第4話
川辺-
今日は総司の想い人、可憐と会う約束をしている日である。
総司は、胸をときめかせて川辺へと向かった。
先に、川面を見つめる女性の姿が見えた。
可憐である。
総司「ああ…今日は私の方が遅かったか。」
総司はそうつぶやくと、小走りに可憐へと走り寄った。
可憐「総司さま」
可憐ははにかむように微笑むと、頭を下げた。総司はまだそんな他人行儀な可憐に何かもどかしさを感じている。
総司「早めに来たつもりでしたが…お待たせして申し訳ない。」
可憐「いいえ。」
可憐はにっこりと微笑んで、総司を見上げた。
可憐「お体の方はいかがですか?咳はでませんか?」
総司「もう大丈夫です。」
可憐「本当ですか?」
総司「本当です。…私が信じられませんか?」
総司は思わず憮然として言った。
可憐がくすくすと笑った。
可憐「いやだ、総司さま。…むきになって。」
総司「…だって、あなたはなんでも「本当ですか」と聞くのだもの。」
可憐「…まぁ…ごめんなさい。口癖なんです。」
可憐の笑っていた顔がふと翳った。
可憐「…よくない口癖ですわね。…本当にごめんなさい。」
可憐の表情の変化に、総司は慌てた。
総司「いや…あなたを責めるつもりは…。…すまない、気にしないで下さい。」
可憐は首を振って言った。
可憐「総司さまが言ってくださらなければ、きっと気づきませんでしたわ。これからは気をつけます。」
総司「…いや…」
総司は困り果てた。しかし、可憐のこんな生真面目なところも好きだった。
可憐「…あの…総司さまにこれを…」
可憐はおもむろに帯の間から何かを取り出した
……
総司の部屋-
総司は文机の前に座り、想い人が縫ってくれた袋を手に持ち、じっと見つめていた。
総司(…これを…あの人が…)
ひと針ひと針に想いを込めて縫ってくれた袋…。
正直、お守りよりもありがたかった。
総司(しかし、いつまでもこのままではいけないな。)
可憐の父親は、新選組を嫌っている…というよりも、長州びいきらしい。
時々、何かの会合にも出ているようだと可憐が言っていた。
総司(そんなお父上を…どうやって説得できる…?)
総司はため息をついた。
池田屋で喀血して倒れた時、労咳かもしれないと言われ、一度別れようとしたことがある。
しかし、可憐は決して離れぬと言った。
その時の、涙にうるんだ可憐の目を忘れられない。
その時、ふすまの外であわただしい足音がした。
総司は予感して、げんなりした。
「沖田先生!…三番隊が襲撃を受けているそうです。副長より出動の命がくだりました。」
その伍長の声に「わかった。皆を外へ」と総司は答えた。
「はっ!」
総司は、お守りをもう一度見つめると、懐へとしまった。
『町で、斬りあいがあったと聞くと、総司さまのことが心配で心配で胸が苦しくなるのです』
可憐が前に総司に言った言葉である。
『簡単に死にやしませんよ。…あなたがいるから。』
総司はそう答えた。
そして今、同じ言葉を心の中で呟くと、隊服を手に取った。