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馬酔木(あしび)に恋した  作者: 和久井暁
12/13

お嬢様視点7

 ~三年目~


 そして、春告鳥はるつげどりが鳴くころ、ジンがやっともぞっ、と動いた。

 待ち続けた愛しい人の目覚めに、彼女はゆっくりと近づいた。

 そっと涙を流し、拭いながら。

 ジンは当初こそ驚いていたが、戸惑いながらも微笑んで彼女を抱き寄せた。

「お帰り、ジン。 ごめんなさいね、迷惑かけて」

「あなたがかけたわけではないでしょう?

 それに、私の方こそ良かった。 あなたが私の葉に触れたと聞いたとき、その場にいなかったことをどれほど後悔したか。

 そして自分を呪ったか。 せめてあなたと同じ人間に生まれたかった。 そうすればあなたを誰にも渡さないで済むのに」

 それはジンの自身の口から聞いた、ジンの本音だった。

 彼女は嬉しさのあまり、浮かない顔のジンにまたもや抱き着く。

「あなたがそう言ってくれるなら、私はここに一生通う。 そして結婚なんてしないわ。 馬鹿げてると言われたけれど、私も譲れないわ!」

 その時幸せそうに抱き合う二人に、ザッザッザッ、と不吉の足音が近づいてきていた。

「お前か、うちの娘をたぶらかしたのは! クリスティーナ、嫁入り前の淑女しゅくじょが男に軽々しく抱き着きおって。 この尻軽女! 恥を知りなさい!」

 弾薬を先に込めておく、連発式のライフル銃で威嚇いかくしながら、彼女の父親は血走った目でジンに狙いを定めていた。

「娘から離れろこの間男まおとこが! 貴様にはくれてやるために、いままで育てたわけではないわ!」

「やめて、お父さま! 彼は悪くないの。 全部、お父さまと私たちのせいなのよ? 銃を下ろして」

彼女がジンの前に踊りだすと、引き金を引き指をかけていた彼女の父が、誤って引き金を引いてしまった。

父親に背を向けゆっくりと崩れ落ちるクリスティーナ。

 その胸と背中に赤いシミが広がっていく。

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