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第3話

新選組屯所 廊下-


総司は近藤の部屋の前まで来ると、その場に座った。

そして、お茶と饅頭を乗せた盆を脇へと置いた。


総司「近藤先生。総司です。」


その時、中からばさばさという何かを片付けるような音がした。


「お、おお、総司か…ちょっと待ってくれ…」


総司はにんまりと微笑むと、ばっと障子を開いた。

その総司の目に、新選組局長の近藤勇が文机の上のものをまとめようとしている姿が見えた。


総司「そんな隠さなくても、近藤先生。」

近藤「こらっ!待てといっただろう!」

総司「字のお稽古だったのですか?」

近藤「…そ、そうだ…」


土方同様、近藤も弟のように思っている総司の無礼には怒らない。

総司は障子を後ろ手に閉じ、近藤が隠そうとした懐紙に書かれている字を覗いた。


総司「お上手じゃないですか。」

近藤「ばか、からかうな。」

総司「からかってなんかいません。」


近藤はちょっと体を小さくするようにして、総司に尋ねた。


近藤「…本当に上手か?」

総司「ええ。」


総司はにこにこと微笑んでいる。


近藤「そうか…そうかな。」


近藤は親に誉められた子供のように嬉しそうにした。


近藤「…それより、用はなんだ?」

総司「ああ、いえ。たいしたことじゃないんです。前に私がおいしい饅頭屋を見つけたって言ったら、自分にも食わせろっておっしゃってたでしょう?その饅頭を持ってきたんです。」

近藤「おお、そうか。」


近藤は大きな口をほころばせた。


総司「もう…お茶がさめてしまいました…入れなおしてきます。」

近藤「いや、そのままで構わんよ。」


総司はふとすまなそうな表情をしたが「では」と言って、お茶と饅頭ののった盆を、近藤の前へとすべらせた。

近藤は「いただきます」と丁寧に言ってから、大きな手で、ぐわし…と饅頭を掴んだ。


総司は近藤の大きな手を見て、幼い頃を思い出した。


試衛館に入った頃…腕は見込まれていたものの、総司は下働きに過ぎなかった。

家族から離されて寂しい上に、慣れない掃除などをさせられた。時には食べるものも満足に与えられなかったこともあった。

そんな時、近藤が幼い総司を気の毒に思ったのか、こっそりと自室に呼び「これを食べろ」と言って、総司の目の前に、丸い大きなものを差し出した。

握り飯だった。近藤自身が握ったらしい、とても不恰好だった。

総司は半泣きになりながら、それを食べた。とてもうれしかったことを思い出す。

総司の近藤への忠誠心はこの頃から芽生えたのだろうと思う。


「うまいなぁ!」


その近藤の声に総司ははっとした。


総司「…お口に合いましたか。」


総司はあわてて答えた。


近藤「うん。甘いもんを食ったのも久しぶりだ。ありがとう、総司。」


総司は近藤の笑顔を見てほっとした。伊東達が来てからというもの、近藤は忙しい日を送っていた。

その近藤に少しでも安らぐ時間を…と思って、饅頭を持ってきたのである。


総司「喜んでいただけてよかった…。また欲しくなったらいつでも呼んでください。」

近藤「ははは…おまえに頼むのは申し訳ないが、そうじゃないとおまえともゆっくり話せんしなぁ…」


総司は微笑んで手をついて頭を下げ、部屋を出ようとした。


近藤「…総司。」

総司「?」


総司は動きを止めて、近藤を見た。


近藤「咳の方はどうだ?しんどくないか?」

総司「はい。このところ、ずっと調子がいいので…」

近藤「そうか…それならいいが…。あまり無理するなよ。」

総司「ありがとうございます。近藤先生もどうぞ無理なさらぬよう。」

近藤「うむ。」


近藤はうなずいた。優しい兄としての近藤がそこにいた。

総司は頭を下げて部屋を出た。

何か、総司の胸に熱いものが残っていた。


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