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雨のリズム  作者: 海来
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[67] 鍵

紋章の間に、入ることが出来た一行。

不信感を露にする空の王の取った行動は?

 スカイは、宥めるように父王の肩に手を置いて、そのまま後ろに下がらせた。

 直ぐにティルズが始めに飛び込んできて、ウィンガーが続き、シルバースノーが女王を抱えて入ってきた。

 空の王は、スカイの腕を引いて下がらせようとした。

「スカイ!! 危険じゃっ近付いてはならん。紋章を守れ!! スカイ!」

 ティルズが慌てて、王の前に跪く。

「陛下、女王様を思いのままに操っていた闇の妖精は、今眠っております。危険はございません。どうか、どうか、心をお鎮めくださいませ」

 ティルズをギロリと睨んだ空の王は、自分の手を懐に忍ばせた。シルバースノーは、女王を床に寝かせると、スカイに目を向けた後、ウィンガーをチラリと見た。

 スカイは、小さく頷いただけだった。その一瞬のすきにに、空の王が懐から銀の剣を出したのには、誰も気付いていなかった。

「悪魔め!!」

 空の王は、シルバースノー目掛けて、銀の剣を投げつけた。それは、止める間もなくシルバースノー目掛けて飛んでいく。

「スノー!!!!」

 スカイは、魔法でそれを止めようとしたが、間に合う事無く、剣はシルバースノーの胸に届いてしまった。

 カランッ

 銀の剣は、シルバースノーの硬いウロコに阻まれて、当たっただけで床に落ちてしまった。スカイは、慌ててシルバースノーに駆け寄り、ローショが後に続く。

「スノー大丈夫か……」

 ローショは、銀の剣を床から拾い上げた。

「シルバー様なら大丈夫かと思いましたが、一瞬ヒヤッといたしました」

 ローショは、銀の剣を父のティルズに渡した。ティルズは、それを捧げ持って王に渡す。

「……彼女は、シルバースノーでございます。竜人りゅうびととなって、この城に戻ってまいりました。詳細は私にも分かりませんが、スカイ様はご存知のようでございます」

 空の王は、手の中に戻った銀の剣をしげしげと見つめてから、シルバースノーに眼を向けた。シルバースノーは、説明をしているティルズに眼を向ける事無く、スカイを睨んだ。

「スカイっ、こんな物が私に通じないのは分かっているはずだわ」

 スカイは、ホッと胸を撫で下ろしながら、複雑な表情を隠せなかった。空の王、スカイの父は、息子の肩を揺らした。

「スカイ……これは、シルバースノーなのか……なぜ? 人間の姿に……」

「この件に関しては、後ほど、時間のある時にお話しいたします」

「いや、そんな訳にはゆかぬ。なぜじゃ、これまでワシが守ってきたこの部屋に、闇の妖精を連れて入った翼を持った化け物がシルバースノーじゃと言う……訳を聴かねばならぬのじゃ……その訳を……」

「ですから、それは後ほどっ」

「だめじゃっもしかすると、全てはまやかしかもしれぬ。スカイ、お前も、化け物のようなローショも、ティルズおぬしとて、女王に捕らえられ仲間になったのではないか?」

「父上……」

 空の王は、ゆっくりと空の紋章の方へ下がり始めた。それに従うように、側近たちも空の紋章の傍によっていく。

「守らねば……紋章だけは守らねば……この数日、ワシらだけで守ってきた。この期に及んで、魔物などに、化け物などに負けはせんぞ!!」

 空の王の目は、血走っていた。何日にも及ぶ、精神的なダメージは、空の王を追い込んでいたのだ。

 それが、息子のスカイを迎え、張り詰めていた糸が緩んだと思った後、直ぐに緊張が襲った為、冷静な判断力はなくなっていた。

「父上、聞いてください。私は父上をお助けする為に戻ったのです」

 スカイと空の王が向き合っている中、ウィンガーが一人、静かに動いた。スッと紋章の横から手を伸ばし、紋章の向きを変えた。

「何をする! ウィンガー、やはりお前は!!」

 空の王は、実の息子のウィンガーの首に手を掛け締め上げた。

「グハッ!!」

 ウィンガーが、父の手の中でもがいている。皆が、王の元に駆け寄ろうとした時、女王がゆっくりと起き上がった。

「ガハハハハッ!! 面白いものを見せてくれる。親が子を殺すのか。人間とは愚かな者よ。空の王、お前の苦悩は蜜の味じゃわ!!」

 女王は、立ち上がると王の横に瞬時に移動し、その手からウィンガーを奪い取ると空の紋章から離れた場所に陣取った。

 その素早さは、人間のものではなく、表情も既に人のそれではなかった。

「可愛い私の坊や。おおっ可哀相に、父に殺されかけたか。おもしろいなァ?」

 女王のその身体は、見る見る大きくなり、紋章の間の天井に頭が届くほどになった。

 着ていたドレスはボロボロの布切れと化し、露になった黄土色の皮膚は、ブツブツとおおきな水泡に覆われ、所々が破れて膿を垂らしていた。

 眼は真っ黒く、牙の間からチロチロと出る舌は汚らしい緑色をしていた。

「お前達は、最初から間違っているんだよ。俺はナ、闇の妖精なんかじゃないんだ。あとほんの少しで悪魔とお前らが呼んでる闇世界の生き物になれる。俺は悪魔になるんだよ。大馬鹿者が!!」

