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loveTraiangle  作者: 73
1/1

第1話



俺、伊藤圭一郎(いとうけいいちろう)には自信を持って言える自慢がある。



ひとつは 「学力」



小さい頃から理解力はかなりのもので

授業をとりあえずきっちり聞いていれば絶対に忘れる事はない。

テスト勉強もほとんどしなくたって、前日にちょこっとやれば

もう満点は俺の物だ。



ま、一種の特技という訳だな。



次に 「目つき」


俺は非常に目つきが悪い。

親父譲りなのか、この目つきで誤解される事がどれだけあった事か…。俺はケンカなんて全ッ然強くないから番長なんざやってぇっつーのッ!!!



…で、最後が



「家事全般ならび教育世話」



である。



前々はそんなに得意でも無かったのだが(特に後者)

こんな事をしているうちに

いつの間にか身について…いや違う。

身に染みついてしまったのだ。


まあ何せ四六時中主夫業やってんだから

仕方がないといえば仕方がないんだろうが。


まだ高校二年の俺にとっては

結構悲しい現実だったりする。

だってこうやって説明してる今でも

スーパーの安売りの事や閉店セールの事が

頭から離れなくて仕方がないんだから。



どうよ、これが頭から離れない現役男子高校生って!!!



悲しすぎるだろッ?!!



切なすぎるだ




バキィッ!!!




「〜〜〜〜〜〜ッ!!!!」



「馬鹿な事やってるんじゃないわよ。殴るわよ」



「既に殴ってるじゃねぇかッ!!!」



「そんな事より、朝食はもう出来ているの?

それと頼んでおいた書類、ちゃんとお兄様に渡しているんでしょうね?」



「人の話流すなよ…」



「私の話を無視する気?」



「…飯なら出来てるし頼まれた書類ならちゃんと英人さんに渡してあるよっ!!!」



「さて、朝食を食べて来ましょうか。

あなたはちゃんと庭の清掃をしてからにして下さいね」



「…わーってるわっ」



「………………」



「ぐっ…。

わ、わかっています、絵理子お嬢様」



「よろしいわ。 では」



「……………」



「くっそー…腹立つなぁ絵理子の野郎ッ!」



ゲンコツで後頭部を殴るか普通…いってえぇ……。



「くすくす」



…この素敵な笑い方をするのは…



「…英人さん。

何影から笑ってるんスか」



「いや朝から元気だなぁと思ってね」



「元気?!これが元気に見えますか!!!」



「ん?元気じゃ無いのかい?」



「いや…体調的にはすっごい元気ッスけど、精神的には既にボロボロです」



「ははははは」



「いや、笑い飛ばさないで下さいよ」



「まあまあ、別にいいじゃないか。君も絵理子もいつも通りという事は素敵な事だよ」



「…まあ、そりゃそうだけど…

でも今のままだと確実に俺過労死しますよ」



「まぁ絵理子も素直じゃないからなぁ」



「え?」



「いやいや、なんでもないよ。

…そうだな、庭の掃除は暇な僕がやるから君は摩季に朝食を届けてやってくれないかな」



「え…でも」



「たまには自分の家の掃除くらいやらないと…な?」



「英人さん…。ありがとうございます」



「いえいえ。

摩季、まだ寝てると思うけど起こしてくれて構わないから。

寝すぎは逆に体に悪い」



「わかりました。んじゃ行ってきます」



「ああ、よろしく」




‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐




俺の名前伊藤圭一郎。

ちょっと頭が良くて目つきが悪い所を除けばどこにでもいる

ごくふっつーの高校二年生だ。


あ、うーん…やっぱちょっと普通じゃないかな。


何故やっぱり普通とは言い切れないかというと

それは俺の家庭事情を少々話さなければならない。



俺の家族は男だけのむっさい父子家庭である。

母さんが四年前に交通事故で亡くなってしまい

親父と俺と弟の三人で生活していた。…で、この俺の親父がまたすんごい可哀想な男で。

親父の学生時代の友人様達はみんな口を揃えて必ずこう言う。



「不幸に愛された可哀想な男」と。



それは息子である俺も深く頷ける通称だ。


まず、うちの親父は頭も良く運転も抜群だというのに、目つきが俺以上に悪い。

その為カッコイイを通り越し女子からは怖いと噂される。

また、ゲイにモテる。


(ちなみに俺も親父譲りで目つきは悪いが、親父程女子に怖がられるわけではないぞ。

そしてゲイにモテたことも無い)


