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第8話

礼庵の診療所-


総司は自分の胸にもたれて寝入っているみさの顔をじっと見ていた。

みさを膝に乗せ、たわいもない会話をしていたのだが、突然ぷつっとみさがしゃべらなくなったのである。

驚いて背中から顔を覗き込むと、総司の体にもたれた格好で眠っていたのだった。


総司はそのままみさの体を抱くようにして座っていた。


総司(…この子は私のことを信頼してくれているんだな。)


そう思うと嬉しかった。

何か父親になったような不思議な気持ちがしている。


巡察の時は、子供の目すらも怯えて見える。大人が逃げるようにして道をあけるのを「わー!新選組やー!」とおもしろがって叫ぶ子もいる。

何か見世物にされているような気がして、いい気持ちではない。

壬生寺で一緒に遊ぶ子供の中にも、総司を新選組と知って、そばによってこない子もいる。親がそうしつけているらしい。

…せめて非番の時は、務めのことを忘れたいと思うが、そうはいかなかった。

町に出れば、だれかが「新選組だ」と指をさす。

しかし、屯所の中では何か落ち着かない。

そのため、最近は礼庵の診療所にいるのが、一番心休まる時となっていた。


「…!総司殿、申し訳ない!」


突然、背中からあわてた声がした。総司は振り返って、「しっ」と人差し指を自分の口に当てた。

礼庵があわてて口を押さえた。


総司「遊び疲れたようです。…このまま寝かせてやってください。」


総司は隣に座った礼庵に、小声で言った。


礼庵「では、すぐに床を引くので、そこへ…」

総司「いや…」


総司はみさの寝顔を見ながら言った。


総司「このままにしていて欲しい…。動かしたら起きてしまうかもしれない…」

礼庵「しかし、総司殿…お務めの時間が…」

総司「大丈夫です。今日は巡察は夜だから…。」

礼庵「…申し訳ない…」


礼庵は総司にもたれている、みさの寝顔を覗き見た。


礼庵「…安心した顔をしている…」


礼庵がそう言って微笑んだ。その微笑んだ表情を見て、総司はどきりとした。

まるで母親のような、優しい顔だった。


礼庵「…みさは…死んだ父親がとても好きだったのです。」

総司「……」

礼庵「母親もとても優しい人でした。…その両親が亡くなってからは、ほとんど口も利かなかった…。私も預かったはいいが、医者の務めが忙しくて、何もしてやれなかったですし…。」

総司「…そうですか…」

礼庵「その時、あなたが現れた。」


礼庵は微笑んで総司を見た。


礼庵「みさは、あなたに父親の姿を重ねているのでしょう。この子の父親もあなたのように子供好きで、遊びが上手でしたからね。」


総司は、はにかんだような表情をした。


総司「…みさがそこまで思ってくれていると…嬉しいな…。」

礼庵「きっと思っていますよ。」


二人は微笑んで、みさの寝顔を見た。

まるで親が子の寝顔を見ているような光景であった。


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