第19話
礼庵の診療所--
翌日総司は、やはり礼庵の診療所を訪れた。
何かもやもやとした気持ちは拭えていなかったが、顔を出さないでいたら、礼庵に変に思われるのではないかと思ったのである。
玄関にたどり着くと、女物の下駄があるのに気づいた。
中からは、何か笑い声が聞こえてきている。
総司はその声にぎくりとした。
総司「…まさか…!」
思わず立ちすくんでいると、婆がふと姿を現した。
「まぁ、沖田さま!…先生!沖田さまがお越しになりましたよ!」
総司はそれを聞いて驚いて婆を止めようとしたが、すぐに礼庵が顔を出した。
礼庵「総司殿!お待ちしていました。…想い人殿がお待ちかねです。」
総司はその場に固まってしまった。
礼庵「どうしました?…さぁ、どうぞお入りください。」
総司はしばし立ちすくんでいたが、やがて観念して下駄を脱いだ。
礼庵に案内されて、総司は部屋の中へと入った。
そこには、想い人可憐の姿があった。
総司は黙って頭を下げた。
可憐も何か気恥ずかしそうにして、頭を下げた。
礼庵「昨日、総司殿の様子がおかしかったので、可憐殿のところへ行ってみたんですよ。そしたら、案の定、このところずっと会っていなかったと…。」
礼庵は総司の思惑など全く気がついていないのである。
総司はどうしたらいいのかわからず、ただ黙っていた。
礼庵「では、私は今から診察ですので。…どうぞ、お二人ともごゆっくりなさってください。」
礼庵はそう言って立ち上がった。
そして、あわてて引きとめようとした総司に「ああ、そうだ」と振り返った。
礼庵「総司殿。可憐殿には、まだシロを紹介していないのです。…よかったら、会ってもらってください。」
礼庵はそう言うと、二人に目礼をして、部屋を出て行った。
総司と可憐はしばらく、お互い気まずそうにその場に座っているだけであった