次に、報われない。

顔に似合わずが結構臆病な性格だから、見事な結果を他人に盗まれることが多々であり

しかも脅しに超が付くくらい弱いので逆らえないのだ。


そしてそれが延長し…つい最近ついにリストラまでされてしまった。


…もうどうしていいのか分からないくらい可哀想な男なのである。



さて、だ。

親父がリストラされたということは

伊藤家は必然的に、そして確実に経済的危機を迎えてしまうという事になる。


母さん側はなんか親父との結婚を認めていなかったせいか

仕送りなんてしないと言っちゃってるし…

しかも親父側の両親は既に他界している。



まさに言葉通り"危機"である。



親父と俺だけならまだしも、有望な我が弟は来年晴れて中学になる小学生だ。



だから俺は親父に言った。



「勇太(我が弟の名)の為に、俺高校辞めて働くよ」



だが真面目で頑固な親父は首を縦には振らなかった。



その後俺は何回も親父に同じ事を言い続けたが、親父はうんともすんとも言わない。



そして何だかんだで貯金が危うくなって来た頃だ。


俺は自主退学を決意した晩、親父が俺に言ったのだ。




「花邑家に住み込みで奉仕をしてきてくれ」と。



意味がさっぱりだった。



「え、花邑って…あの超金持ちの花邑家?」



「そうだ」



「え、なんでぇ?」



花邑家といえばこの辺りに住む人間なら知らない人はいない。


洋風で学校くらいの広さを誇り

門から見える敷地内には噴水やら何やらがたくさんある。


めっちゃ金持ちじゃんよ、的な家だ。



「…隠していたが、お父さんは花邑さん家の亡くなった

ご両親とは実は幼馴染みでね?結構顔が効くんだ」



驚きの新事実にツッコミを入れたくて仕方がなかったが

これにツッコミを入れても今は仕方がない。



「…なんで俺が花邑家に奉仕に行かなくちゃなんないの…?」



大切なのはここである。



親父はもの凄い笑みを浮かべた。



「バイトだよ」



「へ?」



「使用人が欲しくて仕方がなかったそうだ。

ほら、花邑さん家って両親いないし、兄妹が多いだろう?

お前はバイト経験豊富で何でも出来る。

それを伝えたら、じゃあ是非!という話になったんだ」




見事に勝手な話である。

確かに元から生活が大変だったから

色んなバイトを今までしてきたけど…。


それに金持ちの家に住み込みなんて絶対に嫌だ。


という事で流石に断ろうって思ったんだが…



「来てくれたら援助してくれるって言うんだ!!頼む圭一郎!!!

お父さんの仕事が見つかって、安定するまででいいからッ!!」



不幸に愛された男に安定なんて来るのかよ…と言いたくなるくらいムカついたが

こんなにお願いされ、そして援助をしてくれると言うのだから…



…心清らかな俺には断る事ができなかったのだ。





「そして今に至り、あなたは私達花邑家の奴隷となったわけね」



「…奴隷になんてなった覚えは無いねっ」



「あら、私は奴隷だとばかり思ってたけど?」



「てめぇッ…さっさとじょっちゃま学校に行きやがれッ!しっしっ!」



「犬みたいに扱わないで欲しいわね。それにあなたに言われ無くても行くわよ」




…今に至るのである。



家族の為とはいえ、ぶっちゃけ辛すぎる。

いや、まあ食事とかセレブである金持ちが誉めてくれるのは有難いが…



住んでる人間がキツいのだ。



まず、さっきから何かと俺を苛めてくるのが


この花邑家三女で中学時代の同級生


花邑絵理子(はなむらえりこ)である。



顔見知りだけあってとにかく気まずい!!!

しかもやたらとキツい!!!



