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馬酔木(あしび)に恋した  作者: 和久井暁
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悪魔視点4

私は目覚めた。 すると母木のすぐそばに彼女が待っていた。

 彼女はまだ頭がぼぅっとする私を抱きしめて、まくしたてた。

 その様子があまりにも可愛かった。 まるで雛鳥ひなどりのように、鳴いているようで。 母鳥を待っていたようでとても愛らしかった。

 そして彼女はいままで誰も私にかけない言葉をくれた。

 だから私はこのとき自然と答えるべきだと思えた。

 彼女自身の気持ちと、言葉、行動に報いるために。

 キラキラした目に、眩しさを感じてジンは目を細めた。

 逸らしたいのに逸らせない。 なぜ、こんなにかれるのか、

「待っていた」その一言がこれほどまでに嬉しいのか。

私はその感情の名前すら知らずに彼女に微笑んでいた。

「何やってるのさ、ジン! そのお嬢様は裁くべき奴の身内だろ!」

 その時幼い声が響いた。

 私と同じようにまゆから出た小さな弟。 私を補佐するべく生まれた存在。

 黒いうりうりとうねる天然パーマの頭、幼い顔立ちだが、その瞳には無邪気な悪意がある。 白い長そでのシャツ、サスペンダー月の黒いズボン、私とは対照的な黒い手袋。

「あなたは誰? 初めて会うはず……よね? こんにちは、はじめまして」

「ふん、お前なんかに挨拶する義理はないね! お前なんか、病気になっちゃえ!」

 悪魔としての力を振るおうとしたのが理解できた私は、気づけば小さな弟の頭を「ごんっ」、と殴っていた。

「すみません。 こちらはクロウ、今年できた弟です。 母木が私だけでは不安だと寄越よこした補佐ですね」

「まあ、じゃあこんなに小さいのに、私の家の呪いを手伝いに来たのね。 悲しいわ、ジン。 あなたはもうそんなことをしないのだと思っていたけれど」

 残念そうに、悲しそうにうつむくクリスティーナは成長して美しくなっていた。

 なんだか腹がだんだんと立ってきた。

 このまま彼女は日ごとに歳をとり、美しくなるだろう。

 それは彼女のせいではない。 だが年を取り、美しくなったクリスティーナの隣にいるのが、自分ではないことを知っているからか。

 今この場でクリスティーナの命を、強引な形で奪ってしまいたい衝動しょうどうに駆られた。

 そうすれば彼女は花を咲かせる前のつぼみのまま、永遠になれるだろう。

 自分の唾棄だきすべき考えに、浅ましい考えにはっとして頭を振った。

 弟とクリスティーナはまだかみ合わない言い合いを続けていた。

 幸い気づかれずに済んだようだ。

「さあ、いつまでもじゃれてないで、私たちも考えますよ。

 この里山と竹林の伐採などという計画阻止の方法を」

 私の取り仕切りで、二人は言い合いをやめてお互いに案を出し合った。 しかしなん進展もないまま春を終えてしまった。

 それというのも二人がふざけて遊んでしまうのにある。

 精神年齢も、年も近いせいか遊ぶことが楽しいようだ。

 私は生まれた時からこの容姿、この年齢だったせいか、鬼ごっこだとか、かくれんぼだとかいう遊びには興味なかった。

 いつの間にかクリスティーナと、弟の他にも、幼い精霊たちが遊びの輪に加わるまでになっていた。 クリスティーナはどちらかというと精霊に好かれる側の人間だった。

 ある夏の始まり、私はいい加減案が出ないことに業を煮やして彼女に言ってみた。

「ではお父上が、この竹林や里山を切り開かないように言伝願えますか? それともやはり、我々が出向いた方がいいでしょうか?」

「それは……、無理だと思うわ。 実は……私に縁談の話が持ち上がっているの。 その方がお金持ちで、工場の投資と引き換えに私を望まれているそうよ。 もちろん、そんな人に嫁ぐのはいやっ!」

 クリスティーナの顔を見ればそれが嘘でないことぐらい、手に取るようにわかった。 私の感情や思考はむしろどうやって現当主に目を覚まさせるかということにとって変わった。

 クリスティーナをさらうと言えば、そんなバカげた計画は阻止できるかもしれない。 しかし腹いせに竹林だけでも伐採しないとは限らない。 今まで私たちが与えてきた財力が彼女の父親にはあるのだから。 我々の好意が仇となったのか、本当に人とは我々に対して忘恩ぼうおんの徒であることはなはだしい。

 本当にどうやって……、剣呑けんのんに光る私の目に誰も気づかなかった。

 これはもう本格的に計画を実行するしかない。 たとえクリスティーナに嫌われようとも。 その時は、彼女の命も奪おう。

 自分勝手なわがままのために、ジンはこの里山自体も滅ぼしかねない手段を考えていた。 それほどまでにクリスティーナの存在は私の中でいつの間にか大きくなっていた。

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