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雨のリズム  作者: 海来
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[90] 集結

 夜明けと共に、大地の城の城門付近が騒がしくなった。

 大地の城の中から見下ろした者は、皆、その光景にあ然となった。

 フィーナが声を震わせた。

「緑の城からの援軍ですね……なんて美しい援軍でしょう……」

 大地の城の前から、すり鉢上のスロープを埋め尽くす、きらめく緑の鎧の騎士達が剣を背負い弓を肩に担ぎ大地の城を見上げている。朝日に輝く緑の鎧は、朝露を含んだ木々のごとく艶やかだった。

 先頭に立っている騎士には、見覚えがある。窓から見ているリク達に気付くと、その身体を浮かび上がらせ、空中でお辞儀して見せた。鎧の上に羽織ったマントが、風にはためいて、勇ましさを際立たせている。リクが、窓から身を乗り出した。

「キートアル。早く入って来いよ。待ってたんだ」

 キートアルは、そのまま下を指差し、両手を開くような仕草をして見せた。

「きどりやがって、城門から入るんだってさ」

 リクの隣で、タカが首を振った。

「お前には呆れるよ。この世界に来て、まだ分からないのか。それぞれの城や領域には、決め事や礼儀と言うものがあるだろう。俺たちの世界みたいなわけには行かないんだ」

 リクは、ちょっと拗ねたように横を向いた。

「見ろ。今、ハモートさんの弟子が城門を開ける。王様達も、キートアル達を出迎えに行ったらしい。俺たちも行こう」

 タカの声に、レインもフィーナもフーミィも走り始めた。ふてくされていたリクは、一歩で遅れたが、やっぱり走り出していた。







 キートアルは、大地の王の前で深々と腰を折った。

「大地の王、大地の魔術師リク殿の要請を受け、新たなる緑の王、兄ユウリィエンの命により、闇の世界の者どもとの戦に馳せ参じましてございます。つきましては我が軍を、大地の王の配下としてお使い願いたく存じます」

 大地の王は、キートアルに向かって軽くお辞儀をした後、近寄っていくとその肩にそっと触れた。

「緑の城の大将。そなたは緑の王子であらせられる。その様にかしこまらずとも良い。それに、ワシの配下ではなく、救世主を援ける為に共に戦う仲間であろうではないか。こちらこそ、よろしく頼む。これはワシのせがれ、大地の王子ガイダン。そして、城の魔術師であり、ワシの側近ハモートじゃ」

 二人が、キートアルに深く頭を下げた。

「緑の城の第二王子キートアルです。共に力をあわせて戦いましょう」

「ガイダンです。よろしくお願いします。さあ、立ち話も何でしょう、城の中でこれからの事を皆で考えませんか」

「はい」

 キートアルが答える前に、その腕の中にリクが走り込んできた。

「キートアル。絶対来てくれるって思ってた。ありがとう」

 キートアルは、困ったように顔をしかめた。

「リク殿……そんなに心配でしたか。緑の城は協力しないとでも」

 リクは、キートアルから離れると、その瞳をしっかりと見つめた。

「緑の領域は全体に闇の妖精の気配が濃いから……フィーナにもはっきりとは分からない悪意の様なものが、領域にはあったって聞いたからさ」

 キートアルは、優しく微笑むと、リクの手をがっちりと握った。

「今は兄のユウリィエンが守っています。フーミィに貰った聖なる水の力を借りて領域は安定を取り戻そうとしている。あとは、ヒルートが、兄上がお戻りになられれば安泰です」

 リクは、キートアルの手をしっかり握り返した。

「だなっ。という事で、さあ、城ん中入って腹ごしらえしようぜ。腹が減っては戦は出来んっだからな」

 周りにいたタカを除いた全員が、大笑いした。







 その日の遅くまで、作戦会議は続いた。

 紋章が揃った時、どのタイミングで空と大地の門を開くのかと言う事は、かなりの難問だった。空と大地の門が開けば、闇の世界への扉も開くのだ、慎重に行わなければ、簡単に悪魔達の侵入を許してしまう事になる。それに、タカとフーミィが門をどうやって潜りリアルディアに帰るのかははっきり分かってはいないのだ。戦いの最中に、安全に門をくぐる事は出来るのだろうか。皆が頭を悩ませていた。

