第57話
総司の部屋-
珍しいことに、近藤が部屋を訪れていた。
先日、不逞浪士集団への襲撃に手間取り、その後、総司の具合があまりよくないということを土方から聞いたからであった。
総司は、礼庵に無理やりに飲まされた薬のおかげで熱は下がったのだが、今は、近藤に無理やりに床の中で寝かされていた。
総司「近藤先生…。私は本当にもう大丈夫なんです。もう心配いりませんから…」
総司は床の中から懇願するように、自分を睨みつけるようにして傍に座っている近藤に言うのだが、近藤は頑として首を振る。
近藤「私の目をごまかそうとしても駄目だ。お前が本当に寝入るまで、ちゃんとここにいるからな。」
そう言って腕を組み、総司を見つめている。
総司は、近藤にはどうしても逆らえなかった。まるで子どものようになってしまうのである。
総司「…でも…先生はお忙しいのに…。」
総司がそう言うと、近藤は大きく首を振った。
近藤「そんなことはないぞ。気にすることはない。さぁ、まずは目をつぶるんだ。」
総司は言われるまま、目をつぶって見せる。
近藤「そうだなぁ…どうしようかなぁ…。」
総司「?…何がです?」
近藤「こら!目をあけてはいかん!」
総司「…はい…」
総司はあわてて目を閉じた。
近藤「おまえのお姉さんは、どんな子守唄が得意だったのかなぁ。」
それを聞いた総司は、思わず目をあけ半身をおこした。
総司「子守唄だなんて!…よしてください。近藤先生に歌ってもらったら余計に眠れなくなります!」
近藤「なんだ?私の唄ではねられんというのか?」
近藤が少し不機嫌になった。
総司「違うんです!…そんな…近藤先生に唄まで唄わせたら…私は…」
近藤「…?…何だ?」
総司「…試衛館でのことを思い出して…泣きそうになります。」
近藤「…!!…」
総司の少し真面目な表情を近藤は驚いて見た。
近藤「…そんなに…辛い思い出かね。」
総司「いえ…そうではないんですが…何故か…ほら・・こんな風に目が熱くなってしまうんですよ。」
近藤は総司の赤くなった目を見て、自分も目頭を熱くした。
近藤は言葉を発することができずに黙り込んでいた。そして、しばらくして、呟くように言った。
近藤「総司…。おまえはまだ子どもだったのに、お姉さんから離れて…辛い仕事をさせられて…。それでもよくがんばったなぁ・・。」
総司「先生!…私はそんなつもりで…」
近藤はまぁまぁと言って、半身をあげた総司の体をおさえた。
近藤「…よく…ついてきてくれたな…総司。…おまえはこれからもずっとついてきて欲しい。…だから、自分の体をどうか大事にしてくれよ。」
総司「先生…」
総司は胸がつまり何も言えなくなった。
近藤「さぁ、寝ろ。…子守唄は唄わんから。」
その言葉に総司は泣き笑いのような表情になったが、やがて言われるまま目を閉じた。
近藤がまだ赤い目のままで、総司を見ている。




