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第9話

京の町中-


中條が独り歩いている。

特に用事があるわけでもない。暇だから外に出ただけである。


「中條さん!!」


その声に驚いて、中條は振り返った。

見ると、同じ一番隊の山野 八十八やそはちが走り寄ってきていた。


中條「…先輩。」

山野「だから、その「先輩」というのはよしましょうよ。同い年なんだから…」


山野が照れくさそうに頭を掻きながら言った。

見れば見るほど好青年である。そして、にこにこと愛想がいい。

いつもぶすっとしている中條とは正反対であった。


山野「どこか、行かれてたんですか?」

中條「いえ…暇だから。」


いつもの無愛想な態で中條は答えるが、山野は気にしないのか「そうですか」とにこにことして言った。


山野「沖田先生を見ませんでしたか?」


中條は目を見開いた。


中條「…先生がどうかしましたか?」

山野「いえ。先生はいつも独りで、ぶらっと外へ出てしまわれるのですが…。副長が心配して、私に探しに行くようにおっしゃるのです。」

中條「見つからないのですか?」

山野「ええ。…たぶん、礼庵先生のところへいかれているんだとは思うんですが。」

中條「…僕も一緒に行きます。」


山野は「いいですよ」とうなずいて、診療所に向いて歩き出したが、やがて中條の腰元を見て、はっとした。


山野「…中條さん…刀は?」

中條「……」


中條は黙り込んだ。全くの無腰で歩いているのだった。


山野「駄目じゃないですか!…襲われたりしたらどうするんです!」

中條「…務めでない日まで、人を斬りたくないんです。」


中條が一層ぶすっとした表情で答えた。


山野「そういう問題じゃないでしょう。…沖田先生がご覧になったら怒りますよ。」


山野が呆れぎみにそう言うと、中條は少し顔色を変えた。


中條「…怒られるでしょうか…」

山野「…ええ、きっとね。」

中條「……」


中條がとたんにしゅんとしたので、山野は何か中條をいじめているようなおかしな気持ちになった。


山野「…とにかく、礼庵先生のところまで行きましょう。」


山野が苦笑いをしてそう言うと、中條はしゅんとしたままうなずいて、山野の後ろについて歩いた。


山野(…おもしろい人だな…)


山野は、笑い出しそうになるのを堪えながら、中條を連れ、診療所に向かって歩いた。


……


総司は、礼庵の診療所から出て、屯所に向かって歩いていた。

その時、前方から大きな男が2人歩いてくるのが見えた。


総司「…目立つな…2人並ぶとよけいに…」


総司は苦笑しながらそう呟くと、手を上げて二人の注意を引いた。

大男二人は、はっとした表情をして、こちらに駆け寄ってきた。


山野「先生…やはり礼庵先生のところでしたか。」

総司「土方さんに探すように言われたの?」

山野「はい。独りでは危ないからと。」

総司「全く、土方さんも心配性だから…。」


総司は山野の後ろに隠れ気味になっている男に声をかけた。


総司「中條君もご苦労様。…手間をかけたね。」


中條は頭を下げた。うつむきかげんにしている。


総司(おかしいな…彼はいつも人を射るような目をしているのに。)


そう思ったが「帰ろう」と言って、屯所に向かって歩き出した。

が、やがてはっとして、中條の腰元を見た。

刀を帯びていないのを見て、総司は眉をしかめた。

中條と山野がそれに気づいて、ぎくりとしたように立ち止まった。


総司「…中條君…君は、自分が武士であるという自覚があるのか?」


中條は黙って下を向いた。

そして、「申し訳ありません。」と小さく呟いた。


総司「…って、土方さんが見たら、そう言うでしょうね。」


そう言って、にこにことした。

山野と中條は何か面食らったような目で、総司を見た。


総司「非番の時は、君たちの自由だから強制はしないけど…でも、中條君に何かあったら困ります。…邪魔でも刀はつけていて欲しいな。」


そう微笑んで言うと、前を向いて歩き出した。

山野も中條に振り返って微笑むと、総司について歩き出した。


中條(…僕に何かあったら…?)


中條は立ち止まったまま、ぼんやりとした。(ひとりくらい欠けたって、隊がどうなるわけでもない…)と思っていた中條は、複雑な思いを抱いた。


山野「…中條さん!早く!」


かなり離れたところから、山野が手招きをしている。中條ははっとして、総司と山野を追った。


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