「悪魔……」

 部屋の中で、皆が息を呑む音が聞こえた。

「女王様を助けたいか? スカイ皇子? 義理の母なのに? この俺が入り込むよりも前に、お前の実の母に毒を盛ってた女を? 助けたいってか?」

 スカイの握った拳が、白くなった。

「今……何と言った……」

 天井近くから見下ろして、闇の妖精は大きく口を開けて笑った。

「おめでたい奴。俺がこの女を選んだ理由が、お前の母を毒殺したコイツの心の歪みなのさ。人間は醜い、自分の利益の為には、邪魔者は殺してしまえる」

「やめろっ!! 義母ははは、そんな人ではない。私を騙そうなど無駄なこと……お前らのやり口ぐらい、見当がつく!」

 スカイの叫び声に、闇の妖精に捕まえられていたウィンガーが、意識を取り戻した。ウィンガーは、自分を捕らえている生き物を見つめた。恐怖が沸き上がって来る。

「いっいやだァ〜〜〜おっおまえは? 何……あにうえ……助けて!!」

「ウィンガー!」

 闇の妖精は、フンと鼻を鳴らし、片手にぶら下げているウィンガーを見た。

「魔法が解けたか。まァ、お前の悪夢はこれからだ。たっぷり恐怖を味わうがいい。俺に美味しい恐怖と、肉体を提供して欲しいものだ。初めて食べる人の肉がこんな柔らかそうだとはな」

 ウィンガーが目を見開き恐怖におののき身体をぶるぶると震えさせた。

「ウインガー、大丈夫だ。そいつは自分で言っていたじゃないか。もうすぐ悪魔になるのだとな。闇の妖精は人の肉体までは喰らえない。お前は喰われたりなどしない。気持ちを強く持つのだ。すぐに助けてやる」

 スカイは、闇の妖精の方へじりじりと近寄っていた。シルバースノーとローショも、スカイを守るように脇を固める。スカイが、腰の剣に手を伸ばした瞬間、ゴゴゴゴゴッと轟音が鳴り響き、ガクンッと城が動き始めたのが分かった。

 空の王が、ガクガクと震えながら、空の紋章を元の場所に埋め込もうと押さえつけていた。

「何処へ行くつもりじゃ、何故? 勝手に動いてしまう? 何故じゃ!!」

 必死の形相の空の王は、こめかみに血管を浮かび上がらせている。その様子を見ていた闇の妖精が、大声で空の王を嘲笑った。

「ガハハハハッ! お前ら人間って生き物は、本当に愚かだ。存在の真の意味も分からぬままに、宝を守る。空の王よ、お前が守ろうとしている紋章の正体を知っているのか?」

 空の王は、血走った眼を闇の妖精に向けた。

「空の紋章は、我らの城の宝。浮遊城を支える柱のようなもの。無くてはならん、お前らなどには渡さんぞっ」

「けっ、やはりな、何も知らん。全ての紋章は、鍵なのだ。全ての始まりの時から終わりを告げるために用意された鍵。紋章は、世界を滅ぼすんだよ!!」

 スカイが、一歩前に出る。

「何をくだぬ事をっ!! その様な偽りを信じると思うな。お前の言う事など、全て嘘だ!!」

 闇の妖精は、ニヤリと笑うとスカイの前にウィンガーをぶら提げた。

「あまり、俺を怒らすな皇子様。俺は本当の事を言っている。この城が向かう先は、大地の城。そこで起きる事を知りたくないか? え?」

 スカイは、闇の妖精の誘いに乗りたくは無かったが、誰も知らない何かを、敵は知っているような気がした。

「何が……起きると言うんだ」

 闇の妖精は、もう一度ニヤッと笑った。

「空と大地の門が開くのさ。闇の世界の扉と共になっ。世界が始まった頃は、全ての世界が一つだった。ソラルディアにリアルディア、闇の世界、仲良くやってたのになァ」

「一つだった? だと……」

 スカイの直ぐ横に、ローショが寄った。

「確かに、世界は一つの頃があったと、父のトワイシィに聞いた事がございます」

「……」

 闇の妖精が大きく口を開いた。汚い緑色の舌が垂れ下がる。

「そっちの奴は、少々賢いようだな。そうそう、世界が一つの頃は、楽しかった。悪魔は人間の恐怖に肉体、喰らいたい放題だった。なのに……神々の奴らが、くそっ鍵を掛けちまいやがって」

