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雨のリズム  作者: 海来
83/94

[83] 大地の王

リクとタカはいよいよ大地の城に到着しました。

他の旅の仲間は、間に合うのでしょうか?

 空の城へ、雲の城へ、緑の城へと皆を送り出してから、数日が経っていた。

 リクとタカの目の前に、大地の城が遠く見えていた。

 すり鉢状になった大きな窪地に、端を確かめる事の出来ないくらいに緩く、石で出来たスロープが下へと伸びていた。

 大地の城に入るには、どうやってもこのスロープを下りていかなければならないらしい。

 隠れる場所も、影すらないスロープを下るためには、大地の城に向かっている商人などに紛れるのが、得策だとタカは考えていた。先ほどから、ちらほらと前を通り過ぎる商隊の大小を目で追っていた。少年が二人入り込んでもおかしく見えない大商隊がいいのだが、なかなか眼鏡にかなうものは通らなかった。

「さ、いこ」

 呆気に取られているタカをよそに、リクは歩き始めた。

「おい。待てってリク。何の計画もなしに動くと、後で困るぞ、お前はいつだってそうなんだ。門のところで、通交証明を出せなんて事になったら、どうするんだ」

「どうもしないさ」

「こんな所で、俺はお前の尻拭いをする自信はないぞ。聞いてるのかリク」

 リクがいきなり立ち止まっったので、タカはリクの背中にぶつかって尻餅をついた。

「ばっ何やってる……どうした、リク」

 リクが、空を見上げている。

「帰ってきた……フィーナとフーミィだよ」

 タカも、空を見上げた。夕日を背に、何かが飛んでくるが、目を日の光に奪われて、判別はできない。

 っと、そのシルエットが、小さくなって後方の森に消えた。

 程なく、フーミィとフィーナがゆっくりと歩いてくるのが見えた。

「リク、お前の目は野生か……俺には見えなかったぞ」

「俺って、視力2.0以上あるんだわ。知らなかったのかよ。それに、暗いトコでもよく見えるって、それ野生なのかな」

「ばーか……うわっ」

 フーミィがいきないタカに飛びついてきた。

「ターカ、ただいまァ。フーミィ淋しかった。ターカも淋しかった」

 タカは、自分の腕をつかんで上目遣いに見上げてくるフーミィを、女性として意識しない様に踏ん張っていた。そうしていないと、腕に当たる弾力のある胸が気になって仕方なかったからだ。

「フーミィ、離れろって。ほら、人が見てるだろ、恥ずかしい真似はするな」

 タカのその言葉に、フーミィはすっと手を引いて、タカから身体を離した。その大きな真っ黒な瞳は、少し伏し目がちで悲しそうな影が映っていた。フィーナが、フーミィの頭をそっと撫でた。

「フーミィ……タカ様に会いたくて一生懸命に飛んできたのに、可哀相に」

「いいんだよ……僕が悪いんだから。タカは恥ずかしいのは嫌いなの」

 フィーナは、フーミィの頭を撫でながら、タカをグッと睨んだ。

「こんな事なら、緑の城に残って新王の花嫁にでもなれば良かったのに。ユウリィエン様も、それをお望みのはずなのに……」

 タカは、眉間にシワを寄せながら、何のことか分からないとでも言う様に首を傾げた。そして、もう一人、フーミィも同じ様に首を傾げていた。

「ユウリィエンがどうしたの。僕は彼の花嫁になんかならないよ。僕はターカのものなんだから」

「そうね。フーミィがそう望んだから、ユウリィエン様はあなたをタカ様の元に帰されたの。でも、タカ様がフーミィを大切にしないのなら緑の城でお妃様になったほうが良いかと思って」

「ダメだっ」

 いきなりタカが大声を出して、フーミィを引っ張った。

「フーミィは誰にも渡さない」

 フィーナがふっと笑った。

「初めから、素直にフーミィの帰りを喜んでくださればいいものを。ご心配には及びません、ユウリィエン様はフーミィの事は諦めて下さいましたから」

 リクが、タカの後ろでクククっと笑った。

「兄ちゃんさ。フーミィがその姿になった時点で、兄ちゃんはフーミィを女として愛してるって事だろうよ。さっさと認めりゃ簡単ジャン」

「うるさい」

「いてっ」

 リクの頭には、タカのゲンコツが落ちていた。

「くそ、いってーな……ところでさ、フィーナ、帰ってくるの速くね」

 フィーナが少し考えるような様子を見せた。

「リク様には、キートアル様の城に行くように言われていたのですけど、途中でキートアル様に出会ってしまって……ユウリィエン様にも見つかって……ですから、リク様の予言は当たっていなかったと言うことに……」

