お嬢様視点7
~三年目~
そして、春告鳥が鳴くころ、ジンがやっともぞっ、と動いた。
待ち続けた愛しい人の目覚めに、彼女はゆっくりと近づいた。
そっと涙を流し、拭いながら。
ジンは当初こそ驚いていたが、戸惑いながらも微笑んで彼女を抱き寄せた。
「お帰り、ジン。 ごめんなさいね、迷惑かけて」
「あなたがかけたわけではないでしょう?
それに、私の方こそ良かった。 あなたが私の葉に触れたと聞いたとき、その場にいなかったことをどれほど後悔したか。
そして自分を呪ったか。 せめてあなたと同じ人間に生まれたかった。 そうすればあなたを誰にも渡さないで済むのに」
それはジンの自身の口から聞いた、ジンの本音だった。
彼女は嬉しさのあまり、浮かない顔のジンにまたもや抱き着く。
「あなたがそう言ってくれるなら、私はここに一生通う。 そして結婚なんてしないわ。 馬鹿げてると言われたけれど、私も譲れないわ!」
その時幸せそうに抱き合う二人に、ザッザッザッ、と不吉の足音が近づいてきていた。
「お前か、うちの娘をたぶらかしたのは! クリスティーナ、嫁入り前の淑女が男に軽々しく抱き着きおって。 この尻軽女! 恥を知りなさい!」
弾薬を先に込めておく、連発式のライフル銃で威嚇しながら、彼女の父親は血走った目でジンに狙いを定めていた。
「娘から離れろこの間男が! 貴様にはくれてやるために、いままで育てたわけではないわ!」
「やめて、お父さま! 彼は悪くないの。 全部、お父さまと私たちのせいなのよ? 銃を下ろして」
彼女がジンの前に踊りだすと、引き金を引き指をかけていた彼女の父が、誤って引き金を引いてしまった。
父親に背を向けゆっくりと崩れ落ちるクリスティーナ。
その胸と背中に赤いシミが広がっていく。