 その時、広間の窓の外から、何かがパチパチと爆ぜる音が聞こえた。

「雲の妖精……リク。雲の妖精だわ」

 レインが窓を大きく開けた。開け放たれた窓から、黒いローブに身を包んだ長身の男が滑り込んできた。フードを脱いだその顔は、魔法学校の校長ズカーショラルだった。

「お父さん」

 フーミィがズカーショラルに走り寄って抱きついた。ズカーショラルの顔が驚きに呆然としている。

「あの……あなたは。まっまさ、か……」

「お父さん、フーミィだよ」

 ズカーショラルは、震える腕でフーミィを抱きしめた。

「いつの間にこんなに美しい女性になった……もう会えないと思っていた……しかし、ここへ来ればもしやと、雲の王の依頼を受けたのだ。良かった、会えた……」

 フーミィは父の腕の中で、幸せそうに微笑んでいる。レインがズカーショラルの傍にやってくると、その腕にそっと触れた。

「校長先生、雲の王の依頼って……父上は何を……」

 ズカーショラルはフーミィから手を離すと、レインにお辞儀をしながら、優しく微笑んだ。

「レイン姫のお手伝いをするようにと。闇の者たちとの闘いに力を貸せと仰せになられました。私の力の限り闘いましょう……姫の指示の下で。雲の妖精たちも一緒に参っておりますし、雲の城の軍隊もおりますぞ」

 レインは、小さく頷くとリクの方を振り返った。

「リク、雲の城から応援が来たわ。父上が……父上がこんなに頼りになる方を送ってくれた」

 リクは、優しく微笑みながらレインを見つめている。レインはきっと気にしていたはずだった、自分の城から加勢がやってくるのかと言うことを、父親が自分を見限っていないかということを、心の底で気にしていたはずだった。リクはレインの身体に腕を回し、そっと背中を撫でた。

「愛する娘のために、レンのお父さんはちゃんとやってくれたんじゃねーか。良かったじゃん」

「ええ、嬉しい」

 これで、緑の城、雲の城からの加勢を受けた。あとは空の城だけが、到着していない。リクの心の中で、到着を待ちわびる気持と、戦いが始まる恐怖が入り混じる。

 レインを抱いた腕に力が入ってしまう。リクは、自分の心の中を気付かれたくないと思った……この中で、自分が一番しっかりとしなくては、たとえ年齢は若くとも、自分は大地の魔術師であり、心の癒し手、時の魔術師でもあるのだから……リアルディアの救世主が兄であるなら、このソラルディにおいての救世主は自分自身でありたかった。

 今、この手に抱きしめているレインの為にも、この世界を守りたかった。そう思う、リクの脳裏に空の城がフラッシュバックの様に浮かびあがった。

 リクの身体が、一瞬強張る。

「来る……空の城が……」

 リクの言葉に、部屋中に緊張が走った。

「戦いが、始まる……さっきの作戦通りだ……配置に着かなきゃ」

 リクが、しっかりとした声で言ってから、目を閉じ大きく口を開けた。


『緑の軍は城の西側を、今着いたばかりだが雲の軍は城の東側を守れ。大地の軍は城の門の中に留まれ。もう直ぐ、空の城が上空に到着する。その時、空と大地の門が開き、同時に……闇の門が開く……悪魔との戦いが始まる……負けられない。此処にいる全ての者が、この世界を救う救世主だ。戦え。悪魔をリアルディアに渡らせてはいけない。守れっ。守るんだっ』


