心
心は初めから持っているものでなく、誰かに与えられるものだと考えるのです。
だから、失ったとしても初めから持っていなかったとしても、誰かが抱き締めてくれるのなら、人間は何度でも愛することができる。
生きることは感じることだと考えるのです。
だから、感じることができなくなったら、人間は死ぬのかもしれない。
ナギはチャコがいる限り、いつか心を得ることができる。
そう信じています。
「チャコ隊長」
「んあ?↑」
チャコは眉を寄せると、眼を鋭利にする。(忠告すると怒っているのでなく、これが彼の真顔である)
泣く子が黙るどころか、チンピラも泣きだすであろう剣幕に、しかしナギは動じない。
「眉が連結しています」
「るっせーぞ、ゴラァ↓」
チャコがすごみながら、眉間を指先で撫でる。
気にしているようだ。
繋がっているのは毛が生えているからでなく、彼が眉間を寄せるからなのだが。
「さっさと用件を言わんが、用件を↓」
「サラマット隊長に頂いたトマトの苗が萎れました。原因究明を手伝って頂きたいのです」
「サラマドに聞けばええじゃろ↓」
「彼はわたしが嫌いなようですから」
淡々とした口調には、少しの揺らぎもない。
「あいづが?」
「わたしとの接触を避けているようなので」
マスクの下で、チャコが微笑む。
慣れない動きに筋肉がひきつり、ぎこちない笑顔ができあがった。
「嫌いな相手にさ贈り物するけ?↑あいづはどうしたらええが、わからんだけじゃよ→」
ナギは顎に手をやり、考え込んでいる。
チャコは彼女の手から、苗を受けとった。
「葉っぱが縮こまっとるけえ、肥料のやりすぎじゃ↑」
「肥料の袋にある説明書通り、正確に計算したのですが」
「植物は植物によって、肥料の量も違うけえ↓」
「随分と枯れてしもとるなあ↓」とチャコが変色してしまった葉をちぎる。
「あの」
「なんじゃあ?↑」
「苗は…枯れてしまいましたか?」
ナギの瞳が不安で揺れる。
―枯れたはずの彼女の心が揺れている。
「…枯らしてしまっては信頼関係が崩れ、今後の任務に支障を来す恐れがありますので」
「……」
「チャコ隊長?」
「あ…ああ↓」
茫然とするチャコをナギが覗きこんだ。
そこにあるのは、いつもと変わらない無表情な顔だ。
チャコは首をぶんぶんと振って、脳裏の記憶を霧散させた。
「苗はもう、死んでしまいましたか?」
「枯れてはいるが、死んでねえ。→愛情かけて育てりゃ、また育つち↓」
「植物は強いです」
「強いのは植物だけじゃあねえよ↑」
チャコは風に揺れる葉をそっと撫でた。