第5話
鴨川河畔-
血煙が立ち込める中に、三番隊組長の斎藤 一と総司が立っている。
他の隊士たちは、川の中から、怪我人や死体を河畔に上げる作業をしている。
斎藤「助かったよ、総司。最近、数で襲ってきやがるからな。」
総司「場当たり的なやり方ですね。」
斎藤「まぁ、最初は何人かで襲ってくるが、斬りあいになっているのを見て、やつらの仲間が加勢に来るって感じだな。」
総司「…死ねば悲しむ人がいるでしょうに…」
総司がぽつりと呟いたのを聞いて、斎藤は総司の肩を叩いた。
斎藤「あまり深く考えるな。」
総司はうなずいた。
斎藤はそのまま、作業をしている隊士たちのところへ立ち去っていった。
総司は足元で倒れている浪人の顔を見た。
もう息はない。が、まだしっかりと刀を掴んだままで、目を剥いていた。
総司はしゃがんで、その浪人の目を閉じてやった。
急に安らかな表情になったような気がした。
総司「…無念でしょう…。何故、こんなことをしたのです。」
聞いても答えがないのをわかっていながら、思わず呟いた。
生きていたら「ほっといてくれ」と言うだろう。
総司は立ち上がって、新人隊士たちの様子を見た。
黙々と作業をしているものもいるが、ほとんどの新人隊士が川辺のあちこちで吐いていた。
こういう光景に慣れている者は少ないのである。
総司はふと中條の姿を見つけた。
中條は浪人の死体をきちんと並べ一人一人の目を閉じてやっていた。そして、一人一人に手を合わせている。
それに気づいた伍長が中條を咎めた。
総司はその伍長を止めようと、あわてて二人に近づいた。
…が、中條が伍長を睨み返す目を見て、ふと立ち止まった。
伍長もその鋭い中條の目にとたんにしどろもどろになり、言葉を濁してその場を離れていった。
ふと総司と中條の視線があった。
中條の目がとまどう様子を見せた。総司にも怒られると思ったのだろう。
総司は微笑んで、中條に近づいた。
総司「…続けて下さい。…彼らの魂をここにとどめてはなりません。成仏させてあげなきゃね。」
中條は目を見開いて総司を見た。が、やがてはにかむような表情をし、頭を下げた。