表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

井上達也 短編集3(それでも彼はまだ書いてる)

自己啓発本を読むのは誰でも出来るっておじいちゃんは言ってた

作者: 井上達也

 朝焼けはたまに見るととても美しい。高校生だからといって早起きをしてはいけないという制約はこの世界にはないだろう。

 今日は、早く目が覚めた。理由は簡単だ。寒いからだ。よくよく自分を見てみると、大量にかぶせていた毛布がベットの下に落ちていた。自分の寝相の良さに、感動すら覚えてしまった。

 俺は、早く起きてしまった朝には決まってあることをする。散歩である。俺は、歩きのは大好きなのだが、走るのは嫌いである。先日、友達にそのことを話したら、笑われたあげく、馬鹿にされてしまった。歩くのが好きなら走るのも好きだろと。歩くことと走ることは絶対に別ものであると俺は考えている。人から笑われようともその信念を変えるつもりはまったくない。もし、歩くことと走ることが同意義ならば、お散歩番組など成り立たないじゃないか。走りながら、商店街のおばちゃんとかに話しかけるなんともアグレッシブな番組ということになる。しかし、そんな番組もどこかに需要があるのだ。


 

 高校生になった。小説を読むようになった。それくらいの進歩しか今の所、確認はされていない。高校に入ると周りの友達が一変した。中学までは小学校からの同級生がたくさんいたため、同じような顔を毎日のように見ていたのだ。

 高校と言う場所は、自分で言うのもなんだが奇妙な場所だ。みんな、よそいきの格好をした人々に見える。無理をしているとも言える。知らない人々に顔を合わせるのはなにも俺だけじゃないのだ。みんな、知らない顔に出会う。良い言い方をすれば、緊張しているということだろう。



 俺は、高校に入って初めて「競争」というものに出会った。中学校の頃には味会わなかった感覚である。

 競争とは、文字通り同じ目的を持った他人と競い、争うことをさす。競争の特異な点は、オンリーワンではなくナンバーワンを競うものである。そこには絶対に勝者と敗者が存在する。商社ではなく、歯医者でもない。

 勝てれば嬉しいこと、この上ない。しかし、負ければそれは絶望を意味する。どうあがいても、どう言い訳をしても敗者は勝者に対しては上からモノは言えない。その勝ち負けが実力以上の何かが左右したとしてもだ。

 さらにいえば、人間は争いを避けることも可能である。競争は、自らが争うという意識がなければ生まれない。つまり、俺は競争するという意識を高校で初めてもった。中学校の頃はその辺に関しては疎かったらしい。

 俺が身を置いた競争の場は、部活だった。中学校の頃の部活は、それこそ小学校の頃からの友達を誘って入部した、なあなあな部活だった。ちなみに、将棋部である。負けても勝っても特になにも感じなかったし、みんな弱かった。公式戦に出ても区大会では個人も団体もみんな一回戦負けだった。元から向上心みたいなものが弱かったのだ。

 俺は、高校でも将棋部に入った。弱かったけど将棋自体はわりと好きだったし、なにより中学校の思い出が良かったからだ。しかし、それは高校の将棋部であっさりと崩れ去った。名門とまではいかないけれど、区大会では上位に毎回組み込む、この地区ではなかなかの強豪だった。

 ならば、部活もとっとと辞めてしまえば良かったのだが、俺は辞めなかった。それはどうしても勝ちたいヤツに出会ってしまったからだ。同じクラスのあのおかっぱ野郎に。

「ははは、君弱いよね。え、中学で将棋部だったの?え、嘘でしょ。高校からかと思った」

 それが、ヤツとの初対局後に俺に言い放った言葉だった。俺は、絶句した。別に、将棋を本気でやっていたつもりはなかったが、自分の中学3年間を、たったの一局で否定されたような気がしたからだ。



 俺は、その後将棋を基本から独学で学び直した。俺は、ヤツに勝ちたかった。戦法を覚え、棋譜も読み込んだ。

 それでも、俺は何度対局してもおかっぱ野郎に勝てなかった。運とかそんなまぐれな勝ち方すらなかった。完敗だった。ある日、俺は、おかっぱ野郎になんで俺はおまえに勝てないんだと聞いた。

「勝てない理由?まぁ、細かくはわからないけど、僕は小学校1年生の頃からおじいちゃんと将棋をやってるんだ。君のように中学の頃に遊びでやっているようなヤツには負ける気がしないけどね」

