第11話
中條は、倒れている隊士の口に手をかざし、生きていることを確認すると、
中條「僕…連れて行きましょうか?」
と言った。総司は微笑んで「頼む」と言った。
総司「礼庵殿の所は遠いな…。外科の東医師の所は知っていますか?」
中條「はい。」
総司「では、そこへ。…一人では危ないから、山野君を連れて行きなさい。」
中條「いえ、大丈夫です。」
総司は面食らって、中條の顔を見た。自分の言いつけを断った隊士は初めてだったのだ。
中條はそんな総司の表情に気づかず、傷ついた隊士の体を片腕で起こし、自分の肩にかついだ。右手には刀を持ったままである。
総司は驚いた表情のまま、立ち上がった。
中條「行ってまいります」
中條は軽く頭を下げると、そのまま走り去っていった。肩に人を担いでいるようには見えないくらいの勢いで、すぐに姿が見えなくなった。
総司はぼんやりと見送ったが、やがてはっとして、斬り合いの真っ只中へ飛び込んだ。
……
静けさの中に、うめき声が残っている。
総司は息を切らしながら、伍長を呼んだ。
総司「すぐに番所へ連絡を。それから戸板をいくつか頼んできてください。」
伍長は頭を下げて、走っていった。
総司は怪我をした隊士達を一人一人見て回った。
歩けないのが何人かいた。戸板が来るまで待つしかなかった。
やがて、中條が走って戻ってきた。
総司は立ち上がって、手を上げた。中條はすぐに総司のところへ駆け寄ってきた。
総司「ご苦労さま。…どうでしたか?」
中條「傷は深かったですが、命に別状はないそうです。」
総司「そうですか…よかった…」
中條はほっとした表情をする総司の顔を食い入るように見つめている。
総司「…どうしたの?」
中條「いえ…」
中條が目を反らせた。そして足を斬られた隊士を見て、目を見開くと、再び総司に向いた。
中條「この方も連れて行きます。」
総司「いや、すぐに戸板が来るし、君も帰ってきたばかりで…」
中條「大丈夫です。」
中條はそう言うと、怪我をしている隊士に声をかけ、すぐに肩に担いだ。
「あの…ちょ、ちょっと…」
担がれた男は、驚いて声を上げたが、その声はすぐに遠くなった。中條が走り去ってしまったのである。
総司は、驚いた様子で傍に寄ってきた山野に苦笑してみせた。
総司「人さらいに間違われないといいけれどね…」
山野が思わず吹き出した。総司も笑いながら、中條の走り去った後を見た。
総司(彼を入れてよかった。)
総司は心からそう思った。