…一番俺を精神的に疲労させるヤツである。



ちなみに今日は土曜日で学校は休みなのだが

奴は部活動があるので登校しなくてはならない。


…実に嬉しいね。



んで、さっき庭で会った人が現在花邑家を受け継いでいる


花邑英人(はなむらひでひと)さんだ。



彼は中々出来る人だ。

まだここに来て1ヶ月ちょっとしか経っていないが

彼から発するオーラが既に大物だという事を知らしめている。


カリスマっていうのかな。


親父には無い、絶対的オーラだな。



俺の愚痴を聞いてくれる尊敬できる人物だ。



「あ、公義さん」



「ああ…圭一郎様。どうかなされましたかな」



「英人さんが摩季さんに朝食を渡してくれって頼まれまして」



「ああそうですか。

摩季様の朝食はあちらに出来て置いてありますのでどうぞ持って下さい」



「あ、はい。わかりました」



彼は紺条公義(こんじょうきみよし)さん。

花邑家に使える本物の使用人さん。

ご老体だけどしっかりしていて、正直凄い人。

俺は主にこの人から仕事を頼まれるのである。


俺の方が立場下なのに、敬語で話してくれたりして…

偉いなぁって思った人だ。



さて、続けて紹介しよう。



「…摩季さん、入っても宜しいでしょうか」



「…その声は圭一郎君…?」



「はい。朝め…じゃなかった。朝食を持ってきたので」



「わかりました。…入って構いませんよ」



「ありがとうございます。失礼しまーす」




大きな扉を上げると、白いワンピースを来て俺を優しく見つめる美少女…


ああ…相変わらず美しい。


とても絵理子と和夏の姉とは思えん美しさだ。



「…? 圭一郎君?」



「!! あ、すみません。ついぼーっとしてしまいましたっ」



顔に熱があるのが自分でも分かる。

何せ本当に熱いからだ。



「え…もしかして…体調悪いの…?」



「全然!!!めちゃくちゃ元気ですからっ」


あなたを見たら体調なんて回復しますよ…

なんて口が避けても恥ずかしくて言えない言えない。



「…そう、良かった」



良かった、と天使の微笑みで返してくれたのは


花邑摩季(はなむらまき)さん。



細くて白くて美しくて優しい。

病弱だという事を除けばパーフェクトな女性だ。


でも俺的には病弱という要素は萌え要素に入るので全くノープロブレム。


彼女が綺麗だからって結婚を前提にお付き合いしたい男がかなり多いが


まあ気持ちはわかる。


だって本当に素敵な女性だから。


「一人で食べられますか?」



「うん、今日は私も元気みたいだから…」



「そうですか…それは良かった」



「…ありがとう、圭一郎君。心配してくれて」



「! い、いえ…////」



だからその笑顔は反則だから!!!



「…朝からいちゃつかないでよねーお兄様」



「うわっ!!!!!」



「あら、和夏。おはよう」



「お姉ちゃん、おはよっ♪ 調子良いみたいで良かったっ」



「うん…和夏も気付かってくれてありがとね」



「うんっ♪

…んで、お兄様はいつまで倒れちゃってんのかなぁ〜」



「和夏…てめぇなぁ…気配消して現れんなっつってんだろ…ッ!

しかもボディブローかましやがって…」


「えぇー? 和夏そんな事してないよぉ〜?」



とか言いつつニヤニヤ笑っているこのガキは



花邑和夏(はなむらのどか)という、花邑兄妹の末っ子だ。



小学生とは思えんマセガキで、正直生意気である。


ちなみに妹キャラだから俺の事をお兄様vと呼ぶ訳ではない。


こいつはなんと我が弟、勇太に恋をしているのだ。


そして将来の兄として俺を兄と呼んでいるだけなのである。



…ちなみに、俺は勇太との交際は認めちゃいない。


こんな計算的で生意気なクソガキに大切な勇太を渡せるものかッッ


「ま、お兄様に邪魔されても何の障害にもならないケドねぇ〜」



「てンめぇ…」



いつか絶対泣かしちゃるッ…




「あの、それより圭一郎君」



「え?あ、何スか?」



「あの、今日ってバイトの日じゃ無かった?」



「…え?」



「お兄様、今日は土曜日だよ。

昨日の夜『朝入りだからマジきついーッ!!!』とか言ってたじゃん」



………………


…………………………



はぁッ?!!!!




「今何時!??」



「8時を過ぎた所だよ」



「うわーッ!!!!ヤバいヤバい!!!

んじゃ摩季さん、和夏!!!という事で俺バイトに言ってくるわッ!!!」



「あ、はい。…お気をつけて…」



ああ…やっぱり摩季さんは優しいなぁ…



「焦って失敗しちゃえー♪♪」



和夏ァ!!!

てめぇはいい加減にしやがれぇええ!!!



