第6話
鴨川河畔-
中條はぼんやりと、番所の用人達が遺体を片付けているのを見ていた。
それを見届けるのが新人隊士の役目なのである。
本当は中條の番ではなかったが、ほとんどの新人隊士が死体に慣れていないため、役目を果たせる人間がいなかったのだった。
中條はそんな光景をみながら、初めて人を斬った時のことを思い出していた。
……
雨の中からいきなり刀が向かってきた。中條はとっさに身をかわしたが、足元の石につまづきひっくり返った。
上段からせまってきた相手の胴へ中條は死に物狂いで飛びかかった。
相手と一緒になって地面に叩きつけられたが、中條はあわてて立ち上がり、背を向けて逃げ出した。
しかし、相手もすぐに起き上がって追いかけてくる。
中條は一悶、二悶と刀を振り切ったが、とっさに相手の刀を持つ手を両手で押さえた。
力を込めて握り締めると相手が悲鳴をあげて、刀を離した。
落ちた刀を中條はあわてて拾い、次の瞬間には相手の胸元へ刀を振り下ろしていた…
……
中條「…っ…」
中條は吐き気をもよおし、手で口を押さえその場にうずくまった。
あれから、人を斬り続けた。
時には、自分を守るため、時には、人を守るため…。
そうして、人を斬ることに慣れたはずだった。
しかし初めて人を斬った時のことを思い出すと、今でも気分が悪くなる。
「中條君!」
ふいに背中から声をかけられ、中條は振り返ってあわてて立ち上がった。
声の主は総司だった。
中條は、黙ったまま頭を下げた。
総司は不安そうな表情で中條の顔を見た。
総司「大丈夫ですか?…あなたは平気なように見えたから、つい頼んでしまいましたが…。」
中條は首を振って、下を向いた。
総司は用人たちがやっと帰っていくのを見ながら言った。
総司「時間がかかったようですね…。なかなか戻ってこないから、何かあったのかと思って来てみたんです。」
中條「…申し訳ありません。」
総司「あなたが謝ることはありません。」
総司は笑った。
が、やがて真顔になった。
総司「…あなたは…あまり笑わないな…」
中條は面食らった表情をして総司を見た。
総司「この務めは…嫌ですか?」
中條「!…いえ…」
総司「…好きな方がおかしいかな。」
総司が苦笑した。そして、まだ血の匂いの残る河畔を見下ろした。
総司「私にとっても…慣れない務めです。」
中條は少し驚いた表情で総司を見た。
中條(新選組の鬼だなんて…誰が言ったんだろう…)
少し愁いを帯びた総司の横顔を見ながら、中條はそう思った。