 闇の妖精は、吐き捨てるように言った。

 スカイの声が上擦った。

「そっそれが……その鍵が……紋章なのか……」

 闇の妖精の顔が、一気にスカイに近付いた。口から放たれる悪臭に、スカイは顔を背けそうになりながらも、隙を作らないように踏ん張らなくてはならなかった。

「そうだよ!! その鍵が紋章だ。さァ大地の城へ旅にでるぞっ空の紋章よ。早く行こうじゃないか。お前も待っていただろう、永い永い時をナァ」

 その言葉と同時に、空の王が最後の力を振り絞った。

「させはせんぞ!! この城は守ってみせるっ!!」

 そう叫んだ瞬間、空の王はカッと目を見開いたまま、紋章の上に手を置いて動かなくなった。

「父上!!!」

「陛下!!」

 みなの声が重なる中、空の王はその手を紋章から放し、ずるりと床に倒れこんだ。ティルズが王の元に駆け寄った。

「陛下っ直ぐに癒します。陛下っしっかりなさいませっ……」

 ティルズは、癒しの魔術を掛け始めた。側近達も、ティルズに加わった。スカイもローショとシルバースノーも、王の癒しはティルズ達に任せなくてはならないのが、歯がゆかった。

 自分達なら、より早く癒す事が出来るとわかっている。しかし、目の前には、ウィンガーをぶら提げた闇の妖精が立っているのだから、油断はできなかった。

 空の王が癒される様子を見つめる闇の妖精の姿が、ゆらりと揺れた。

「あなた……陛下……あなた……」

 その醜い姿からは想像できないような、か細く少し高めの柔らかい声が聞こえた。闇の妖精の手の中でもがいていたウィンガーが目を見開く。

「母上っ母上っ、なのですか?」

 闇の妖精が、自分の手の中を見た。

「ウィンガー? 何を……あっあっわたくしは……」

 闇の妖精は、ウィンガーを床にそっと降ろした。

「母上、早く闇の妖精を身体から追い出してください。元の母上に戻って!!」

 闇の妖精は、苦しそうな表情をすると、首を振った。

「ウィンガー、愛しい子。愚かな母を許して……」

「どういうこと? 何を許せって言うの」

「父上を、陛下を愛していました。あなたの兄上の母を疎ましく思うほどに……いなくなってしまえと何度も何度も願ったのです。きっと、わたくしはその時に……悪魔に心を売ったのです」

 ウィンガーの頬を涙が伝った。

「ははうえ、何故……」

 闇の妖精は、床に横たわる空の王を見つめた。

「スカイ皇子、わたくしを許してくれとは申しません。ですが、この子だけは、ウィンガーだけは恨まないで欲しい……」

 ウィンガーが手を広げ、闇の妖精に近寄っていく。

「母上、大丈夫です。さァ、元の姿に戻って、さァもう大丈夫です。兄上だって許してくださる、きっと」

「ウィンガーっわたくしに近寄ってはなりません。もう、無理なのです。これでお別れ……最後に、ウィンガー……お願い、母をこのまま殺して……もう一度、悪魔などに心を奪われる前に……」

 ウィンガーは、闇の妖精に駆け寄った。

 スカイが叫ぶ。

「ウィンガーっ行ってはいけない戻れ!!」

 スカイの声は、ウィンガーには届かない。

「ははうえ、そんな事はできない。頑張れば、元に戻れるのです、ははうっ」

 叫んでいたウィンガーの首に、悪魔の親指と人差し指の爪が掛かった。

「グワハッ! かわいい子。俺を殺さなかった事を後悔させてやろう」

「ぐっ……ぐふっ……」

 ウィンガーの足が、床から持ち上がった。

 首に食い込んだ爪は、ウィンガーの首に傷を負わせ、血を滴らせた。

 その時、また、スカイの頭の中に声が響いた。

『スカイ、受け取るのです』

『何?……何を受け取れと……』

 スカイは、声が聞こえると同時に、空の紋章を振り返った。

 自分と紋章を繋ぐ光の中を、一筋の青い輝きが移動してくるのが見えた。

『空の紋章っお前は、鍵なのか……世界を繋ぐ門の鍵なのかっ』

『……』

『またか、何も教えないつもりなのだな』

『……』

 何も聞くことが出来ないまま、青い輝きは、スカイの手の中に納まった。

「こっこれは……剣?」

 スカイの手に握られているのは、持ち手が青と白が混ざり合うように流れ鋼色に変わった。刀身は大きな鳥の羽の形をしていて、鋼色に輝いていた。

『さァ、魔物を倒すのです』

『これは、何だ……』

『誓いの剣、それを使うことで、あなたは私と誓いを立てるのです』

『何も教えてくれないお前などと、誓いなど立てられん』

『ならば、あなたの弟は死ぬまで、魔物の手によって、永遠の苦痛を与えられるでしょう』

『永遠の苦痛……お前に心と言うものは無いのかっ』

『私は、人ではない』

『……』

 ほんの一瞬の、心の中の会話が終わりを告げた。

 ローショとシルバースノーが付いて行く事も敵わぬほどの速さでスカイが動いた。

「うおォォォ〜〜〜!!!!」



















誓いの剣は、スカイにとって良いものなのか……

不安を抱いたまま、スカイは弟ウィンガーの為に、悪魔に戦いを挑む。

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