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第16話

礼庵の診療所-


「中條君」


そう呼びかけられて、中條ははっとした。

振り返ると、総司の笑顔がそこにあった。


中條「…あ!…お、お邪魔しております!」


総司が笑った。


総司「ここは私の家ではありません。…お邪魔するのは私の方です。」


そう言って、総司は中條の横へ座った。

みさが、総司のところへ駆け寄ってきて、総司の膝に頬を摺り寄せた。

子犬も、縁側へ前足をかけて尻尾を振っている。


総司「みさ、シロ…毎日元気に遊んでるね。」


みさが「うん!」と言った。

中條は思わず、総司の笑顔に見入っている。

さっきの疑問が再び浮かんだのである。


……


屯所への戻り道-


総司はゆっくりと歩いていた。

中條はやや下向き加減に、総司から少し距離をおいて歩いている。


総司「…中條君、何か悩んでるの?」


中條はぎくりとした。


総司「君は未だに笑顔をみせてくれませんね。…何かあったの?」

中條「いえ…。人馴れが遅いんです。それだけです。」

総司「…そう…ならいいんだけど。」


総司はそう言って、再び黙って歩いた。


総司「…ねぇ…中條君」


総司が突然立ち止まって、中條に振り返った。


総司「…もしかして…新選組にいるのが嫌になったのですか?」

中條「!…え…?」


中條は固まった。


中條「いえ…その…」

総司「…君はまた…刀を持っていませんね。」


中條はぎくりとして、思わず何もない腰に手を当てた。


総司「君のことが気になって、山野君にいろいろ聞いたのですが…。君は非番の時まで人を斬りたくないと言ったとか…」

中條「!!」


中條は何も答えられなくなった。


総司「…私も襲撃に遭う度に、考えます。何故人を斬らねばならないのか…。」


総司は再び歩き出した。中條も従う。


総司「京の治安を守るため…という大義名分があるにせよ…彼らにも家族がある。…我々には彼らの家族を悲しませる権利などない。」


総司はまだ日の高い空を見上げた。


総司「…でも、子供達と遊んでいて思うんです。…いつかこの子達が安心して外を遊びまわれる日のために、自分ができることは何か…」


中條は目を見開いて、総司を見た。


総司「…君のように、刀など持たなくても、皆が安心して外を歩けるような日をいつか迎えられるように…」


中條は、突然目が覚めるような思いがした。

総司は振り返って中條を見た。


総司「幕府が正しいのか…あっちが正しいのかはわかりません。…でも、新撰組にいる限り、隊に従って務めをまっとうすることが、最良の道なのではないかと思います。」


中條は大きく目を見開いたまま「はい!」と返事をした。

総司は微笑んで、再び前を向き歩き始めた。中條も身が軽くなったような足取りで総司について歩き始めた。


そろそろ、暮六つの鐘がなるころである。


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