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雨のリズム  作者: 海来
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[72] ばばさまの木

緑の城に到着したフィーナとフーミィ。

突然に何かに呼ばれたフィーナは、自分ではどうする事も出来ぬまま、歩き始めた。

 緑の城には、移動の魔法を使いやって来た。到着して直ぐに感じたのは、城の中のほうが、城の外よりも緑が残っている事だった。とは言っても、枯れて死にそうになっている木々や草花がほとんどであることには変わりはなかった。

 ユウリィエンとキートアルは、緑の王である父親の様子を見るために、まず王の寝室に向かったが、フィーナとフーミィは客間に通されたまま、待たされていた。客間は、緑の城の二階にあったが、部屋の中央は丸くくり抜かれ、その中を一階からずっと上の階まで、一本の大きな太い木が伸びていた。

 勿論、その木にも生気はなく、死に掛けているのが分る。きっと、緑の領域がこんな状態でなければ、この大きな木は緑を豊かに茂らせ、芳しい香りの実まで実らせていたのかもしれない。そう思いながら、フーミィは大きな木を眺めていた。

 ふと横を見たフーミィは異変に気付いた。

「フィーナ、どうしたの?」

 フィーナと隣同士にソファーに腰掛けていたフーミィは、フィーナの身体が小刻みに震えはじめたのを感じた。

「フーミィ……何かが……呼んでる……身体が、身体が勝手に動く……」

 そう言ったと思うと、フィーナはすっと立ち上がり、歩き始めた。

「どこ行くのっフィーナ!」

「分からないのよっ呼ばれてる。何かに呼ばれてるのっ、フーミィ一緒に来て! 怖い!!」

 真っ青に顔色を変えたフィーナの後ろをフーミィは追いかけた。フィーナは緑の城に来るのは初めてだし、全く何も知らないと言っていたはずなのに、城内を全て知り尽くしたかのように、衛兵や人目を避けて進んでいく。

「フーミィ……わたしどうしちゃったのかしら……何に呼ばれてるの?」

 フーミィは、困ったような顔をしながら首を振った。

「分からないよ。でも、きっと悪いものじゃないよ。だって闇の妖精なんかだったら、フィーナにはわかるもん。ね、そうでしょう?」

「そっそうだけど……でも……」

「僕が一緒だから。絶対に一緒だから大丈夫だよ」

「……うん……」

 話しながら、二人はかなり長い階段を下りて来ていた。最後の段を下りた目の前に、木造りの大きな扉があった。フィーナの両手が本人の意思とは関係なく、扉に向かって伸ばされた。その手が、扉に触れないうちに、ギッギーと重い音をきしませ、扉が両方に開いた。

「勝手に開いたわ……」

 フィーナは、すっと歩き始め扉をくぐって行く。フーミィも、遅れないように後について入っていった。部屋の中は薄暗く、はっきりとは分からないものの、結構広い事は感じられる。

 扉からかなり入った所に、柔らかい緑の光を発する物体が浮かんでいて、その光は壁を浮かび上がらせることがない事からも、部屋の広さが伺えた。

「あれは?……」

 眉をひそめながら、フィーナは緑の光を発する大きなコイン型の物体にどんどん近付いていく。手は、前にのばされたままで、フィーナ自身には、下ろす事も上げる事も出来なかった。