 リクは、黙ってフィーナを見つめていたが、ニッコリと笑った。

「そんなに気にしなくていいさ。フィーナが近いうちにキートアルの城に行くって事には間違いないんだって。今回じゃなかったみたいなんだけどね。ちょいと間違ったみたいだわ」

 フィーナの目がリクの笑顔を真っ直ぐに見つめる。

「本当ですか。でも、なぜ……」

「なぜかって、俺には見えるから。フィーナの笑顔と……いや、それ以上は秘密だな」

 リクは、笑顔をそのままに大地の城を振り返った。











「やめろ……近付くでない……ワシは、貴様などに屈しはせんぞ……」

 大きなビロード張りの椅子の肘掛に、身体を預けるように壮年の男が座っている。

 男の身なりは、誰が見ても身分の高い者であるのが分かる高級な布地で出来ており、立派に飾られていたが、滲み出る汗と、鋭い刃物で切られた多くの傷から流れる自身の血で、汚れきっていた。意識は朦朧としているのか、目が虚ろになっている。

 その男の周りを、ゆっくりと足音も立てる事無く回り続けるローブの人物は、フードを目深に被り、その目は見えていないが、口元には卑しい笑みを貼り付けていた。

「大地の王、そろそろお前も限界だろう。早く言ってしまえ、大地の紋章は何処にある。さァ、言ってしまえば楽にしてやる。拘束の呪文を解いて、傷の手当てもさせてやろう」

 ローブの人物に虚ろな目を向けながら、大地の王は固く口を閉ざした。への字に曲がった大地の王の口元を見て、ローブの人物はぺっと唾を吐きかけた。

「強情な奴よ。どの領域の紋章よりも先に手に入れようと、早くから乗り込んだものを……肝心の大地の紋章が隠されたままとは……何故だ。何故、紋章を隠した。何処へやった」

「……知……らぬ……しって……ても……教えは……せ……」

 大地の王が答えた瞬間、銀色に輝くナイフが宙を切った。

「ぐあァ……」

 大地の王の左頬がぱっくりと割れ、血が飛んだ。

 ローブの人物は、ナイフを投げつけた格好のまま、血管の浮いた手をブルブルと震わせていた。怒りにかられ、ナイフをもう一本手に取ったとき、ノックの音で我に返った。

「誰だ。陛下と私は執務中だと言ってあるはずだが」

「ガイダンでございます……」

 ノックの主が分かると、ローブの人物は軽く手を振った。すっと開いたドアから、顔色の悪い、表情の乏しい青年が入ってきた。身なりから、貴族らしい事は窺がえる。

「何の用だ」

 青年はぶるっと身を振るわせた。青年を見ている大地の王の目が、少しだけ見開かれた。

「ガ……イダ……ン」

 王の様子に一瞥をくれると、ローブの人物は軽蔑したような笑いを浮かべた。

「養子が気になるか。もう、お前のものではないわ。俺の下僕よ」

「ガイ……」

 大地の王が、養子であるガイダンの名を呼び終わる前に、ローブの人物によって座っていた椅子が蹴り上げられた。

「グァ……はァ……」

 大きな音と共に、大地の王は毛足の長い絨毯の上に転がった。ガイダンは、瞳を少し揺らした。

「…………」

 だが、何事もなかったように俯いてしまった。

「で、何の用だ。ガイダン」

「城門に、大地の魔術師と名乗る少年が来ていると。衛兵が報告してきました」

 ローブの人物の眉が、ピクッと上がった。

「大地の魔術師。何を証拠にそんな戯けた事を」

「大地の紋章を持っていると、言っているそうです」

「大地の紋章だと」

 ローブの人物は、忌々しそうに大地の王を見下ろした。

「大地の紋章に大地の魔術師……お前は、何を隠してるんだ」

 ボコッと言う音と共に、ローブの人物の杖で腹を殴られた大地の王は、身体を二つに折り曲げた。その目に浮かぶ涙が、痛みからなのか、悔しさからなのか。それとも、全く別のものからかは、誰にも分からなかった。











大地の王をいたぶるローブの人物。

そのしもべと言われた大地の王の養子、ガイダン。

リク達が乗り込もうとしている大地の城は、いったいどうなっているのか……

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