第22話
京の町中-
中條は数人の浪人に追いかけられていた。
人気のない通りにさしかかった時、中條は観念して立ち止まり、振り返った。
実は、今日も刀を差していなかった。
普段、差す癖がついていないので、つい置いて出てきてしまったのだった。
浪人達が刀を構えて、じりじりと近づいてきた。
浪人「悪く思うなよ…こっちも生活がかかってるんだ。」
刀を差していない中條を、なぜか新選組の人間と知っている。
一人が振りかぶって襲い掛かってきたのを、中條は避けた。そしてその腕を掴み、ねじりあげた。
浪人が悲鳴をあげ、刀を落とした。それをみた中條は、その男を浪人たちの中へつきとばした。
男達がなぎ倒される。
中條は落ちている刀を拾い上げると、それを倒れた浪人達に向けた。
「中條さんっ!!」
山野が路地から飛び込んできた。倒れていた浪人たちはあわてて立ち上がり、山野と中條に襲い掛かってきた。
…が、皆、あえなく二人に切り倒されてしまった。
後はうめき声だけが残ったが、やがて静かになった。
中條「…すいません…先輩」
中條が息を切らせながら言った。
山野「だから先輩はよしてくださいってば。」
山野も息を切らしているが、にこにことしてそう答えた。
山野「一人歩きは禁じられているはずですよ。…どうして、何も言わずに出て行かれるのです。ひと言声をかけてくだされば…」
中條「…はぁ…」
山野「…これから長いつきあいになるんです。遠慮はお互いやめましょうよ。」
中條「すいません。」
山野はただ謝ってばかりの中條に苦笑した。
中條は切り倒された浪人達を見下ろしている。
山野「番所が近くにあります。そこへ声をかけたらいい。」
中條「ええ…」
中條は山野について歩き出した。
中條(…生活がかかってるって言っていたな…)
中條の心に、浪人の言葉がひっかかっていた。
……
山野と中條は、そのまま番所へ向かっていた。
山野「…どこかへ行かれるつもりだったのですか?よかったら、後からでも一緒に行きますよ。」
中條「いや…暇だったから…ただぶらぶらと…」
山野「はぁ…?」
実は中條は礼庵のところへ行ったのだが、総司が来ているのを知り、遠慮したのだった。
山野「それでこんな危険な目に遭っていたら、しゃれにならないじゃないですか!」
中條「…はぁ…すいません…」
山野「それから、ほら!」
山野が何かを中條に向かって投げた。中條はとっさに受け取った。刀だった。
中條「!!」
山野「また置いて行ってたでしょう…。」
中條「…あの、今、斬ったのは…僕の刀で?」
山野「いえ、ちゃんと自分の刀を抜きましたよ。ご心配なく。」
中條「…あ、いえ…いいんですが…その…」
中條は最近、巡察でも刀を使うことがなかったので、あまり手入れをしていなかったのである。
山野「それより、ちゃんと差しておかなきゃだめじゃないですか。沖田先生の言葉をお忘れですか?言いつけちゃいますよ。」
中條「!…そっそれだけは…!…僕、今日は忘れてただけなんです!お願いです!先生には言わないで下さい!お願いします、先輩!」
中條がとたんに情けない声を出して、山野に詰め寄った。山野は笑いながら、後ずさりした。
山野「そうだなぁ…その「先輩」というのをやめたら、言わないでおこうかな。」
中條「言いませんっ!!もう言いませんからっ!!」
山野はなおも詰め寄られて、笑いながら「わかりましたよ」と答えた。
中條はほーっと息をついた。
山野は歩き出した。中條も後を追う。
山野「そんなに先生が怖いのですか?」
中條「え?…あ、その…」
中條はうつむきかげんに答えた。
中條「…怖いというか…沖田先生に見限られたら、隊を追い出されてしまうかと…」
山野「…!…」
山野は立ち止まって、しばらくの沈黙ののち中條に言った。
山野「…先生はよほどのことがない限り、人を見限ったりしませんよ。安心なさい。」
中條「はぁ…でも、怒らせたら怖いと思いませんか?」
山野「…確かにね。」
山野はつい笑った。何か中條が大きな子供のようでおかしかった。




