第18話
礼庵の診療所-
礼庵は総司から東の話を聞いて、ぱっと顔を輝かせた。
礼庵「東さん、お元気でしたか?」
東は礼庵を呼び捨てにするのに、礼庵の方は東をさんづけで呼んでいるようである。
総司「ええ。…とても。」
総司は無理に笑顔を作って答えた。
礼庵「あの方にはお世話になっているんです。最近、外で会うこともなくて、どうしてるのかとは思っていたんですが…」
総司「前はよくあなたと飲みに行ったとおっしゃっていました。」
礼庵「ええ。…だけど、あの方はとても弱くて、いつも私が家まで送っていったんです。」
礼庵は悪びれる様子もなく、笑いながら言った。
総司は自分で、笑顔が消えていることに気づかない。
礼庵「…でも、酒は弱くても、腕は確かですよ。」
礼庵は慌てるようにしてそう言った。総司ははっとした。
総司「そう…ですね。…うちの隊士たちもよくお世話になっているから。」
総司はそう言って、再び笑顔を見せた。礼庵も何かほっとした様子で、微笑み返した。
礼庵「申し訳ない。シロに会いに来られたんでしたね。…みさの声が聞こえないから、今、もしかすると寝ているかも知れないな…。」
礼庵が立ち上がりながらそう言った。
総司「あ…いいのです!…ちょっと…暇だったものだから…。今日は、帰ります。」
総司があわてて言った。
礼庵「そんなことおっしゃらずに…」
礼庵が引きとめようとするが、総司はそれを振り切るようにして、玄関へと向かった。
総司「また、明日来ますから。…じゃぁ…」
総司は礼庵に微笑んで見せると、そのまま診療所を出た。
何か礼庵の視線が痛かった。
総司(…私は…いったい何が気に入らないんだろう…?)
総司はそう思いながら、屯所へと向かった。