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書をしたためる

作者: 門棚 祝

――図書館

そこには私の全てが詰っている。

中学二年生の私だが学校へは行かずもっぱら

図書館へと入り浸っている。

いわば不登校と言う奴だ。

別にイジメにあってるわけでもないし

勉強についていけないわけでもない。

単に、純粋に、学校がつまらないのだ。

盆暗な教師の教えは教科書を読めばのっている事ばかりだし

歴史なんて古文を読んだり、調べれば一発で分る話だ。

勉強をするために学校に行く意味が無いのだ。

私はエアコンの付いた涼しい図書館の一角(私専用と勝手に決

めている)へと大量の本を持ちむかった。

本の世界は私を様々な世界へと誘ってくれる。

時には甘い恋愛の傍観者になり、時には勇猛果敢な冒険者の傍観

者になる事もある。

こんなにも胸踊り、楽しめる事など他の娯楽に比べれば私にとっ

ては無い。丁度、持ってきた20冊目の本を読み終わり棚に戻し

ていた時だった。

ショートへアのプラチナブロンドの身長170cmくらいの外人

であろう女性とすれ違った。

ちょっと気になりその女性の持っている本のタイトルをチラ見す

る。


「聖書」

「心と体をいやす食材図鑑」

「自家農園の始め方」


 うむ……外人らしいような気もするような……

そして何事も無かったかのように上の本棚に手を伸ばすと、なん

と、その外人が、私が取ろうとしていた本を取ってくれたのだ。


「サ、サンキュー」


 一応、英語で返す


「どうもいたしますて」


発音はしっかりしているがちょっとおかしい日本語で返ってくる


私は一発でその外人に興味をもった。


「あの、ここへはよく来るんですか?」


「たまに来るよ。君は?」


「私は、毎日来てます!」


ちょっぴり自慢げ。


「学校へは行かないのか?」


素朴な質問だ。


「まぁ、はい、学校はつまらなくて……」


「いじめられてるのか?」


「いいえ、盆暗な教師の教えが大嫌いなだけです」


笑顔でこたえる。


「そうか……知識があっても教養がなければ良い大人にはなれな

い、君の言う盆暗な大人になってしまうぞ」


そうこたえた外人は聖書を私にむかって差し出した


「この本には人生の全てが詰っている。だがもっと面白い事があ

る、それはこれを全部読んだら教えてあげよう」


そう言い残し、外人は去って行ってしまった。

私は焦って外人を呼びとめ自分の名前を教え外人の名前を聞き出

すと外人は「ジェーン・ドゥー」とこたえ行ってしまった。

ジェーン・ドゥー?匿名のアメリカ人女性?謎めいた女性から渡

された聖書がずしりと重かった。


――それから一週間、私は家で聖書を旧約聖書から新約聖書まで

を全部読みきり、ジェーンに会える日を楽しみに待っていた。

面白い事の答えを知りたくて知りたくて仕方が無かったのだ。

毎日毎日ジェーンを待ったが、ジェーンは現れなかった。

そして三週間目の火曜日、ジェーンは顔を出した。


「ジェーンさん!」


私は興奮しながらジェーンの元へ駆け寄った。


「こんにちは、随分元気だな」


ジェーンは静かに言う。


「聖書全部読みました!教えて下さい!面白い事とやらを!」


「そうか」と言いジェーンは私を連れて休憩スペースへ向った。

自販機の前で「なにか飲みたいものはあるか?」とジェーンが聞

いてきたので私は遠慮しながらコーヒーのブラックを頼んだ。

ジェーンも同じ物を買った。


「聖書は人生の迷いを手助けをしてくれる道具に過ぎない」


ジェーンは開口一番にこう言い放った。


「人生の全てが詰っているとはいったがな」


ジェーンは続けた。


「百万冊の本よりも人、一人の人生の歴史の方が面白いものだ」


私は唖然とした。


「他人の人生に興味を持つ事。それが大事であり教養を養う事で

もあるんだ」


「そうですか」


私はショックを受けた。

今までそんなこと考えてもいなかった。盆暗だと馬鹿にしていた

教師にも人生と言う歴史があるのだ。それを見落としていたなん

て。


「分ったなら、やる事は一つだろう?」


ジェーンは促した。


「……はい!」


私は苦いコーヒーのブラックを飲み干し、そのまま学校へと走っ

て行った。

クラスメイト達の歴史を知る為に、先生の歴史を知る為に。

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