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第14話

礼庵の診療所-


次の日、総司は巡察を終えて、すぐに礼庵の診療所を訪ねた。

そして、玄関で迎え出た婆に挨拶し、急いで中へ入った。

ふと、みさの楽しそうな声が中庭から聞こえてきた。子犬と遊んでいるのだろう。

総司は急いで中庭へ通じる廊下へと進んだ。


中庭では、みさが子犬と追っかけっこしていた。子犬はすっかりみさになついているようだった。

足は引きずっているが、それにも構わず走り回っている。

その光景を、礼庵が縁側にすわり、にこにこと見ていた。


礼庵「総司殿!…これはお早いおつきですね。」


礼庵が笑いながら言った。総司はその隣にあぐらをかいて座りながら、


総司「子犬の様子が気になりまして…。」


と顔を赤くして答えた。


総司「…しかし、これが昨日の子犬とは…。こんなに真っ白だったんですね。」


礼庵はその総司の言葉に笑った。


礼庵「私も洗いながら驚きましたよ。まさか、ここまで白い犬だとは…。…大分前に、親からはぐれてしまったのではないでしょうか…。」

総司「ずっと…心細かったでしょうね…」


総司は目を伏せて言った。ふと昔の自分と重なった。

礼庵がうなずいた。


礼庵「昨夜もあなたが帰られてから、今朝方までずっと哀しそうに鳴きつづけていました。よほど不安だったのでしょうね。でも、朝になって、みさと遊び始めるとすっかり警戒心がなくなったようです。ほら…犬の目も生き生きしてるでしょう?」


総司はそう言われて、あらためて犬を見た。昨日の怯えた様子とは違う目の輝きに、総司はほっとした。

その時、みさが「シロ」と子犬を呼んだ。


総司「名前は「シロ」ですか」


総司がそう言って笑った。礼庵も「そのままでしょう?」と笑いながら言った。

その時初めて、みさが総司に気づいた。そして嬉しそうに目を見開くと、総司へと駆け寄ってきた。


みさ「おじちゃん…シロを連れてきてくれてありがとう!」


総司は微笑んで首を振った。


総司「私の方から礼を言わなくちゃいけないな。…シロはちゃんとみさが面倒を見てあげるんだよ。礼庵先生は忙しいからね。」


みさは「うん」と大きくうなずいた。するとみさの後ろにいた子犬が縁側へと前足をかけて、総司を見た。ちゃんと覚えているらしい。


総司「シロ…いい名前をもらったね。みさお姉ちゃんの言うことを聞くんだぞ。」


そう総司が子犬に言い聞かせると、みさが嬉しそうにした。

総司はゆっくりと子犬を持ち上げた。すると子犬はすぐに総司の頬をぺろぺろとなめた。

総司はくすぐったそうに笑いながら、子犬を柔らかく抱いた。

それを見たみさが、ゆっくりと縁側へあがり、総司の体に寄りかかるようにした。


礼庵「…おや?…みさはもう、やきもちを妬いているのかな?」


礼庵がそう言って笑った。みさはあわてて総司から離れ「違うもん!」と口をとんがらせた。

総司は笑いながら、みさの体にも手を回し、引き寄せた。

みさは照れくさそうにしながら、総司の腕にしがみついた。


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