第43話
京の町中-
黙り込んでしまった二人に追い討ちをかけるように、礼庵が言った。
礼庵「そう言えば、最近私の方へも顔をお出しにならないですね。…どうされています?」
山野「…お元気にしておられます。」
山野が思わずそう言った。中條は一瞬驚いて山野を見たが、すぐに気づいてうなずいて見せた。
中條「ただ…お務めの方が忙しくて…我々と違って助勤の方は何かと用事もありますし。」
可憐「そうですの…そうですわね。」
可憐が少し寂しそうに下を向いた。山野と中條はぎくりとした表情になり慌てた。
山野「でも、そのうちお暇も取れて、また文を出されると思います。」
中條も山野の言葉に必死にうなずいた。
礼庵はなんとなく二人の様子に何かを悟ったようである。が、何も言わず黙っていた。
可憐「そうですわね。…総司さまからの文を待ちますわ。きっとお暇になられたら下さいますわね。」
可憐のその言葉に、二人は同時に「はい!」と答える。礼庵は思わずぶっと吹いた。
礼庵「失礼。」
不思議そうにこちらを見る山野と中條にそう言い、礼庵は二人の間をぬって、可憐の肩に手をかけた。
礼庵「家へお帰りならば、私がお送りしましょう。お一人では危ない。」
可憐「まぁ…礼庵先生にそんなことをされては…」
礼庵「遠慮なさいますな。…この大きなお二人がついていくより目立たないでしょう。」
その礼庵の言葉に、山野と中條は思わず顔を見合わせた。
そして苦笑した。確かに、一人の町娘に刀を差した武士が二人ついて歩けば、目立つに違いなかった。
山野「では、礼庵先生お任せいたします。先生もどうぞ帰りにはお気をつけて。」
礼庵「ええ…」
礼庵はそう言ってすっと可憐から離れ、二人の間に入って腕を取り、小声で言った。
礼庵「…総司殿にそれとなく可憐殿のことを伝えておいてくださいね。」
二人は小さくうなずいた。礼庵は二人の腕をぽんと叩くと、可憐の元へと戻った。
礼庵「さぁ、参りましょう。…日も暮れかけてます。」
可憐がうなずいた。礼庵は二人に振り返った。
礼庵「お二人とも急いで。暮六つはまもなくですよ。」
「えっ!?」
二人は驚いて空を見上げた。暮が迫っている。
山野「でっでは、失礼致します!」
中條「失礼します!」
二人はそう言い残すと、慌てて走り去っていった。
礼庵と可憐は二人を笑って見送ったが、やがて可憐が真顔になってぽつりと呟いた。
可憐「…総司さま…あまりお体がよくないのですね…。」
礼庵は驚いて可憐を見た。そしてすぐに、にこりと微笑んで見せた。
礼庵「もしそうなら…一番にあなたに甘えるはずですよ。…文をお待ちなさい。」
可憐は頬を染めてうなずいた。礼庵は可憐の背に手を乗せ歩き出した。可憐もうながされるまま歩いた。
空がほんのり赤く染まっている。