『お前は、誰だ……』

 いきなり頭の中で響いた声に、フィーナは目を見開いた。

「何?……勝手に頭の中に話しかけないでっ」

『誰かと聞いたのだ。緑の魔術師でない者が、私の呼びかけに答えるなど、あってはならぬこと……お前は誰だ』

 フィーナは、フーミィを見つめた。フーミィには、声は聞こえていないらしく、フィーナの事を不思議そうに見つめている。

「大丈夫? 誰に話しかけられてるの? ここに誰かいるのかな?」

 フィーナは、目の前の緑の光を発している物体を、眼を凝らして見つめる。

「まさかっ。あなた緑の紋章?」

『緑の魔術師でもない者が、なぜ此処へきた』

「質問に答えてちょうだい。あなたは、緑の紋章なの?」

 緑の光が、ブーンと言う音と共に輝きを増した。

『こちらの質問がさきだ。お前は誰だ』

「そうね、そっちの質問が先だったわね。私は緑の魔術師の守り人フィーナよ。さあ、こっちの質問に答えてっあなたは緑の紋章?」

『緑の魔術師はどこにいる』

「……こっちの質問に答えるのよ。それが先」

『緑の魔術師はどこにいる』

「いい加減にしてって!!」

 フーミィが、フィーナを気遣って、そっと肩に触れた。

「フィーナ落ち着いて、きっと人間を相手にするようにはいかないんじゃないかな? って、思うんだけど……何て言ってるの?」

「緑の魔術師はどこにいるかって、そればっかりなの」

「なら、これはきっと緑の紋章なんだよ。じゃあ、緑の魔術師のいるところを教えてやればいいんだ。そして、一緒に来て助けてくれって頼んでみようよ」

 フィーナは、フーミィの言った事を心の中で思い返してから、口に出してみた。

「緑の魔術師は、いま、闇の世界にいるわ。あなたが緑の紋章なら……彼が帰ってくるところに連れて行ってあげる……どお?」

『緑の魔術師が、闇の世界へ……私は、緑の紋章。緑の魔術師の元へ連れて行け』

 フィーナが、フーミィに微笑みかけた。

「緑の紋章なんですって。ヒルートの所に連れて行って欲しいって」

 フィーナが言い終わると同時に、緑の紋章はフィーナの手の中に納まった。











「ねェ、フーミィ、さっきまでいた部屋に戻れるかしら……」

 フィーナは、緑の城の衛兵や使用人たちが行き交う廊下を、こっそり盗み見しながら不安げに言った。

「大丈夫だよ。どうどうとしていれば、誰も怪しまなよ……きっと……」

「そうね、そういう事にしておきましょう。他に方法はないもの。緑の紋章は黙ってしまったままだし、道案内もしてくれそうにはないものね」

 溜め息混じりに、フィーナは手の中にある緑の紋章を見つめた。フィーナは、肩から掛けたマントを片方だけ下ろして、見つからないように紋章を隠してから、さァっと声を掛け、背筋を伸ばして廊下の角を曲がって歩き始めた。どこをどう行ったらいいのか、思い出しながら、二人は周りの人間を気にも留めていない様子で歩いていた。

 少なくとも、二人はそのつもりだったのだが、周りの人間には、今まで見たことのない二人の10代の女性が身に着けているのは青と緑の衣裳は見た目には美しいとはいえ戦いの装束であり、そんな物に身を包み廊下を歩いている女性の姿は、否が応でも目に付いた。

 特に、青い装束は、キラキラと輝く何かの生き物のウロコで出来ているのだから、横を通る人は、必ず、それに見入ってしまうのだから仕方ない。衛兵の一人は、二人の皇子が連れ帰った客人が、部屋を離れてうろついていると、皇子に報告に走った。また別の衛兵は、二人の美しい女性の後ろを、少し離れてついて来ていた。

 フィーナとフーミィが客間に戻った時には、部屋の中でユウリィエンとキートアルが待ち構えていたのは、当たり前の事だった。ユウリィエンが、静かにフィーナを見つめた。

「フィーナ、どこへ行っていた? 父上を癒してくれると約束しただろう。私達が戻ってくるのも待てないほどの急ぎの用でもあったのか?」

 あくまでも優しく言うユウリィエンのエメラルドの瞳は、一つも笑っていなかった。フィーナは、見えていないとは分かっていても、手の中にある緑の紋章をしっかりと握リしめていた。と、その時、部屋の中央にある大きな木が、ユサユサと揺れて、枝から緑が芽吹き、見る見るうちに生気が満ち溢れ、枯れはじめていた枝はにょきにょきと伸びて、天井を支え、直ぐに数日前までの姿を取り戻していった。

 甘い香りが部屋に満ち溢れ、真っ赤な実がなっていた。部屋の中の全ての目が、大きな木に注がれた。

 キートアルが、そっと木に近付いて手を幹にあてがった。

「ばばさまの木の生命力が戻った。いったいどう言う事だ……」

 ユウリィエンが、大きな木とフィーナを代わる代わる見ている。

「フィーナ、そのマントの下で輝いているものは何かな……」

 フィーナは、ハッと息を呑んだ。マントの下に隠していた緑の紋章が、輝きを増し、マントを透かしてしまっていた。

「あっこれは……何でもないです……何でも……」

 ユウリィエンは、素早くフィーナに近付くと、マントを払いのけた。フィーナの手には、輝きを増した緑の紋章がきつく握られていた。

「まさかな……お前が、緑の紋章を盗み出そうとしていたとは……一体何のためにっ」

 ユウリィエンは、固く閉じたフィーナの手から緑の紋章をもぎ取った。

「っいた……あの、お願いです。緑の紋章を私に……貸して下さいっ」

 ユウリィエンは呆れたように溜め息をついた。

「この紋章は、貸してやれるような物ではない。この城と、領域を守っている大切な紋章なのだぞっ。何を血迷った事をっ」

 キートアルが、不思議そうな顔をしながら、兄の横に行って緑の紋章を見つめた。

「しかし、不思議ですね。緑の紋章がある地下室には魔法が掛けてある……というか、紋章自身が入る者を選ぶ。私は、父上と一緒に婚礼の前夜に入ったことがあるだけ……なぜ、フィーナが……」

「ああ、その通りだ……それに、私が持った瞬間に、輝きが薄れたのは……」

 部屋の中央の大きな木も、幾分、元気をなくしている様だ。フィーナは大きく息を吸った。これから言わなければならない事は、一気に言ってしまおうとでもするように覚悟を決めたのだ。

 そのフィーナを押しのけて、フーミィが前に出た。

「緑の紋章はね、緑の魔術師ヒルートの守り人を選んだんだ。ヒルートのところに連れて行けって言ってるんだって。ね、フィーナ」

 フィーナは、はァーと息をついた。

「ええ、そうね。領域の魔術師を連れ戻す為に……ユウリィエン様、お願いでございます。紋章を私にお預けください……」

 ユウリィエンは、大きな木に近付くとそっと幹に触れた。

「ばばさま……私はどうすればいい? 父上は床に伏せっておいでだし、母上は父上の事しか頭にない……どうすればいい?」

 ユウリィエンの言葉に呼応する様に、ばばさまと呼ばれた大きな木は、枝を伸ばして優しくユウリィエンの頭を抱いた。













 

 

 


ばばさまの木とは?

ユウリィエンはばばさまの木に抱き込まれて閉まった。

その手に、緑の紋章を握り締めたまま……

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