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雨のリズム  作者: 海来
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[87] 大鷲になったガウ

レインは、大地の城まで戻ってきました。

でも、どうやって侵入すればよいのか悩んでいます。

 レインとユティにガウ、タナトシュは、大地の城を見下ろす林の中に隠れていた。

 すり鉢状のスロープは長く、歩いて侵入する事は出来ない上に、まず、リクとタカが今何処にいるのかさえハッキリしなかった。

「リクの気は感じるの……大地の城の中にいるはずだけれど……このまま、真っ直ぐ入っていくわけにも行かないし」

 ユティが、レインの横で肩に乗った鷹のガウの口ばしを突付いた。

「ガウに見てきてもらいましょう。狼では偵察には不向きでしょうが、鷹ならまだましでしょう。この辺りには結構いるみたいですしね……さァ、迷い鷹、行っておいで」

 ガウは、翼を広げ空高く舞い上がった。

 くるりと一回転してから、大地の城に向かって降りていった。

「でもガウが戻っても、どうやって報告を聞くの。ガウは話せないのよ」

 ユティは、何とも思っていないように微笑んでいる。

「言葉はなくとも、私には分かります。長い付き合いですから」

 タナトシュが、チラリとユティを見た。

「そんなに長く一緒にいるのか。生まれたときから、と言うところかな」

「ええ、私が生まれてから、多分60年間ずっとです。物心ついたら横にいましたから……」

 タナトシュは、驚愕の表情を浮かべた。

「60年間とは、また、大きく出たな」

「嘘ではありませんよ。私は60歳ですし、スカイ皇子の侍従であるローショは、空族の竜の女王の生まれ変わりであり、私の祖父の生まれ変わりでもあります」

 タナトシュは、肩をすくめた。

「あのローショが、竜族の女王の生まれ変わりとは……大地の魔術師が現れたと思ったら、心の癒し手でありながら時の魔術師でもあるというし、スカイ様はソラルディアの王となられるとか……」

 ユティは、厳しい顔をタナトシュに向けた。

「ええ、今、この時にです」

「今、この時代に、何が起きようとしているのか……計り知れない、何かを感じさせる……」

 レインが、キャッと叫んだ。

「リク。リクが来る」

 空を見上げているレインの視線の先に、大鷲の姿があった。大鷲の足にぶら下がるように運ばれてきたのは、紛れもなくリクだった。大鷲の足を放し、飛び降りたリクに向かって、レインは走り出した。

「リク会いたかった」

「俺もっ」

 抱き合おうとしようとした二人の間に、大鷲が顔を挟んだ。

「邪魔すんなよ。ガウ」

 レインは、驚きに目を見開いている。

「ガウなの」

「うん、城の中で飼われてた鷲なんだ。荷物の運搬用みたいだな。レンが来たのが分かったからどうにかしてコイツに乗ってやろうとしてたら、鷹になってたガウが来てってなわけ。スッゲーだろ」

