第13話
礼庵の診療所-
礼庵は、子犬の足に柔らかい布を巻きつけた。
総司が少し心配げに、子犬を見つめている。
礼庵「これで大丈夫ですよ。傷も深くない。」
総司は「ありがとう」と礼を言って、子犬を膝の上に置いた。
礼庵「どうも他の犬に噛まれたようですね。」
総司「…こんな子犬を噛むなんて…」
礼庵「犬の縄張り意識は強いといいますからね。」
総司は人間も同じだと思った。少し前まで、天誅と叫べば何もかも許された時代だった。さすがに最近は少なくなったが、そのために子供が斬られたりしたこともある。
元々礼庵と知り合ったのも、「無礼討ち」で斬られかけた、みさを守ったことからだった。
もう何年も前のような思いがする。
礼庵「…その子犬…どうなさるのです?」
総司「…え?」
礼庵「野良犬なのでしょう?…屯所で飼ってもらえそうですか?」
ふいに礼庵にそう言われて、総司は「そうだなぁ…」と言ったきり、口ごもった。
隊士の中には犬嫌いの人間もいるだろう。また世話をしてくれる人間があるかどうかもわからない。
総司は子犬の顔を見た。子犬も何か不安げに総司を見上げている。
礼庵「よかったら、うちで飼わせてもらってもいいでしょうか?」
総司は驚いて、礼庵を見た。
総司「…しかし、夜中に吼えたりしたら…迷惑では…」
礼庵「それはお気になさらず。…いや…みさのいい友達になってくれると思いまして…。診察中などは、あの子は一人きりになってしまいますからね。」
総司「そう言うことなら…」
総司は嬉しそうにした。そして、そっと子犬を膝から下ろした。
総司「いいかい。…礼庵先生とみさちゃんの言うことをよく聞くんだぞ。…時々会いに来るからね。」
子犬はお座りをして黙って総司を見つめている。
礼庵がそっとその子犬を胸に抱いた。
礼庵「…おとなしい子だな…。番犬には無理なようですね。」
礼庵がそう言って笑った。総司も「うーん」と首を傾げて
総司「…無理だろうな…」
と笑った。
……
総司が診療所を出た時、くんくんという子犬の哀しそうな声が聞こえた。
総司は後ろ髪を引かれる思いで、診療所を後にした。