第12話
総司の部屋 夜-
総司は、犬の鳴き声で目を覚ました。
何かくんくんと哀しい泣き声である。
総司(?…屯所で犬を飼ったという話は聞いてないけど…)
総司はゆっくりと起き上がって、部屋を出た。
そっと廊下の方へ行き、耳を済ませると、あわてて裏口から屯所の外へと出た。
そして犬の鳴き声のする方へと歩き出した。
総司(…!いた!)
四辻のところで、子犬が座り込んでいる。
総司が近づくと、牙をむいて警戒した。…そして立ち上がろうとするが、すぐにへにゃりと座り込んでしまった。
総司「…足を怪我してるのか…。よしよし…何もしないよ。怖がらないで。」
総司はそっと手を差し出した。子犬は震えながら身を引こうとしたが、総司はそのまま子犬を抱き上げた。
総司「ほーら…怖くないだろう?…」
そう言いながら、総司は胸の中で震える子犬の頭を撫でた。子犬は何か安心したのか、ぺろぺろと総司の手をなめた。
総司「よーし、いい子だ。」
総司はもう一度、子犬を置くと、胸元から手ぬぐいをだして口で裂き、子犬の足に巻いてやった。
総司「どうしようかなぁ…。ちゃんと治療してもらった方がいいのだけれど…」
総司の頭に浮かんだのは、やはり礼庵だった。…が、動物の治療をしてくれるかどうかは疑問である。
総司「…礼庵殿なら、やってくれるだろう。」
総司はそう勝手に結果を出すと、再び子犬を抱き上げた。
総司「ちょっと遠いけど、やさしい先生だからね…。がんばるんだぞ。」
総司はそう子犬に言い聞かせながら、月明かりを頼りに、ゆっくりと壬生に向かって歩き出した。