「どうしてガウだって分かったの」

 リクは、大鷲のガウのクチバシをぺシッと叩いた。

「人をバカにしたような顔して眺めてる人間くさい鷹なんかいるかよ」

 ユティが近付いてきた。

「リク殿は、さぞかし色々と面白い方法で鷲に乗ろうとしていたのでしょうね」

 ユティは、含み笑いをした。

「ガウは、どうやら鷲の方が気に入ったみたいですよ。鷹は人を運べませんから、大きな生き物が好きなのでしょうね」

 ほほ笑みながら、ガウの頭を撫でた。

「ところで、リク殿。こちらへ到着して直ぐに、空の城が移動していると風の妖精が知らせてきたとレイン姫がおっしゃってましたが」

 レインが、慌てて口をパクパクいわせた。

「そっそうなの、雲の城を通過したって言ってたわ。どういう事かしら。今までこんな事なかったのに。スカイはどうしたの……」

 リクが、曇り始めた空をじっと見つめた。

「空の城は、大地の城の上空を目指している。大地の紋章、雲の紋章、緑の紋章の3つが揃った。あとは、空の紋章だけ……それは、スカイが空の城と共に持ってくる」

 ユティが、目を細めた。

「空と大地の門が開く……闇の世界の門と共に……」

 ガサッという音と共に、フィーナとフーミィが現れた。

 フィーナの震える手に、緑の紋章が入った袋が握られていた。

「あの方が帰ってくるのですね……リク様……」

 リクが、フィーナの震える手を握り締めた。

「ああ、敵か味方かはわからないけどな……」

 フィーナの顔が強張った。

「ま、さ……か」

 ユティが眉根を寄せリクの横にやってきた。

「リク殿、それは、あの時、洞窟にある闇の世界への扉を閉めてくださった魔術師の事ですか。あの方は確か、みどっ」

「それ以上言うな。この辺りにも、まだ闇の妖精が残っているかもしれない。奴らに嗅ぎ付けられたら困る」

「でも、どんなに心の強い魔術師であろうと、闇の世界で悪魔に心を奪われない者などいないでしょう」

 リクは、大きく首を振って、フィーナのの瞳を見つめた。

「あいつの事だ、きっと大丈夫さ。フィーナ信じよう。でも、もし敵になっていたとしても、フィーナがいれば救えるかもしれない。気持ちをしっかり持つんだ。な、あいつの守り人だろう」

 フィーナは、リクの手を強く握り返した。

「ええ、私は、あの方の守り人。決して、闇に屈したりなどしません。それに、きっと私の守りの力が、あの方を守ってくれる」

 真っ白くなったフィーナの髪の毛が、風にサラサラとなびいた。

 リクは、静かに頷く。

「さァ、大地の城に行こう。作戦の練らなくちゃっ大戦争が待ってる」

 リクのいつにない厳しい表情と内要に、他の者は誰も声が出なかった。その中で、タナトシュが懐から何かを取り出しながら、リクに近付いた。大事そうに手の中に収めたのは古い本で、一心に見つめながらリクに声を掛けた。

「大地の魔術師殿、私は雲の城の魔術師タナトシュと申します。今のお話、どういう事なのかお聞かせ願えませんか」

 リクはタナトシュの声がした方に振り返った。

「あれ、おっさんが一人増えてんジャン。連れて来ちゃったんだ」

 いつもの顔に戻ったリクは、いたずらっ子の様に笑っている。周りの仲間達は、呆れながらも、リク特有の和ませ方なのだと誰もが分かっていた。そんな事など知る由もないタナトシュだけが、顔を硬くしてリクを睨みつけている。

「礼儀をご存じないようだが、リアルディアでは礼儀と言うものは存在しないのかな」

 レインが慌ててとりなしに入った。

「タナトシュ、違うのよ。これはリクの癖みたいなものと言うか、皆の緊張をほぐそうとしてるの。悪気があってしているのじゃないわ。リクのやり方って言うのかしら」

 タナトシュは、レインの言葉に大きな溜め息をついた。

「そうでしたか、しかし、レイン様の夫になられたいのであればその癖とやらは陛下の御前では控えられ方が宜しかろうな」

 レインはリクをチラッと見た。

「そうかもしれないわね……」

「わーったよ。ごめんなさい。俺が悪かった。これからは言葉使いに気をつけますよ」

 周りで、皆が笑った。タナトシュまで、ニヤッと笑っている。

「それで、リク殿、大戦争とは何のことでしょうか」

「多分、悪魔と戦う事になる。空と大地の門は開かなくちゃいけないんだ。でも、闇の世界の門まで一緒に開いちまう……」

 タナトシュの瞳がすぼめられた。

「悪魔と戦って勝てる見込みはおありなのか。普通の魔術師では太刀打ちできない。神の力が必要ですぞ」

 リクはほほ笑んでいる。

「神の力ね。でもさ、女神様は俺たちにこの仕事を押し付けたんだ。俺たちが勝たなきゃ、誰にも勝つことなんてできない」

「恐ろしくは無いのか……」

「恐ろしいよ、でも勝たなきゃ。この世界も、俺の母さんと父さん、友達の住んでる世界も終わっちまう。大地の妖精に伝言を頼んでる。それぞれの領域から援軍も来る」

「援軍ですか」

「ああ、軍隊さ。悪魔はおびただしい数になる。俺たちだけじゃ無理だ。空と大地の門から、奴らが向こうの世界に行くのも防がなきゃなんないしな」

「そうか……私も少しの助けにはなるということか……」

 そう言って、タナトシュは自分の手に握られた本を見つめた。

「……」

「タナトシュさん。何って言ったのさ」

 タナトシュは、小さく首を振った。

「いや、何も……さぁ、大地の城に参りましょう」












タナトシュは、いったい何と言ったのでしょう。

リクには聞こえていたのでしょうか?

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