心の中で激しく言うと、俺は急いで支度をする事にした。




俺は急いで摩季さんの部屋から出て階段をダッシュで駆け降りた。

すると公義さんが待ち構えているように階段の傍で立っていた。



「圭一郎様、どうぞ」



「えっ…」



公義さんはにっこり笑って、紙袋を渡してくれた。

その中にはバイト先の制服が入っていた。



「き、公義さん?!ありがとうございますっ」


「いえいえ、お気になさらず。

バイト先の店長様はたいそうお厳しい方なんでしょう?頑張って下さい」



「は、はいっ!!!んじゃ行ってきますっ!!!!」



公義さんッ…俺みたいなバイトにまで優しくしてくれるなんて…

あなたは本当に大物だよっ…。



俺は公義さんの優しさに感動しながら、バタバタと花邑豪邸を飛び出した。



花邑家からバイト先の店までかなり距離がある。


8時半入り…現在の時刻は8時過ぎ…。

間に合う、か?


いや、間に合わなければ殺されるッ!!!



最悪の結果に恐怖しつつ俺はさらにピッチを上げた。


交差点…歩道信号は赤。

普段なら止まるが今はそんな律義にしていられない。


何故なら生死に関わるからっ!!


ププーッと車が俺に対して批難をする。

ああすみませんすみませんと心の中で謝罪しながら



俺はさらに走り続けた。




‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐




「8時30分59秒…さすが圭ちゃん。

ギリギリを愛する男だね、男前だよー」



店の裏口を勢いよく開けた途端に聞こえた可愛らしい声。


拍手をしながら松井が笑っていた。



「はぁっ…はぁっ…。 ま、間に合った……」



あまりにもの安堵に、俺はその場にヘタッと座りこんだ。




「良かったねぇ圭ちゃん。殺されなくて」



さらっと怖い事を言う子だと思っただろう。


でも、これは極めて正しい言葉なのである。


俺は高速で何度も首を縦に振った。



「あら伊藤、今日は間に合ったのね」



奥から店長がやってきた。



「…俺、最近結構間に合ってると思ってるんスけどッ」



「あはっ、そうね。

…もうちょい早く来て欲しかった所だけどねー」



「うっ…ちょい色々ありまして」



「色々?」



「はい、色々」



朝食作りやら庭掃除やら絵理子や和夏の相手やら…


…摩季さんの朝食運びは素敵だったけど。



「圭ちゃん、なんか顔がキモいよ」



「キモいとか言うな」



「確かに伊藤には乙女な表情は似合わないね。何せ、いかついから」



「いかつい、というより目が猫みたいなんだよね。夜中とか光ってそう」



「おい。松井も店長も好き勝手言ってんじゃねーよ。

俺何?人じゃないみたいじゃん」



「まぁいいじゃない♪

それより圭ちゃん、早く着替えないと」



「あ、本当だ。開店しちまうな」



「開店に間に合わなかったらそれこそ承知せんからね」



…笑顔でこえー事を言わないで下さいよ、店長…。




俺が花邑家に住み込みバイトをする前から働いているこの店は

「サンフラワー」といい、店長の松ヶ崎沙耶さんの自店の飲食店で

小さいながらもシックな雰囲気が好評で結構人が来る。


メニューは店長の手作りで美味さは絶妙だ。

俺も店長からほとんど料理を教えて貰っている。


ただ従業員は割りと少なく、店長が気に入った人間しかいない。


まず俺、伊藤圭一郎。

サンフラワーで働かせて貰ってもう3年経つ。

中学3年の時に特別許可を貰って、そして今も働いている。


「あ、伊藤じゃん。おはよ」


「おう松本!」


「今日は店長の瞬殺技、食らわなかったみたいだな」


「当たり前じゃん。

生きる為に信号無視をどれだけした事か」


「ははっ!まじかよ。やるなぁお前」



この男は同期の松本一矢(まつもとかずや)

俺が父子家庭なら、こいつは父のいない母子家庭である。

中学は違ったが、バイトで同期という事もあり仲良くなった。


それにしても店長は父子または母子家庭に弱いんだろうか?