 その通りだった。たしかに自分では努力をしているつもりでも、自分よりもヤツは努力していたのだ。俺は、この言葉に言葉以上の重みを感じてしまった。


 結局俺は、高校3年間で一度も彼には勝てなかった。そして、彼は当高校初めて県大会で優勝し、全国大会に出場した。



 高校2年ともなると、大学受験の話が友達の間では持ちきりだった。偏差値、偏差値、偏差値。お菓子みたいな大学の総称、いきなり英語で大学の総称をいったり、正直俺はついていけなかった。

 ここでも競争は起こった。そう、もっとも競争の中ではメジャーな「大学受験」である。


 俺は、自分の学力を考えた大学選びを行った。将棋をやっていた経験から、準備は怠らなかった。しかし、またしても悲劇が俺を襲った。一緒に勉強していた仲間に負けたのである。

 たまたま、同じ学校を挑戦校にしているヤツで一緒に勉強する仲間だった。大学を受けた感じでは正直受かると思ってはいたのだが、落ちてしまった。しかし、その仲間は受かったのだ。話を聞けば、たまたま前日に見ていた参考書の1ページがまるまる出た箇所があったと言っていた。俺は、唖然とした。なぜならば、予備校の模試ではいつも彼には勝っていたし、彼自体もそれほどの実力はなかった。

 前日は俺も努力はした。出そうな範囲は確認した。それでも俺は落ちたのである。しかし、結果だけみれば、俺は落ち彼は受かったのである。そして、他人は結果しかみず過程など評価はしない。この悔しさは誰に言えばいいのだ。だって、彼は運で受かったのだ。

 そして、結局僕は滑り止めの大学に行くことになった。受験後、その彼は、自分の実力だと言って周りに自慢していたのは今でも思い出す。そして、その度に悔しさがこみ上げてくる。



 大学に入っても同じだった。結局高校の頃の話が繰り返された。資格試験、就職活動、その後のプロジェクト。いくら努力したとしても、俺はなににも届かなかった。しかし、俺よりも実力のあるヤツはもちろん結果を出していたが、低いヤツも結果が出ていた。その度に、いや君の努力の仕方が間違っているんだと言われる始末。ますますよくわからなくなっていったし、悔しさや悲しさが体中に貯まっていった。

 たまに、体を壊すこともあった。激しい頭痛に教われたり吐いたこともあった。それでも、俺は歯を食い縛り耐えた。俺にもいつかかならず成功が訪れる、努力は叶う。そう信じていた。


 そして、俺は60歳になった。結局なにひとつ目立った功績もなく、定年退職となった。そして、70歳の時に不慮の事故で亡くなった。


 結局、俺は何一つ成し遂げられなかった。結果はついてこなかったが、過程については自分がよくわかっている。とても頑張った、努力した。それは胸を張って言える。

 運も実力のうちとはよく言うが、それはごもっともだ。きっと俺のような人間が考えたに違いない。俺は「努力」という言葉に踊らせれていただけなのか。ありとあらゆるものを我慢して、挑み、苦しみ、敗れた。連戦連敗。一度も勝てなかった。



 神様にお願いが出来るのならば一つだけ、死ぬ間際にお願いをしたい。この世から努力という言葉を消してほしい。そして、どうか努力をしている人間には、必ず成功を与えてほしい。目に見える結果を与えてあげてほしい。

 矛盾しているだろう。努力と言う言葉を消してほしいのに、努力する人間を応援することを。



 俺は、そっと目を閉じて深い眠りについた。一生覚めることのない眠りに。








 


 

 この物語は、フィクションです。昔、運で資格試験に受かったヤツがいたのを思い出して、怒りがこみ上げて殴り書きました。その点に関してはノンフィクションに近いです。過程を評価すべきとは正直思いません。結果がすべてです。競争があるから成長があると私は思ってます。でも、時に理不尽な時もあるわけです。その時は、やっぱり泣いてしまうじゃないですか。人生なんかを左右されてしまう場合なんてもってのほかで。

 負けても這い上がる。次は勝つと。決して同じ土俵で勝負しなくても良いんですよ。仮に収入で戦うならば、お金の稼ぎ方は何通りもあるわけですし。勝負の仕方は自由。あれとあれ、これとこれで戦う必要はまるでなくて、あれとこれで勝手に勝負をしたって良かったりするわけで。その点に関してはこの物語の主人公「俺」はあれとこれの思考がある(走ると歩くについて)くせに、競争にあれとあれ思考を持ち込んだから残念な最後を……。

 解説っぽくなってしまいました。解説しないとわからない小説なんて面白くないですけどね。ははは。

 それではまた読んでいただけたら幸いです。ではでは。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして(・∀・)♪ 読ませていただきました* とても面白かったです\(^O^)/ これからも更新頑張ってください(*^-^*)
2012/08/20 09:24 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