 リクの大きく開いた口からは、魔法の声が辺り一帯に響き渡った。

 大広の中の皆が、その言葉に大きく頷いた。

「リク、一緒に戦いましょう」

 レインが、リクの腕をきつく握った。

「うん、レンは城の東側の空中で待機。フィーナは西側……あ、フィーナをどうやって空中で待機させようか……」

 ユティが、すっと手を伸ばし、大鷲になったガウを指した。

「ガウが適任でしょう。彼なら、フィーナをしっかり守ってくれる。そうだろガウ」

 ガウが、首をあげまるでお辞儀でもするように、ゆっくりと頭を下げた。フィーナがガウの翼の横に行った。

「よろしくお願いします、ガウさん」

 フィーナが翼を撫でると、ガウは心地良さそうに喉を鳴らした。その時、ズカーショラルが入ってきた窓の外に、何かが輝いた。皆が、その輝きの源に気付いた。

 美しい銀の翼がゆっくりと羽ばたいている。

「シルバースノー……」

 そうリクが言った時には、窓からスカイが入って来て直ぐ後に、シルバースノーとローショが続いた。

 シルバースノーは銀、ローショは金のウロコで、身体が覆われたままだ。リクの仲間達以外、大地の城の面々も、タナトシュも、度肝を抜かれたように口を開けていた。

 ズカーショラルは、ヒルートの館でシルバースノーに会っている為、その姿には驚いたものの、他の者達ほどでもなかった。その中で、タナトシュがやっとの思いで声を出した。

「スカイ様……それに……たしか、ローショ……スカイ様の侍従だったはず……」

 スカイが、タナトシュに少し頷いた。

「この竜人の女性はシルバースノー、私の花嫁になる。ローショは竜族の女王ミーシャの生まれ変わりです。詳しい事は話している暇が無い……リク、タカ……空と大地の門が開く時……」

 スカイが言い終わる前に、リクがスカイの目の前に手を出してそれを制した。

「分かってるんだ。全部、此処にいるみんな知ってる。戦いが始まる……既に援軍も集まってる。後は空の城が到着するのを待つだけ……」

「知っていたのか……」

 リクは、スカイを下からぐっと睨んだ。

「俺を舐めるな。俺は、大地の魔術師にして心の癒し手であり、時の魔術師だ。この世界は守ってみせる……俺たちの手でな。そうじゃねーのかスカイ」

 スカイが、不敵に笑った。

「ああ、守ってみせる。私たちの手で」







 皆がそれぞれの思いで、それぞれの配置についていた。

 スカイはシルバースノーの背に乗り空の城を待っている。大地の城を挟んで、その反対側にはローショが翼を開いていた。

 フィーナはガウと共に、西の空に。

 レインは雲に乗って、東の空に。

 リクは大地に城の謁見の間に。

 今か今かと、空の城を待っていた。

 レインは思った……こんな時に、リクの傍にいられない事が、こんなに心細いのかと……自分にとって、リクの存在がどれほど大きいものになっているのだろうと……。

 リクは、戦いの中で自分とレインの命のリズムの重要性を考えていた。門が開いた後、直ぐにでもレインの元に行かねばならないと考えていた。命のリズムが、この世界を救う大きな力になるだろうと感じていた。

 タカは、フーミィと共に丘の上から、大地の城を見下ろしていた。

「俺はこんな所にいて戦わなくていいんだろうか……リアルディアに帰る、そのためだけにこの場にいるなんて……皆を危険に晒して自分はのうのうとしているなんて……」

 震える声で語るタカの肩を、フーミィがそっと抱いた。

「ターカ……僕がターカを乗せるから一緒に戦おう。戦った後に、リアルディアに行ってもいいんじゃないかな……きっと女神様も、それでいいって言うよ、ね」

「フーミィ……」

 タカは、背中に感じる温もりが愛しかった。この温もりを守りたい……この世界を、リアルディアを守りたい……心の底から、そう思った。

 ふと、リクの事が頭をかすめる。

『リクは……リアルディアには戻らない……ソラルディアに残るつもりだ……連れて帰りたいのに、母さんと約束したのに……』

 じっと見つめる空の彼方に、無数の黒影が現れた。





 
























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