり吐瀉した。
背中をさすっても、収まる気配がない。
「誰か! 早くお医者様を!」
大声を上げる女中に家中の者はわらわらと出てきた。
まもなく医者が呼ばれ、中毒症状の解毒剤と嘔吐や下痢による脱水への対処として白湯などが勧められた。