第41話
総司の部屋-
総司は咳を抑えるのに必死だった。
もう巡察に出ねばならない。刀の具合を見、隊服を着たとたん、咳が込み上げてきたのである。
総司(…こんな時に…!)
このまま隊士の前に出れば、隊士に不安を与えてしまう。とにかく咳を抑えねば、部屋を出られない。
咳が出てすぐに薬を飲んだが、効くまでには時間がかかるだろう。それに、薬の作用も対して長くはない。巡察から帰ってくるまでに効いてくれるかどうかも不安であった。
その時、外でばたばたという足音がした。
総司はそれに気づき、咳をなんとか押さえ込もうとしたが、そううまくいくものではない。
「先生!先生!大丈夫ですかっ!?」
中條の声だった。隊士達の準備ができたことを報告に来、総司の咳き込む声を聞いたのだろう。
中條「先生、入らせていただきます!」
そういう声とともに、中條が青い顔をして入ってきた。
そして、すぐに総司の背をさすった。
総司「大丈夫…すぐに治まるから…」
中條は総司の文机の上に、急須と湯のみが置いてあるのに気づいた。あわてて急須の中を見、少し水が残っているのを見ると、それを湯飲みに移し、総司の口元へと持っていった。
中條「少しでも水を…。」
総司「…ありがとう…」
総司はわずかの水を飲み干した。が、それではおさまるはずもなかった。
中條「薬は飲まれたのですか?」
総司「…ついさっき飲んだから…もうすぐ効くと…」
咳き込みながら答える総司の背を、中條はさすり続けるしかなかった。
…しばらくして、総司の咳がやっとおさまった。が、咳が続いたために、まだ息苦しさが残っている。必死に息を整えた。
中條「…先生、お休みになられた方が…」
総司は首を振った。
総司「大丈夫です。行きましょう。…でも、このことは誰にも言わないで下さい。…皆を不安にさせてしまうから。」
中條「…はい…」
中條はそう答えたが、本当に黙っていてもいいものか、心の中で悩んでいた。
……
新選組屯所 大部屋前の廊下--
結局、巡察も滞りなく終わり、総司も最後まで咳き込むことはなかった。
中條はそれでも、総司のことが心配でたまらない。
「誰にも言わぬ」と約束したが、やはり山野には言わずにはいられなかった。
山野「…それで、巡察前に少し遅れられたのですか…」
中條から話を聞いた山野が、ため息をついた。
山野「先生…最近、お医者様のところへは行かれたのかなぁ。」
中條「いえ…行っておられないと思います。…部屋からあまり出ていないようでしたし…」
山野「…じゃぁ、想い人さんにも会っておられないでしょうね…」
中條は黙ってうなずいた。…咳をする日が増えていたため、会わないようにしているのだろう。
山野「…ちょっと、先生のご様子を見に行きましょうか…」
山野がそう言うと、中條は大きくうなずき、すぐに立ち上がった。
……
山野と中條は足音を立てないようにして、総司の部屋に向かった。
山野「…咳をする声がしていませんね…まだ薬が効いているのでしょうか…」
中條「なんだか、静かすぎませんか?…」
山野「…そう言えば…もしかすると寝ておられるのかな…」
中條「…そっとのぞいてみましょうか…」
二人はしばし顔を見合わせてためらったが、やがてお互いにうなずくと、山野がそっとふすまに手をかけた。
「何をしているんです?」
「!!!!!!」
いきなり後ろから声をかけられて、二人は飛び上がらんばかりに驚いて振り返った。
声の主は総司だった。きょとんとした顔で、二人を見ている。
山野「なっなんでもありません!失礼します!」
山野がそう叫んで頭を下げると、固まっている中條をひきずるようにして、ばたばたと走り去っていった。
総司「??????何か用だったんじゃないのかな?」
総司はそう呟いて、何もなかったかのように部屋へ入った。




