第20話
礼庵の診療所-
総司と可憐はしばらく黙ったまま、その場に座っていた。
「あの…」
二人同時に口を開いた。
総司「あ…可憐殿から…」
可憐「いえ…総司さまから…」
そうお互いに言ってから、再び黙り込んだ。
が、しばらくして可憐の方から口を開いた。
可憐「…あの…私…やはりご迷惑だったでしょうか…?」
可憐が遠慮気味に尋ねた。
総司「え?…いえ…。そう言うわけではないのです。…ただ、礼庵殿がまさかこんな風に気をまわしてくれるとは思わなかったもので…」
総司はこめかみを指で掻きながら言った。
可憐「…そうですわね…。…本当にいろいろと気を遣っていただいて…」
可憐はそう申し訳なさそうに答えた。
一度、父親に別れさせられた二人だった。
しかし礼庵のおかげで、忍んだ状態ではあるが、再びこうして会えるようになった。
礼庵は、総司への想いを友情と割り切ろうとしている。それも無意識に…。
しかし、総司は礼庵に対して、友情以上の想いを持っていることに気づいている。…が、それは、可憐に対しての想いとは違う、何か説明のできない不思議な感情であった。
…どれくらい、黙り込んでいたのだろうか…?
可憐がふと口を開いた。
可憐「あの…さっき、礼庵先生がおっしゃっていた、シロ…って…?」
総司ははっとして答えた。
総司「え、ええ。…子犬が足を怪我していたので、拾ってきたのです。…そして…こちらで飼ってもらう事になって…」
可憐「まぁ、子犬…?」
可憐が嬉しそうに目を輝かせた。
可憐「会わせて下さい…!」
総司はうなずいて立ち上がった。