「今日は土曜日だからお客多そうね。

店長、ハナちゃんの世話ってどうします?」


「うーん…ちょっと迷ってるのよね」


「まぁ前は忙しさのあまりハナちゃんほったらかしだったもんなぁ。

めちゃめちゃ泣いてましたよね」


「ははは…」


「じゃあ交代で私達が面倒見ましょうか」


「あ、お願い出来る?」


「もちろんです。…斎藤ももちろんやるんだからね」



「えーッ!!!俺赤ん坊苦手なんだけどなぁ…」



店長と会話しているのが俺と松本から見て先輩の…

女の方が檜山久美子(ひやまくみこ)さん、男の方が斎藤伸司(さいとうしんじ)さん。


二人は同期らしくて、かなり仲が良い。

でも付き合ってはいないようだけど…どうなんだろう。


他には伊坂(いさか)って人と森田(もりた)っていう先輩がいる。

二人共優しく面白い先輩だ。



「ハナちゃんって見た事ある?」


「え?俺はまだ無いなあ」


「伊藤は無いんだ。俺見たことあるけどかなり可愛いぜ」


「まじ?」


「すっごい可愛いのよー!あ、確か詩織も見たことあったよね?」


「え?あ、うん。…頬っぺたとかふにふにしてたよ」


「へぇ〜…って、このメンバーで見たこと無いの俺だけかよ」


「みたいだね」


「はは。仲間はずれー」


「松本うぜぇよそれ」


「ふふっ…」



で、後輩がこの二人。

俺の事を「圭ちゃん」と呼ぶ、松井鈴華(まついれいか)

同い年だけど俺と松本の方が早く働いてるから

ここでは後輩という訳。

ちなみに俺の小学校からのダチの彼女でもある。


んで松井が詩織と呼んだ、この控え目に笑っている子が並木詩織(なみきしおり)

松井とは同期だけど学年はひとつ下というまさしく後輩。

ただ松井が遅生まれだから松井と生まれた年は同じだったりする。他に佐久間(さくま)ってのと愛澤(あいざわ)ってのと水川(みずかわ)っていう後輩がいるけど

今日はシフト入っていないらしい。

後輩は中々の生意気なやつらが多かったりする。



以上がサンフラワーのバイト諸君だ。

ちなみに正社員についてはあまり個性が無い方々ばかりなので省略してるよ。


高校生の時給は770円とちょっと高め。

ただ俺と松本の片親家庭コンビ(by斎藤先輩)は780円と特別高くして貰っている。


時間には厳しいけど、店長の優しさが垣間見える所だ。



「垣間見えるって…私はいつでも優しさで溢れてるつもりだけどなぁ」


「え?」


「何よその「え?」ってのは」


「ああいや、ついポロッと」


「……伊藤」


「ああああいやいやいや!!

ンもー顔が鬼になってますよ、美しい店長様♪」


「あらいやだわ。私ったら…うふふっ♪」



で、この松ヶ崎沙耶(まつがさきさや)店長は時間には恐ろしいが優しい店長。

24で、去年一人娘の花華(はなか)ちゃんを出産しお母上になった方。

ただ、このハナちゃんを産む時には色々苦労したようだ。

まず、妊娠発覚の時には既に店長の夫…松ヶ崎聖馬さんは

病気で亡くなっていたからだ。

つまり店長は子持ちの未亡人なのである。

親は既に他界してるって聞いていたけど…多分聖馬さんの親方に相談したんだろう。


ハナちゃんが無事生まれたって先輩からメールを貰った時は

そりゃ嬉しくて松本に電話したくらいだ。



…つまり、俺達サンフラワーメンバーはかなり仲が良かったりするのである。




「さ、だいたい準備は完了したね?

今丁度9時前の開店直前! みんな今日も頑張るよ!!」



オーッ!!!とみんなが叫ぶと同時に

サンフラワー内に時計の音が響き渡った。




‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐




店に客が入りだした頃。

俺は裏方で皿を洗ったり、盛り付けの手伝いをしていた。

流石に休日だけあって家族連れの客が多い。


「そろそろカップルが入ってくる頃だな」


「ああ、そーだな」


「この前のカップル、覚えてるか?

なっかなかメニューを決めない割りにずっといちゃいちゃしてんの!」


「忘れるわけねーだろ?

あーゆー客が一番迷惑なんだよなぁ」


「・・・そういえばさ、お前ってあの花邑豪邸でバイトしてんだろ?」


「ああ・・って、何で知ってんの?」


「世間のおばちゃま方の噂話はすげぇってことで」


「ああ・・・なるほどね。

で、それがどうかした?」


「何言ってんだよっ!

