表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/100

第54話

礼庵の診療所-


総司は礼庵の見舞いに訪れた。

礼庵は元気になっているようなのだが、何か様子を見に訪れずにはいられないのだ。

しかし、それを悟られるのは気恥ずかしいので、いつもシロに会いに行くような振りをしていた。


総司は礼庵が診察を始めたのを婆から聞くと、そのまま中庭へ回り、シロへ会いに行った。

本当は、礼庵が元気なことがわかれば、すぐに帰ってもいいのだが…。


総司(?…みさがいないな…)


総司はそう思い、お茶を持ってきた婆に尋ねた。すると、みさは、礼庵の診察中もずっと傍にいるのだという。


婆「先生の体が治ってから、ずっとああなんどす。…先生が往診に行く時も、ついていくって聞かんのどす。」


婆がため息をつきながら言った。

総司は、婆にみさを連れてきてもらえないかと頼んだ。

婆は快諾し、すぐに診察室へ入っていった。


しばらくして、みさが婆に手を引かれて現れた。

総司を見てもいつものように飛びついてこない。


総司「みさ…先生の診察が終わるまで、おじちゃんと遊んでいようか。」


みさは、総司の前で正座したままうつむいている。


総司「先生はどこにも行ったりしないよ…。ね、遊ぼう。」


シロが尻尾を振って、縁側に両足をかけていた。みさが遊んでくれるのだと思ったのだろう。

みさはやっと顔を上げて言った。


みさ「…先生、ほんまにどこへもいかへん?みさ置いて、死んでしまえへん?」


総司はぎくりとしてみさを見た。みさは両親を火事で亡くしている。礼庵が大怪我をして帰ってきたのを見て、また自分が一人にされてしまうのだと思ったのだろう。

総司は、みさの手を引いて、そっと体を引き寄せた。


総司「大丈夫だよ。…先生はみさを置いて死んだりしない。おじちゃんもちゃんと先生を守るからね。」

みさ「…うん…!」


みさが嬉しそうに総司を見上げた。が、やがて表情を曇らせた。


総司「?…どうしたの?」

みさ「…先生な…時々、怪我したところ押さえて、じっと座っていることあるねん…。うち…あのまま、先生倒れてしまわへんか…って怖いねん」

総司「!?…」


総司は驚愕に目を見開いた。


……


礼庵は診察を終えた後、総司と対面した。

総司が少し厳しい表情をしているのを見て、不思議そうな表情をした。


礼庵「?…総司殿、どうかされましたか?」

総司「…どうかしたのは、あなたの方でしょう…」


総司の怒ったような口調に、礼庵はますますわからないような表情をした。


礼庵「??何がです?」

総司「みさから聞きましたが、まだ傷が治りきっていないそうではありませんか…。無理をしては、みさに心配をかけるだけです。」


礼庵は、自分にぴったりと寄り添っているみさを見た。


礼庵「みさ、そんなことを言ったの?」


みさは、すまなそうな表情で、礼庵を見上げた。


みさ「…だって…先生、時々動かなくなるのだもの…」

礼庵「…ああ…!」


礼庵は笑った。


礼庵「違うんだよ、みさ…あれはね…」


とみさに言いかけてから、はっとして総司に向かって言った。


礼庵「総司殿…ちょっとみさは大げさに考えすぎているようです。今まで怪我をかばっていたのがくせになって、立ち上がる時などにふいに力を入れるのが怖くなるのですよ。その時に、はっとして傷のところを押さえてしまうのです。それだけのことなのですよ。」

総司「本当にそれだけですか?…無理をしているせいで、傷が癒えていないのではないですか?」

礼庵「まぁ…傷跡はひどいものですけどね…。東老医師ももうちょっときれいに縫ってくれればいいものを…」


礼庵はそう言って笑った。

総司はついつられて表情を緩めてしまった。


礼庵「…確かに、まだ本調子ではありません。…でも、いつまでも患者さんを待たせるわけにはいきませんし…。…ご心配をおかけして申し訳ありません。」


礼庵は丁寧に総司に頭を下げた。

総司は慌てた。


総司「いや…頭を下げられては困ります。あなたの立場もわかりますが、どうか…あまり無理をなさらないでください。」


礼庵は微笑んでうなずいた。

そして、みさの頭をなで「みさもありがとう。私は大丈夫だからね。」と囁いた。

みさは、嬉しそうな顔をして、再び礼庵の体に寄り添った。

ほほえましい二人の姿に、総司はつい見入っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