な、美人って噂は本当なんか?」


「美人って・・・誰が?」



まあ、誰を聞きたいのかなんてわかりきってるが・・・



「花邑摩季って女性だよ! すっげー美人なんだろっ?」


そうらきた。

どうせ摩季さんの事だと思った。


「な、な! 会った事あるんだろ!?」


「そりゃまあ、あそこの手伝いやってるからな」


「じゃあ! どんな感じなんだよっ!」



・・・・期待の瞳で満ちてるねぇ、松本君。


でも、俺が期待通りにすぱっと応えると思うか? 思うのか?


なら甘いぜ小僧!



「んー…摩季さんかぁ…そぉだなぁ〜」


「もったいぶらずに教えろよっ!」


「え〜…だってぇ、お前に摩季さんの情報を教えて、俺何か得すんの?」


「ん、俺との愛情度が上がるね」


「てめえとの愛情度なんざ上がったってしょーがねぇだろうが気色悪いッ!」


「あっ。ンな事言っていいのかぁ?

友人との友好度は大切なんだぞー?」


「友好度と愛情度じゃ意味が違うだろーがッ!!!」


「…ははっ」


「! なんだよ松井」


「ううん。なんかさ、圭ちゃんとかっちゃんって…

委員会の先輩達に似てるなぁって思って」



んなっ!!!



「まさかそれってシモウエコンビの事か!?」


「うんっ」



そりゃないよ松井ー!!!



「? なんだ、シモウエコンビって…」


「あ、えーと。

俺と松井やらが入ってる委員会の先輩達なんだけど…なんかすげぇのいつも。

顔会わせたら絶対漫才するんだよ」


「さっきのような感じのやりとりをいつもやっててね。

さっきの場合だとかっちゃんが上田先輩って人で、圭ちゃんが下村先輩っていう人みたいだったんだ」


「へぇー!」


「お互いは仲良く無いって言い張るんだけどね」



別に仲良く無いまでは俺だって言わないけど

まさかあの先輩らみたいに思われるなんて…

正直へこむなぁ…。



「こらお前ら。

ぺっちゃくっちゃ喋ってねぇで仕事しろ仕事!」


「斎藤先輩に言われなくったってやってまぁす」


「くー!! 生意気言うなぁ松本ー!!

そんな生意気な奴には、こうしてやるっ!!」


「ぐへぇぇぇ!!!せ、先輩ッ…く、苦しいッ!苦しいッス!」


「まいったかぁ?!!」


「…あんたが何やってんのよ、斎藤!!!」



バキッ!!!



「オオオォ…頭の天辺がぁ…」


「はぁッはぁッ…し、死ぬかと思った…」


檜山先輩に叩かれた斎藤先輩と、斎藤先輩に首を絞められていた松本は

同時にその場に倒れこんだ。



全く…騒がしいバイト先だよなぁ。



「伊藤、松本!カウンターお願いーって…なにこれ、どうかしたの?」



カウンターから入ってきた店長が目を丸くさせていたが


俺はあくまで笑顔で大きく返事をした。



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐



接客や厨房を交互にこなしていくうちに

時計の針は3の数字を指そうとしていた。



「伊藤、松本ー。お前ら3時上がりだろ?」



「あ、はい」



「んじゃ悪いんだけど、俺5時上がりだから

それまでどっちかハナちゃんの世話をしてくんないかな」



「え゛ー…」



「よしっ! んじゃ松本、お前に頼んだぜっ」



「げっ」



「お前は正直すぎるんだよ、んじゃお疲れっしたー」



「あ!ちょ、伊藤てめーッ!!」



「どこ行くのかなぁ松本君。そっちは休憩室だぜぇ?

ハナちゃんがいる所はに・か・い・♪♪」



「さ、斎藤先輩ッ…お、俺には帰りを待っているママと妹がぁ!!!」



「はいはいはい。そりゃー俺だって同じだぜぃ」



…ご愁傷様です、松本君。

斎藤先輩に連れ去れてゆく松本を、俺は背中越しに合掌した。


さて、と。

さっさと着替えて買い出しに行かないとなぁ…。



「…伊藤」



「あ、店長。お疲れ様です」



「ああ、うん。お疲れ様」



…?

あれ、何か様子が変…



「店長、どうかしました?

何か俺に用事ですか?」



「え、あ、うん…用事っていうか…」



…歯切れの悪い店長なんて、何か珍しい。

本当にどうしたんだろう。



「さっき、松本と話してた事って本当なの?」



「さっき…って?」



「あの、花邑家で住み込みのバイトをしてるっていうの」



あ…あれか…。



「ええ、本当ッスよ」



「そ、そう…」



「? それがどうかしました?」



「えっ?!あ、ううん。

ほら、あんなお金持ちの家で住み込みバイトなんて

食事とかきっと豪華で凄いんだろうなぁって思ってね」



「んー…そうでも無いッスよ?

花邑の人達と一緒に飯食ってないし、俺は紺条さんっていう執事みたいな人と一緒なんで。

食事の中身も全然違うんです」



「へぇ…そうなんだ」



「あ、実は俺も朝食に関しては作らせてもらってるんですよ」



「そうなの?」



「はい。 店長から教わった料理のスキルを存分に発揮してます」



「あはっ、そっか。

なら私も教え甲斐があるわね」



「はい! これからもめっきり指導をお願いしますねっ」



「…わかったわ」



「ありがとうございますっ!

…あ、俺買い出しに行かないといけないんで、そろそろ帰りますね」



「あ、そうなんだ。

ごめんなさいね、呼び止めちゃって」



「あぁ、もー全然大丈夫ッスよ!

んじゃ、お疲れ様でしたー」



「あ、ねえ伊藤。

これだけ、聞かせて?」



「はい?」



「…あなた…」



その時の店長の顔は

とても真面目な顔つきをしていた。




‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐




「…よし。

とりあえず、こんなけありゃあ充分かな…ん?」



あれ、あの後ろ姿って…



「絵理子ー!」



「え?」



あ、やっぱり絵理子だ。



「よお絵理子。

部活動お疲れ様ー」



「け、圭一郎?!

…呼び捨てなんて、相変わらず馴れ馴れしいわよ」



「いいだろー別に。

かつてはクラスメートだった仲じゃんか」



「いつの話の事かしら」



「中3」



「………………」



「あれ、違った?」



「…よく覚えているわね」



「いや、だってあれから2年くらいしか経ってないし。

むしろ覚えて無い方が不思議じゃないか?」



「あらそう。

私は全っ然覚えて無かったわ」



「うわーそれ、すんごい寂しッ」



「ふん」



相変わらず愛想のない女だなぁもー。

まぁそりゃそうか。

俺、中学の頃から絵理子に避けられてたみたいだし。


こうやって絵理子って呼んでるのも友達につられて呼ぶようになっただけだもんなぁ。



…あれ、そういえば…



「…なあ」



「何よ」



「今だから聞くけど、お前なんで普通の一般中学に通ってたの?」



「…どうして今さらそんな事を聞くのよ」



「ん、なんか急に気になったからさ。

普通、家の為に有名校に通うもんなんじゃないのか?

今の高校みたいに」



もしかしたらこういう考え方自体古いのかもしれないけど。



「………………」



う…に、睨まれてる。

俺そんな悪い事聞いたか…?



「こ、答えにくいのなら…別に無理して言わ」



「あなたみたいな人には絶対教えないわ」



「……え」



「そうね。

もう少し女心がわかるようになった時にでも…

ヒントを与えてあげるわ」



「…なんだよそれー」



「ふふっ」



絵理子はさっきの表情とうって変わって


とても可愛らしい笑顔で笑っていた。



そんな絵理子を見て、俺は小さくため息を付くとこう思った。




教えてもらえるには

まだまだ時間が掛かりそうだな…って。




「ほら、早く帰るわよ。

圭一郎!!」



「…はいはい。

わかったよ、わがままお嬢様」




なんだかんだ精神的に苦痛を感じる毎日。




『…あなた…辛くはないの?』




…辛いッスよ。




でも、どうしてなんだろう。



めちゃくちゃ辛いはずなのに




「遅い!」



「痛っ!!!

お前ラケットで頭叩くな馬鹿ッ」



こういうやりとりが



なぜか俺の疲労をいつの間にか解消してくれるんだ。




だから…辛くない。




…っていうかなんかもう…




『……辛い通り越して、スゲー楽しいです』




第1話…了





読んで頂きありがとうございます。

なにぶん国語力が無いので

オカシイ所はあるとは思いますが

気楽に間違ってるぜぇこいつ!

みたいに笑い飛ばしてくれれば幸いです。



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